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堕胎罪とは?中絶と殺人の違いや堕胎罪との関係について

堕胎罪とは

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

堕胎とは

「堕胎」(だたい)とは次の2つのいずれかをいいます。

 

 

①自然の分娩期より早く、人為的に胎児を母体の外に出すこと

②母体内で胎児の生命を失わせること

 

堕胎罪とは

堕胎は刑法で処罰されています。堕胎をする主体や同意の有無によって、次の4つの犯罪があります。

 

 

1.堕胎罪

2.同意堕胎罪

3.業務上堕胎罪

4.不同意堕胎罪

 

これから個別に解説していきます。

 

 

1.堕胎罪

妊婦が薬物を飲むなどして自分で堕胎したときは堕胎罪が成立します。罰則は1年以下の懲役です。

 

 

2.同意堕胎罪

妊婦以外の第三者が、妊婦の依頼(嘱託)を受けて、または、妊婦の承諾を得て堕胎させると同意堕胎罪になります。罰則は2年以下の懲役です。

 

 

堕胎行為によって妊婦を死傷させた場合は同意堕胎致死傷罪になります。罰則は懲役3か月~5年です。たとえ堕胎が未遂であっても、妊婦にケガをさせた場合は、致傷罪が成立します。

 

 

第三者に堕胎を依頼したり承諾した妊婦については、通常の堕胎罪が成立します。

 

3.業務上堕胎罪

医師、助産師、薬剤師、医薬品販売業者が、妊婦の依頼(嘱託)を受けて、または、妊婦の承諾を得て堕胎させると業務上堕胎罪になります。罰則は懲役3か月~5年です。

 

 

堕胎によって妊婦にケガをさせた場合は業務上堕胎致傷罪になります。罰則は懲役3か月~15年です。堕胎によって妊婦を死亡させた場合は業務上堕胎致死罪になります。罰則は懲役3年~20年です。

 

 

医師には歯科医師は含まれません。また、医師、助産師、薬剤師、医薬品販売業者は免許または許可を受けた者に限られます。ニセ医者が堕胎させた場合は、業務上堕胎罪ではなく同意堕胎罪が成立します。

 

 

これらの者に堕胎を依頼したり承諾した妊婦については、通常の堕胎罪が成立します。

 

 

4.不同意堕胎罪

妊婦の依頼も承諾もないのに堕胎させると不同意堕胎罪が成立します。罰則は懲役6か月~7年です。女性を妊娠させた男性が、知らない間に薬品を飲ませる等して勝手に中絶させると不同意堕胎罪になります。

 

 

堕胎させた時点で不同意堕胎罪は既遂になっているので、その後に女性の承諾があったとしても犯罪の成否に影響はありません。

 

 

不同意堕胎罪は、妊婦が知らない間に堕胎させるという点で危険性が高いことから、他の堕胎罪と異なり未遂であっても処罰されます。

 

 

中絶は殺人罪になる?

中絶をしても殺人罪にはなりません。なぜなら、刑法上、胎児は人ではなく母体の一部とされているからです。

 

 

もっとも、中絶により母体外に出された胎児に生命があれば、人として保護されますので、その時点で殺害すれば殺人罪になりますし、遺棄して死なせてしまうと保護責任者遺棄致死罪になり得ます。

保護責任者遺棄(致死)罪について弁護士が解説

 

中絶は堕胎罪になる?

犯罪が成立するための要件を構成要件といいます。

 

 

中絶は自然の分娩期に先立って胎児を母体から出すことですので、堕胎罪の構成要件を満たしています。そのため、原則として中絶は堕胎罪にあたります。

 

 

とはいえ、日々病院で人工妊娠中絶が行われているにもかかわらず、医師が業務上堕胎罪で逮捕されたり、起訴されたという話は聞きません。

 

 

これは、「母体保護法」という法律によって、一定の要件に該当する場合は違法性がないものとして、堕胎罪の成立が否定されるためです。

 

 

考え方としては正当防衛と同じです。正当防衛が問題になるケースでも、形式的には暴行罪や傷害罪の構成要件を満たしますが、一定の要件に該当することによって違法性がないものとされ、暴行罪や傷害罪の成立が否定されるのです。

 

 

母体保護法の定める人工妊娠中絶の要件は次のとおりです。

 

①胎児が母体外で生命を保続することができない時期に行われること

②医師会の指定する医師によって行われること

③次のいずれかに該当すること

A)妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの

B)暴行・脅迫によってまたは抵抗もしくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの

④本人及び配偶者の同意があること

 

 

①の「母体外で生命を保続することができない時期」については、厚生労働省の通知によって、妊娠満22週未満が基準とされています。

 

 

堕胎罪の刑事弁護

堕胎罪のなかで刑事事件になりやすいのが不同意堕胎罪です。医師が交際女性に子宮収縮剤を飲ませて流産させ、不同意堕胎罪で逮捕・起訴された事件は、マスコミによって広く報道されました。

 

 

堕胎罪は、主として胎児の安全を保護する犯罪ですが、妊婦の安全をも保護しているため、女性と示談が成立すれば、逮捕回避や不起訴の可能性が高くなります。

示談の相談は弁護士へ

 

 

堕胎後に女性の承諾があったとしても、犯罪自体は成立しているため、女性の気が変わらないうちに示談をしておいた方がよいでしょう。

 

 

まずは刑事事件の経験豊富な弁護士にご相談ください。