追起訴とは?追起訴されやすい4つの犯罪や裁判の流れについて
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
目次
追起訴とは?
追起訴とは、ある刑事事件で起訴されその裁判が進行している間に、別の刑事事件で起訴することを言います。最初の起訴を「本起訴」、2番目以降の起訴を「追起訴」といいます。
追起訴と再逮捕
追起訴するか否かを決めるのは検察官です。通常、刑事事件の捜査は警察によって開始されます。警察はひととおりの捜査をすると、事件を検察官に引き継ぎます。引継ぎを受けた検察官が事件を起訴するか否かを判断します。
そのため、警察の捜査が追起訴に先行しますが、警察は捜査にあたって被疑者を再逮捕することが多いです。
⇒再逮捕とは?報道や執行猶予との関係など「気になること」を全解説
被疑者を再逮捕すれば、最長23日以内に、検察官が被疑者を追起訴するか否かを決めることになります
追起訴と追送致
追起訴に先行して再逮捕されることが多いですが、再逮捕されることなく追起訴されることもあります。この場合は、追送致→追起訴という流れになります。
追送致とは、余罪について被疑者を逮捕せずに、捜査資料だけを警察から検察官に引き継ぐことです。
警察は被疑者を逮捕すると、48時間以内に被疑者の身柄を検察官に引き継ぐ手続をしなければなりません。もっとも、追送致という形で捜査資料のみ検察官に引き継ぐのであれば、このようなタイムリミットはありません。
追起訴されやすい犯罪
追起訴される前に再逮捕されることが多いため、追起訴されやすい犯罪と再逮捕されやすい犯罪は同じです。
1.振り込め詐欺・オレオレ詐欺
特殊詐欺のケースでは、被害者1名ごとに1つの事件とカウントされます。被害者が複数いれば、被害者Aさんの事件で起訴された前後に、被害者Bさんの事件で再逮捕され、その後に追起訴されるという流れになります。
2.覚せい剤・大麻などの薬物犯罪
よくあるのは自宅で所持していた覚せい剤の一部を使用したケースです。覚せい剤所持罪で起訴された前後に、覚せい剤使用罪で再逮捕→追起訴されます。
使用の有無を明らかにするためには科捜研で尿を鑑定する必要があり、時間がかかるので、所持罪よりも遅れて刑事手続が進みます。
⇒覚せい剤
⇒大麻
3.業務上横領罪
よくあるのは会計担当者が会社の口座から多数回お金を引き出し着服したケースです。逮捕すると最長23日以内に起訴するか釈放するかを決めなければなりません。
多数の着服がある場合は、限られた期間内に捜査を完了させるため、いくつかのグループに分けて再逮捕→追起訴します。
4.複数の女性に対する準強制性交等
合コンで女性を酔いつぶれさせ、集団で強姦するケースです。何度も同様の合コンを開いて複数の女性を強姦していた場合は、2件目以降の事件については再逮捕→追起訴されます。
追起訴の数
薬物事件や業務上横領のケースでは、追起訴の数は1,2件のことが多いです。振り込め詐欺などの特殊詐欺のケースでは3回以上追起訴されることもあります。
追起訴の数に制限はありませんが、5回を超えることはめったにありません。
追起訴の審理-まとめて行われる
追起訴されると、同時に複数の刑事事件について裁判が進行することになります。
ただ、通常は「弁論の併合」といって、追起訴された事件の公判は、最初に起訴された事件の公判と同じ手続きで行われます。そのため、同じ法廷で同じ裁判官が審理することになります。
追起訴の流れ
1つの追起訴事件について1回審理を行うケースと、複数の追起訴事件についてまとめて審理を行うケースがあります。
1.追起訴事件ごとに審理する場合
6月1日 | 起訴① |
6月20日 | 起訴② |
7月10日 | 初公判で起訴①の審理をする |
7月20日 | 起訴③ |
8月10日 | 第2回公判で起訴②の審理をする |
9月10日 | 第3回公判で起訴③の審理をする |
10月10日 | 弁護側の立証など |
10月31日 | 判決 |
2.追起訴事件をまとめて審理する場合
6月1日 | 起訴① |
6月20日 | 起訴② |
7月10日 | 初公判で起訴①の審理をする |
7月20日 | 起訴③ |
9月10日 | 第2回公判で起訴②と起訴③をまとめて審理する |
10月10日 | 弁護側の立証など |
10月31日 | 判決 |
追起訴の判決-まとめて言い渡される
最初に起訴された事件と追起訴された事件は、同じ手続きで審理されますが、判決についてもまとめて一つの判決が言い渡されます。
例えば、3件の詐欺で起訴された場合、事件ごとに3つの判決が言い渡されるのではなく、3件まとめてひとつの判決が言い渡されます。
追起訴と刑罰-併合罪として処理される
追起訴されても、判決はまとめて1つだけ言い渡されますが、1件しか起訴されていないケースに比べて、追起訴されたケースの方が刑罰の上限が重くなります。これを併合罪加重といいます。
懲役刑や禁錮刑については、最も重い刑の1.5倍が上限になります。ただし、最も重い刑の1.5倍が、それぞれの犯罪の刑を合計したものより大きい場合は、その合計が上限になります。
【振り込め詐欺で5件起訴された場合の例】
詐欺罪の刑の上限は懲役10年です。そのため、併合罪加重により10年×1.5=15年が刑の上限になります。10年×5=50年が上限になるわけではありません。裁判官はこの範囲で被告人の刑罰を決めます。
一般的には、判決が別々に言い渡された場合にそれらを合計した年数よりも、併合罪として処理された場合の年数の方が短くなると言われています。
追起訴と執行猶予
追起訴されれば、その事件で無罪にならない限り、判決は重くなりますので、執行猶予の可能性は下がるといえるでしょう。
もっとも、追起訴されたからといって必ず実刑になるわけではなく、執行猶予がつくことも多々あります。
薬物犯罪では、前科がなければ追起訴されても執行猶予になることが多いです。特殊詐欺のケースでは、トータルの被害金額が300万円程度にとどまれば、追起訴されても、被害者全員と示談が成立すれば執行猶予を獲得できる余地があります。
何度も着服していた業務上横領のケースなど被害者が同一の事件で追起訴された場合は、示談が成立して被害者に許してもらえれば、追起訴の件数にかかわらず、執行猶予を獲得できる余地が十分にあります。
準強制性交等罪で追起訴された場合は、新たな被害者との間で示談が成立しないと実刑になる可能性が高いです。
追起訴と刑事弁護
追起訴するかどうかは、事件ごとに検察官が個別に判断します。「前にも似たような事件で起訴しているから」といった理由で、漫然と追起訴するわけではありません。再逮捕されたものの、追起訴されず不起訴になることもあります。
弁護方針についても各事件ごとに個別に判断することになります。最初に逮捕・起訴された事件については自白し、再逮捕された事件については否認することも考えられますし、被害者がいる犯罪であれば、被害者と示談をして起訴猶予による不起訴を求めることもあります。
自白するにせよ否認するにせよ、再逮捕された時点で早期に弁護方針を固めることが必要です。まずは刑事事件の経験豊富な弁護士にご相談ください。
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