覚せい剤

このページはウェルネス法律事務所の弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

覚せい剤と刑罰

覚せい剤事犯の刑罰は、覚せい剤取締法違反という法律によって、以下のように定められています。

 

 

営利目的なし

営利目的あり

使用

10年以下の懲役

年~20年の懲役

*情状により500万円以下の罰金を併科

所持

譲渡・譲受

輸出・輸入・製造

年~20年の懲役

年~20年の懲役または無期懲役

*情状により1000万円以下の罰金を併科

*覚せい剤は没収されます。

 

覚せい剤と逮捕【総論】

2017年に処分された覚せい剤取締法違反で、被疑者が逮捕されたケースは72%です。そのうち99%の被疑者が勾留されています。勾留は原則10日ですが最長20日まで延長可能です。覚せい剤取締法違反で勾留された被疑者のうち60%が勾留を延長されています。

 

*上記の数値は2017年検察統計年報に依拠しています。

 

それでは覚せい剤事件の類型ごとにみていきましょう

 

覚せい剤使用と逮捕

覚せい剤使用のケースでは、現行犯逮捕はありません。警察はまず被疑者の尿を採取します。(その後、)尿は科学捜査研究所に送られ、覚せい剤の成分が含まれているか鑑定されます。もし覚せい剤の成分が含まれていれば、通常逮捕されることになります。

 

覚せい剤所持と逮捕

覚せい剤所持のケースでは、使用と異なり現行犯逮捕が基本です。家宅捜索や職務質問、所持品検査をきっかけとして、捜査員が、被疑者の自宅や車の中から覚せい剤と思われるものを発見すれば、その場で、検査キットを使い簡易鑑定を行います。もし陽性反応が出れば被疑者を現行犯逮捕します。

 

覚せい剤譲渡・譲受と逮捕

覚せい剤の使用や所持で逮捕された第三者が、「○○さんからもらいました。」とか「○○さんに売りました。」等と話しており、電話番号等からその人物を特定できるときは、覚せい剤の譲渡や譲受で逮捕される可能性が高くなります。

 

覚せい剤輸入と逮捕

覚せい剤を所持して日本に入国した場合、税関職員が発見すれば、簡易鑑定をします。そこで覚せい剤の成分が検出されれば、その場で本人を現行犯逮捕します。

 

日本から国際郵便で覚せい剤を輸入したときは、税関職員が発見すれば、税関の分析部門で鑑定を行い、覚せい剤の成分が検出されれば、荷物の受取人を通常逮捕することになります。

 

覚せい剤と再逮捕

所持していた覚せい剤の一部を使用したケースでは、まず、押収した白色粉末について簡易鑑定が行われます。陽性反応が出た場合、覚せい剤所持で現行犯逮捕されます。その後、警察署で尿をとり、尿から覚せい剤の成分が検出されたときは、覚せい剤の使用で再逮捕されます。

 

覚せい剤と起訴

覚せい剤の使用

尿鑑定で陽性反応が出れば、起訴されることになります。一人で使用したケースで余罪もなければ、勾留延長されずに最初の10日勾留の間に起訴されることも少なくありません。

 

覚せい剤の所持

鑑定で覚せい剤の陽性反応が出れば、原則として起訴されます。

 

不起訴になる例としては、覚せい剤を全て使い切っており、パケにごく微量の覚せい剤が付着していただけの場合や、同居人と一緒に逮捕されたケースで、もっぱら同居人が覚せい剤を管理しており、本人は覚せい剤がどこにあるか全く知らなかったケースが挙げられます。

 

覚せい剤の所持+使用

覚せい剤所持で起訴された後に、使用で追起訴されることが多いです。覚せい剤所持の勾留期間を延長した上で、所持と使用を同時に起訴することもあります。

 

覚せい剤の譲渡・譲受

譲渡・譲受のケースでは、「○○さんにもらいました」といった第三者の供述しか証拠がない場合が多いです。このようなケースでは、黙秘することにより、嫌疑不十分で不起訴になる余地が十分にあります。覚せい剤犯罪の中では最も不起訴になる確率が高いといえるでしょう。

 

ただ、自白調書を取られてしまえば起訴される可能性が高くなりますので、逮捕直後から弁護士のサポートを受けるべきです。

 

覚せい剤の輸出入

鑑定で覚せい剤の陽性反応が出れば、通常、起訴されます。覚せい剤を所持して日本に入国しようとしたケースでは、被疑者が「覚せい剤であることを知らなかった」と主張するケースが多いですが、そのような主張をしたとしても起訴されることが多いです。

 

覚せい剤の認識があったか否かについては、裁判で争うことになります。営利目的の輸出入は裁判員裁判で審理されます。逮捕直後の段階から裁判員裁判の経験豊富な弁護士に依頼した方がよいでしょう。

 

覚せい剤と執行猶予

覚せい剤の使用や所持のケースで、営利目的がなく、薬物犯罪の前科がなければ、起訴されても執行猶予になる可能性が高いです。判決は懲役1年6か月・執行猶予3年程度になります。

 

薬物犯罪の前科があれば、実刑判決の可能性が高くなります。特に、執行猶予中のケースでは、実刑判決になる可能性が非常に高いです。

 

営利目的が認められるケースでは、初犯であっても実刑になることがあります。特に営利目的輸出入のケースでは、初犯であっても相当長期の実刑になるでしょう。覚せい剤の所持量が1キロを超えると7年以上の実刑になる可能性が高いです。

 

他方で営利目的輸出入の場合は、「被告人がカバンの中に覚せい剤が入っていると知っていたとはいえない」として無罪になった事例も数多くでています。

 

実刑を回避したいのであれば、覚せい剤の使用や所持のように「罪を認めた上で執行猶予を目指す」というよりは、「最初から無罪を主張する」という弁護戦略で臨むことになるでしょう。

 

覚せい剤と一部執行猶予

平成28年6月から一部執行猶予の制度が始まりました。一部執行猶予とは、実刑の一部について執行を猶予することです。例えば、「懲役2年・そのうち懲役6月の執行を2年間猶予する」という判決の場合、1年6ヶ月は刑務所で服役することになりますが、残りの6ヶ月は、社会の中で生活することができます。

 

従来であれば、執行猶予期間中や刑務所から出所して間もないうちに覚せい剤犯罪を犯した場合、仮釈放を得られるまでは刑務所で服役するしかありませんでした。今後はこのようなケースであっても、一部執行猶予が認められれば、服役期間を短くすることが可能です。

 

一部執行猶予は「刑務所よりも社会の中で更生させることが適当」と判断された場合に適用されます。そのため、本人に薬物更生プログラムを受ける意思があることや周囲のサポート体制が整っていることを弁護士が主張・立証し、「社会生活を営みながら覚せい剤への依存を克服できる」ということを裁判官に納得してもらうことが必要です。

 

覚せい剤事件の弁護方針(罪を認める場合)

(1)保釈

覚せい剤は、小分けにして保管されており、トイレに流すなどして証拠隠滅することが容易です。また、本人が、覚せい剤の取引相手と口裏合わせをすることも考えられます。

 

そのため、覚せい剤事件の被疑者は、「証拠隠滅のおそれが高い」として逮捕・勾留されやすく、勾留後に、弁護士が釈放させることも容易ではありません。

 

そこで、釈放に向けた活動としては起訴後の保釈に重点を置くことになります(起訴「前」に保釈を利用することはできません)。覚せい剤は依存性が高いため、裁判官は、「保釈すればまた薬物に手を出すのではないか?」と考えます。

 

そのような疑いをもたれないよう、本人をしっかり監督できる人に身元引受人になってもらうことが必要です。初犯の方の場合、起訴前から保釈の準備をしておけば、起訴直後の保釈も十分に可能です。

保釈をとる

 

(2)覚せい剤の入手ルートを包み隠さず話す

覚せい剤使用者の中には、入手ルートについて言葉を濁す人もいます。しかし、入手ルートについてあいまいな供述をしていると、裁判官に、「覚せい剤にまだ未練があるのではないか?」と思われてしまいます。

 

違法薬物と完全に縁を切るためには、裁判官の前で入手ルートについて知っていることを洗いざらい話し、身近に薬物がある環境と決別することが必要です。

 

【執行猶予を獲得するために】

被告人質問の際、弁護士が本人に入手ルートについて質問し、答えてもらいます。

 

(3)第三者の援助を受ける

薬物犯罪は、他の犯罪に比べて、再犯率が非常に高いです。依存症になってしまうと、自分の力だけで立ち直るのは困難です。専門の医療機関での治療、ダルク等の回復支援施設への入所、自助グループへの参加などを検討した方がよいでしょう。

 

これらの取組みは保釈後に始めることになります。保釈前は、留置場への出張カウンセリングやSMARPP等のワークブックを活用します。

 

【執行猶予を獲得するために】

弁護士が、医療機関の受診証明書を証拠として提出したり、医師やカウンセラーに情状証として出廷してもらいます。

 

(4)家族にサポートしてもらう

薬物依存から立ち直るためにはご家族の支援が不可欠です。ご家族にも薬物関連の勉強会に参加してもらい、薬物依存への適切な対処法を知ってもらいます。

 

薬物へ走る人のなかには、仕事や家庭などに問題を抱え、大きなストレスにさらされている方も少なくありません。ご家族には、最も身近な存在として、本人に寄り添い、サポートしてもらいます。

 

覚せい剤はある程度の現金がないと手に入れることはできないため、ご家族が本人の金銭管理をすることも効果的です。

  

【執行猶予を獲得するために】

裁判の際、ご家族に情状証人として出廷してもらい、どのように本人を監督していくのかについて弁護士が質問します。

 

(5)組織から離脱する

暴力団や密売グループの一員として、営利目的で覚せい剤を所持したり、譲渡していた場合は、組織と完全に縁を切ることが必要です。そのためには、組織について知っていることは全て話し、進んで捜査に協力すべきです。携帯電話は解約し、組織と連絡がとれない状態にしてもらいます。

 

【執行猶予を獲得するために】

弁護士が、電話番号の変更書類を証拠として裁判所に提出します。被告人質問の際、本人にグループとは縁を切ることを宣言してもらいます。

 

覚せい剤事件の弁護方針(無罪を主張する場合)

(1)違法捜査を理由とする証拠排除により無罪を主張する

警察が覚せい剤を押収したり、尿を採取する過程で、違法捜査があれば、人権保障などの見地から、押収した物やそれに基づき作成された書類を裁判の証拠として使えなくなる場合があります(違法収集証拠の排除)。違法捜査の例として、以下のようなケースが考えられます。

 

①警察官が強制的に本人の衣服を脱がせ覚せい剤をとりあげたケース 

②本人が拒絶しているのに、警察官が令状なしに本人の自宅に立ち入り、部屋の中を探索し覚せい剤をとりあげたケース

③長時間にわたって、本人を警察署に留め置き、がまんできずに出した尿を採取したケース

 

これらのケースでは、検察官は押収した覚せい剤や尿の鑑定書を裁判の証拠として提出することができなくなります。

 

押収した覚せい剤は被告人が覚せい剤を所持していたことを証明する最も重要な証拠です。また、採取された尿の鑑定書は、被告人が覚せい剤を使用したことを証明する最も重要な証拠です。

 

裁判でこれらの証拠を使えなければ、検察官にとっては大きな痛手です。結果的に無罪判決が下される場合も少なくありません。弁護士が、違法捜査がなかったかどうかをチェックし、もし違法捜査があれば、「押収した覚せい剤を証拠から除外すべきである」等と主張します。

 

(2)覚せい剤所持の故意を争う

覚せい剤所持罪の「所持」とは、覚せい剤を自己の支配下におくことです。所持罪が成立するためには、それに加え、「覚せい剤を自己の支配下においていることの認識」(故意)が必要です。

 

例えば、知人から覚せい剤が入っているスーツケースを預っていたが、中に覚せい剤が入っていることを知らなかった場合は、覚せい剤所持の故意がなく、所持罪は成立しません。

 

覚せい剤輸入罪のケースでも、鞄の中身が覚せい剤であることを知らずに、運び屋にされたとして無罪となったケースが複数あります。

 

(3)「覚せい剤を使っていない」という主張は困難

科捜研で行われる尿鑑定で覚せい剤の陽性反応が出なければ、検察官は覚せい剤使用罪で起訴しません。逆に言えば、覚せい剤使用罪で起訴された被告人は、尿検査で覚せい剤の陽性反応が出ていたことになります。

 

裁判官は、「尿検査で陽性反応が出ている以上、特別の事情がない限り、被告人が自分の意思で覚せい剤を使ったに違いない。」と考えます。

 

「特別の事情」としては、「体の自由を奪われ無理やり覚せい剤を注射された」場合や「知らないうちに覚せい剤を飲まされた」場合等が考えられますが、よほど確実な根拠がない限りこのような主張が認められることはありません。

 

(4)捜査機関に自白調書をとらせない

第三者の供述に基づき、覚せい剤の譲渡または譲受けで逮捕されたものの、本人の周辺から覚せい剤や売買記録などの客観的な証拠が発見されていない場合、本人と第三者の供述以外に目ぼしい証拠はないということになります。

 

そのため、刑事裁判では「本人の言っていることが信用できるか否か」が大きな争点になります。例えば、被疑者が本当は覚せい剤を譲渡していないのに、取調べの際、捜査機関からの圧力に屈してしまい「自分が覚せい剤を譲渡しました」と自白してしまったとします。

 

その場合、後の刑事裁判において、「自分は譲渡していません」と言ったとしても、検察官から「取調べのときは自白してましたよね?」と突っ込まれ、裁判官にも信用性を疑われることになります。

 

捜査機関は、否認を続ける被疑者に対してあの手この手を使って自白するよう働きかけます。不起訴処分や無罪判決を目指すのであれば、このような働きかけに屈しないことが重要になります。弁護士が被疑者と頻繁に接見し、捜査機関のプレッシャーに屈しないよう継続的にバックアップしていきます。

 

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