【刑事裁判】伝聞法則について弁護士がわかりやすく解説

このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しています。

 

 

 

 

伝聞法則は刑事裁判の基本ルール

1.伝聞法則とは?

伝聞法則とは伝聞証拠を刑事裁判の証拠から排除するためのルールです。英米法を中心として諸外国でも広く認められている刑事裁判の基本的な考え方です。

 

 

人の供述を内容とする証拠のことを供述証拠といいます。供述証拠のわかりやすい例として被害者や目撃者の供述調書が挙げられます。

 

 

供述証拠のうちその供述の内容が真実であることを立証するために用いられる証拠を伝聞証拠と言います。

 

 

例えば、「犯人は白いTシャツを着ていました」という目撃者の供述調書を、「犯人が白いTシャツを着ていた」ことを立証するために用いる場合、その調書は伝聞証拠になります。

 

 

伝聞証拠は原則として証拠能力が認められません。言い換えると、裁判の証拠にすることができないのです。これが伝聞法則です。

 

 

例えば、検察官が被害者の供述調書を証拠調べ請求しても、弁護人が同意しなければ証拠とすることができません。同様に弁護人が証拠調べ請求をした伝聞証拠も、検察官の同意がなければ原則として証拠とすることはできません。

 

 

2.伝聞法則の趣旨は?

供述証拠の内容が常に真実であるとは限りません。上の例で言うと「犯人は白いTシャツを着ていました」という目撃者の供述が常に正しいとは言えません。

 

 

目撃者の見間違いや記憶違いの可能性もあります。取調べの際に「白いワイシャツを着ていました」と言おうとして、誤って「白いTシャツを着ていました」と言ってしまったかもしれません。

 

 

このように供述証拠は知覚⇒記憶⇒表現の各段階で間違いが生じるおそれがあります。意図的に事実を誇張したり歪曲して供述している可能性もあります。そのため、伝聞証拠に基づいて事実認定をすると誤った裁判になってしまうおそれがあります。

 

 

 

間違い等の種類

①知覚

見間違い、聞き間違い

②記憶

記憶違い

③表現

言い間違い

④その他

誇張や歪曲

 

 

これに対して、伝聞証拠の供述者自身が「証人」として出廷した場合は、その証人に対して反対尋問をすることによって、見間違いや誇張等がないかをチェックすることができます。

 

 

反対尋問によるチェックの機会を保障するために、伝聞証拠は同意がない限り証拠能力がないとされているのです。

 

 

【伝聞法則】検察側の供述調書を不同意にしたらどうなる?

検察官が証拠調べ請求をした供述調書について弁護人が不同意の意見を述べると、伝聞法則により、原則としてその調書を裁判の証拠とすることはできなくなります。

 

 

もっとも、検察官は対抗策として供述者の証人尋問を請求することができます。例えば、弁護人が目撃者の供述調書について不同意の意見を述べた場合、その調書を証拠とすることはできませんが、検察官は目撃者自身の証人尋問を請求することができます。

 

 

証人尋問の請求に対して、弁護人が「不同意」の意見を述べることはできません。証人が出廷すれば反対尋問の機会が保障されるからです。

 

 

例えば、目撃者が証人として出廷すれば、目撃者の視力、周囲の明るさや対象との距離、障害物の有無などを反対尋問によってチェックすることができます。

 

 

弁護人の反対尋問の結果、裁判官が「この目撃者は信用できない」という心証を抱くかもしれません。

 

 

これに対して、供述調書の取調べだけでは反対尋問をすることができず、内容の正しさを検証することができません。そのため、検察官が供述調書を証拠調べ請求しても、弁護人の同意がない限り証拠とすることができないのです。

 

 

【伝聞法則】一部のみ不同意にしてもよい

証拠書類について不同意の意見を述べる場合、書類の全部を不同意にしても、一部を不同意にしても構いません。

 

 

一部不同意の場合は、検察官(弁護人)は、不同意部分をマスキングした証拠書類の抄本を裁判所に提出します。不同意部分が裁判官の目に入ることはありませんので、事実認定の基礎になることもありません。

 

 

検察官が証拠調べ請求した供述調書を全面的に不同意にすれば、検察官は供述者の証人尋問を請求するでしょう。

 

 

例えば、被害者の供述調書について弁護人が全面的に不同意にすれば、被害者が証人として出廷することになります。

 

 

被害者が法廷で被害を受けた状況について涙ながらに証言すると、裁判官(裁判員)の事件に対する見方が被害者寄りになってしまうことがあります。

 

 

一部不同意であれば、不同意にした部分の内容や範囲にもよりますが、検察官が証拠調べ請求を撤回し、証人尋問も請求しない可能性が高くなりますので、上記のようなデメリットを回避することができます。

 

 

【伝聞法則の例外】被告人の供述調書について

被告人の供述調書については、一定の要件を満たしていれば伝聞法則は適用されません(伝聞例外)。そのため、弁護人が不同意にしても証拠として採用されることになります。

 

 

【被告人供述調書が伝聞例外となる要件】

(1)被告人に不利益な事実の承認を内容とする供述

⇒供述の任意性に疑いがない限り伝聞例外

⇒証拠になる

 

(2)(1)以外の供述

⇒供述が特に信用すべき情況の下にされた場合は伝聞例外

⇒証拠になる

 

 

第三者の供述調書が被告人にとって不利なものである場合は、弁護人はその調書を不同意にします。そうすると検察官は対抗策として、供述者の証人尋問を請求し、弁護人は法廷で反対尋問を行います。

 

 

これに対して、「被告人の」供述調書が「被告人」にとって不利なものである場合、弁護人が自分が弁護している被告人に反対尋問することは予定されていないので、伝聞法則の例外とされています。

 

 

もっとも、任意にされたものでない疑いのある自白は証拠とすることができないため、(刑訴法319条1項:自白法則)、これに準じて、任意性に疑いのある不利益供述は証拠とすることはできません。

 

 

【刑事訴訟法】

第三百十九条 強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。

 

 

被告人の供述調書が被告人にとって「有利」なものである場合は、検察官による反対尋問が必要になりますが、その供述が特に信用すべき状況でなされた場合は反対尋問でチェックする必要性が乏しいため、証拠能力を有するとされています。

 

 

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