逮捕中在庁略式起訴

逮捕中在庁略式起訴という処分をご存知でしょうか?

 

逮捕中在庁略式起訴とは、文字通り、被疑者の逮捕中に検察官が略式起訴することです。略式起訴をしたその日のうちに略式命令が発付され釈放されます。罰金は釈放後に納付することになります。

 

通常、検察官による起訴は、略式起訴にせよ正式起訴にせよ、勾留後、それも勾留19日目とか20日目といった満期日当日やその直前に行われます。

 

起訴後は原則として被告人の取調べを行うことはできません。取調べ以外の捜査も通常は予定されていません。そのため、検察官は、被疑者の取調べ等の捜査を一通り終えてから起訴します。

 

そのため、起訴のタイミングは必然的に満期日近くになることが多いのです。

 

一方、逮捕中在庁略式起訴では、逮捕期間中に略式起訴までやってしまいます。逮捕の期間は最長3日間しかありません

 

逮捕後わずか3日間で必要な捜査を遂げるのは決して容易なことではありません。もちろん被疑者を逮捕する前から、関係者の事情聴取などの捜査は始まっているのでしょうが、被疑者の取調べは逮捕後がメインになりますので、やはり3日間ではこころもとないでしょう。

 

検察庁の統計を見ても、逮捕中在庁略式起訴に付された事件は、全体のわずか0.6%に過ぎません(平成27年版検察統計年報)。

 

弁護士としても、このような処分を経験した方はそれほど多くはいないと思われます。このコラムの筆者(弁護士 楠 洋一郎)もこれまで500件以上の刑事事件を取り扱ってきましたが、逮捕中在庁略式起訴を経験したことは一度もありません。

 

ところが、最近、ご依頼者が危うく逮捕中在庁略式起訴になりかけたことがありました。

 

児童買春の事件で、ご依頼者が逮捕されましたが、逮捕翌日、検察官の取調べを受け、勾留請求されず釈放されることになりました。

 

このような場合、通常、検察官の取調べ(弁解録取)を受けた当日に釈放されます。ところが、この検察官は今日は釈放しないと言ったのです。

 

私が理由を確認したところ、もう1日逮捕の期間を延ばし、翌日、逮捕中在庁略式起訴をした上で釈放するとのことでした。

 

逮捕中在庁略式起訴をされれば罰金前科が確定してしまいます。このご依頼者は医療系の国家資格を持っていましたが、罰金前科がつくと、資格に基づく活動ができなくなる可能性がありました。釈放されるといって喜んでいる場合ではありません。

 

私は、検察官からその話を聞きその場で口頭で抗議しました。さらに、20分程度で抗議書を書き上げ、検察官にFAXしました。

 

書面で強調したポイントは、

・被疑者は、弁護士を通じて謝罪・示談の申入れをしていること

・検察官としては、まずは、被害児童の両親に弁護士の申入れを取次ぎ、その後の謝罪や示談の状況を踏まえて終局処分を下すべきであること

・それらの要素をふまえず、逮捕中在庁略式起訴をするのは、被害者側の意思に反する可能性も否定できず、許容されないこと

以上の3点です。

 

結果的に、検察官は、逮捕中在庁略式起訴の方針を撤回し、ご依頼者は、その日のうちに処分保留で釈放されました。

 

先ほど述べたように、逮捕中在庁略式起訴の処分がとられることはめったにありません。ではなぜこの検察官はそうしようとしたのでしょうか?

 

検察官が逮捕中在庁略式起訴にする方針を決めたのは3月末でした。この3月末というところがポイントです。3月末といえば検察官の異動の時期です。おそらく、この検察官は自分が異動する前に、手っ取り早くこの事件を片付けたかったのでしょう。

 

案の定、その検察官は3月末をもって異動になり、4月1日から別の検察官がこの事件を担当することになりました。その後、私が被害児童のご両親と示談を締結し、この事件は最終的に不起訴処分となりました。ご依頼者もこれまで通りの仕事を継続することができるようになりました。

 

もしも弁護士をたてていなければ、あるいは、弁護士が迅速に動いていなければ、今頃、罰金前科がついてこれまでの仕事を続けることができなかったかもしれません。このような例は極端にしても、3月末の異動の時期が迫ってくると、検察官から示談書の提出期限を間近の日に設定されたり、対応に変化がみられることが少なくありません。

 

このような対応の是非はともかくとして、弁護士としては、そのようなことがあり得るということを想定した上で、弁護活動をしていく必要があるでしょう。

 

 

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