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在宅事件の流れは?逮捕される身柄事件との違いや起訴・不起訴について
在宅事件とは、被疑者を逮捕しないで捜査を進める事件です。刑事事件の捜査は警察⇒検察という流れで進みます。まずは警察が捜査を開始し、ひと通りの捜査が終われば検察官に引き継ぎます。
引き継ぎを受けた検察官は、警察の捜査結果をふまえて、被疑者を起訴するか不起訴にするかを決めます。起訴されれば刑事裁判が始まります。まずは警察⇒検察という大きな流れをおさえておきましょう。
在宅事件の被疑者になってしまった方は、以下のような疑問をお持ちのことと思います。
☑ 在宅事件の流れは?
☑ 在宅事件では逮捕されない?
☑ 在宅事件の期間は?
☑ 在宅事件の取調べの回数は?
☑ 在宅事件の呼び出しはいつ?
☑ 在宅事件の起訴率は?
これらの点について刑事事件に詳しい弁護士 楠 洋一郎がわかりやすく解説しています。ぜひ参考にしてみてください!
目次
在宅事件とは?
1.在宅事件と身柄事件の違い
在宅事件とは被疑者を逮捕しないで捜査を進める事件です。これに対して、被疑者を逮捕した上で捜査を進める事件を身柄事件といいます。
2.在宅事件になる?ならない?
刑事事件の被疑者になれば必ず逮捕されるわけではありません。
被疑者を逮捕するためには「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」がなければなりません(刑訴法199条1項)。「何となく怪しい」というだけでは逮捕できないのです。
罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合でも、逃亡や証拠隠滅のおそれといった逮捕の必要性がなければ、逮捕することはできません(刑訴法199条2項但書、刑訴規則143条の3)。
これらの要件を満たさない場合は、逮捕されず在宅事件として捜査されます。
3.逮捕後に在宅事件になることも
痴漢や盗撮、万引きなど比較的軽い事件については、逮捕されても勾留されずに釈放されることがあります。
⇒【逮捕】勾留されなかったときの釈放の流れ-何時にどこに迎えに行く?
勾留された場合でも、弁護士が準抗告を申し立てることによって釈放されることがあります。
勾留後に検察官が処分保留で釈放することもあります。
⇒処分保留釈放とは?タイミングや起訴・不起訴との関係について
これらのケースでは釈放された時点で身柄事件から在宅事件に切り替わります。釈放されたからといって刑事手続が終了するわけではありませんのでご注意ください。
4.在宅事件になる確率は?
刑事事件における在宅事件の割合は約60%、身柄事件の割合は約40%です。
根拠:2022年検察統計年報:罪名別 既済となった事件の被疑者の逮捕及び逮捕後の措置別人員
上記の数字は最初から逮捕されない在宅事件の比率です。途中から在宅事件になったケースも含めるとさらに比率は上がります。
在宅事件で逮捕される?
最初に検挙された時点で逮捕されなければ、その後も逮捕されずに在宅事件として進められることが多いです。家族や上司が身元引受人として警察署まで迎えにきた場合は、後日逮捕される可能性は低いです。
⇒刑事事件の身元引受人とは?必要なケースやデメリット、弁護士費用
否認事件では、防犯カメラや指紋等の信頼性が高い証拠がある状況で否認を続けていると、後日逮捕されることがあります。
家宅捜索された場合も後日逮捕されることがあります。身元引受けの手続がされていない場合は逮捕されることが少なくありません。
在宅事件の期間はどれくらい?
在宅事件の捜査には時効を除いてタイムリミットがありません。そのため、在宅事件の捜査期間は身柄事件に比べて長くなります。
身柄事件については、法律で逮捕は最長3日、勾留は最長20日と決まっていますので、最長で23日です。検察官は勾留期間内に被疑者を起訴するか釈放しなければなりません。1日単位で手続が進んでいくイメージです。
これに対して、在宅事件では処分のタイムリミットがないため、検挙されてから起訴・不起訴が決まるまで警察段階で2,3か月、検察段階で2、3か月、合計で4~6か月程度かかることが多いです。ひと月単位で手続が進んでいくイメージです。
処分が決まるまでの期間 | |
身柄事件 | 逮捕から最長23日 |
在宅事件 | 検挙されてから4~6か月 |
在宅事件の流れ-警察での捜査
警察は、被害者からの訴えや110番通報、職務質問等で事件を認知すると捜査を開始します。捜査の一環として被疑者に対する取調べを行います。
1.取調べの回数は?
被疑者が容疑を認めていれば、取調べは1,2回で終了することが多いです。否認している場合は3回以上取調べが行われることもあります。
2.最初の取調べで何をする?
現行犯で検挙されれば当日に最初の取調べが行われます。警察から電話がかかってきて、日程調整した上で最初の取調べを受けることもあります。家宅捜索が実施された後に警察署に連行されて最初の取調べを受けることもあります。
最初の取調べでは「私がやったこと」というタイトルで手書きの上申書を作成するように言われることが多いです。万引きなど軽微な犯罪で容疑を認めている場合は、最初の取調べで供述調書の作成まで進むこともあります。
3.呼び出しはいつ?
最初の取調べで供述調書の作成まで終わらない場合は、2回目以降の取調べで供述調書が作成されます。2回目の取調べの前に警察から電話で呼び出しがあります。呼び出しがいつあるかは、捜査の状況や担当者の忙しさによります。
一般的には最初の取調べから1か月呼び出しがない場合も普通にあります。ただ、2か月以上呼び出しがないことは少ないです。
4.取調べの日は変更できる?
警察から呼び出しがあり取調べの日を指定された場合、その日に予定が入っていれば、事情を説明すれば柔軟に調整してくれます。理由なく出頭を拒んでいると逮捕されることがありますので、取調べには協力してください。
【取調べにどう対応する?】 取調べで不利な供述調書をとられてしまうと無罪を争うのが困難になったり、処分が重くなったりします。そのため、事前に弁護士と打ち合わせをした上で取調べに臨みましょう。弁護士が取調べに同行して随時アドバイスすることもあります。 |
在宅事件の流れ:書類送検
被疑者を逮捕した身柄事件では、警察は48時間以内に被疑者の身柄と捜査資料を検察官に引き渡します。この引き渡しのことを「身柄送検」といいます。
これに対して、在宅事件では、捜査資料のみを検察官に引き継ぎます。この引き継ぎのことを「書類送検」といいます。
⇒書類送検とは?逮捕との違いは?会社にバレる?流れについても解説
書類送検のタイムリミットはありません。一般的には被疑者を検挙してから2,3か月で書類送検することが多いです。否認している場合や捜査が難航している場合は6か月以上かかることもあります。
書類送検までの期間 | |
身柄事件 | 逮捕後48時間以内 |
在宅事件 | 検挙後2,3か月のことが多い |
在宅事件の流れ:検察官の捜査及び処分
書類送検されると担当の検察官が被疑者を捜査し、起訴するか不起訴にするかを決めます。
1.取調べの回数は?
自白事件では検察庁で取調べを1回受けることが多いです。送検された時点で示談が成立していれば取調べが実施されないこともあります。否認事件では2回以上取調べを受けることもあります。
2.取調べで何をする?
取調べで調書を作成します。検察官は警察で作成された調書を確認した上で取調べを実施しますので、聞かれることは警察での取調べの時とほぼ同じです。
示談が成立している場合は、検察官から説諭(お叱り)を受けるだけで終わることもあります。この場合、調書は作成されず短時間で終わります。
略式起訴される場合は、略式手続の説明と書面による同意の手続を行います。
⇒略式裁判とは?罰金の金額や払えない場合について弁護士が解説
3.呼び出しはいつ?
検察官は多数の事件を抱えているので、書類送検された直後に呼び出されるケースは少ないです。一般的には1か月程度たってから呼び出しがあります。弁護士が示談交渉をしている間は、呼び出しがなされないことが多いです。
4.呼び出しの方法は?
警察では電話で呼び出されますが、検察では電話で呼び出される場合と呼出状が自宅に届く場合の2パターンがあります。
「同居の家族に被疑者になっていることを知られたくない」という場合は、弁護士が検察官と交渉して、呼出状を送らないようにしてもらいます。
⇒刑事事件が家族に知られるタイミングと知られないようにする方法
指定された日時に出頭することができない場合は、事情を言えば柔軟に調整してもらえます。
5.起訴・不起訴の決定
検察官は、警察から引き継いだ捜査資料や取調べで被疑者から聞いた話をふまえて処分を決めます。弁護士から意見書が出されればそれも参考にします。
身柄事件では、検察官は最長20日の勾留期間内に被疑者を起訴するか釈放しなければなりませんが、在宅事件ではそのような期間制限はありません。
一般的には、書類送検されてから起訴・不起訴の処分が確定するまで2,3か月かかることが多いです。事件が複雑だったり、補充捜査の必要がある場合はそれ以上かかることもあります。
在宅事件の流れ:起訴されたらどうなる?
被疑者が検察官に起訴されると、被告人として裁判の当事者になります。起訴には略式起訴と正式起訴があります。
略式起訴されると簡易な裁判で罰金または科料の支払を命じられます。法廷は開かれず略式命令という書面が被告人の自宅に郵送で届きます。
⇒略式裁判とは?罰金の金額や払えない場合について弁護士が解説
正式起訴されれば、裁判所から起訴状が被告人の自宅に届きます。その後、被告人が決められた公判期日に出廷し、公開の法廷で審理を受けます。
在宅事件で実刑になることはある?
在宅事件は身柄事件に比べて軽い事件が多いので、実刑になることは少ないです。
もっとも、万引きや痴漢、盗撮など依存性のある犯罪で起訴されたケースで、懲役刑の前科(執行猶予付きの懲役刑を含みます)があれば、実刑になることが少なくありません。執行猶予中に再犯した場合は実刑の可能性が高くなります。
実刑を回避するため、早い段階から弁護士に依頼して、再犯防止活動に取り組んだ方がよいでしょう。
在宅事件の不起訴率は?
在宅事件と身柄事件をまとめた刑事事件全体の不起訴率は約60%です。
根拠:2022年検察統計年報:罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員
在宅事件は身柄事件に比べて軽い事件が多いので、在宅事件の不起訴率は全体の不起訴率よりもやや上がると思われますが、顕著に上がることはないと思われます。
逮捕の要件は逃亡のおそれと証拠隠滅のおそれですが、これらは起訴するか否かとは無関係だからです。逮捕は捜査の初期段階で行われるのに対して、起訴・不起訴は捜査の一番最後になされる処分であり、それぞれの場面で考慮される事情は異なります。
起訴するか否かは、被害者がいる事件であれば示談の有無が大きく影響します。否認事件であれば、検察官が公判を維持できる証拠があるか否かがポイントになります。
このように逮捕の要件と起訴の判断基準は異なりますので、逮捕を回避できたからといって不起訴の可能性も高くなるとはいえないのです。
在宅事件の不起訴はいつわかる?
検察官は不起訴になったからといって必ずしも被疑者にそのことを教えてくれるわけではありません。取調べの際に「このまま連絡がなければ不起訴です」と言われることはありますが、不起訴になった時点で改めて連絡してくれることは少ないです。
それでは不起訴になったことはいつわかるのでしょうか?弁護士に依頼している場合としていない場合に分けて説明します。
1.弁護士に依頼している場合
弁護士が定期的に検察官に電話し、処分の時期や内容を確認します。不起訴になったことを確認できれば、ご依頼者にお伝えします。不起訴になった場合は、不起訴の証明書(不起訴処分告知書)を取得して、ご依頼者にお渡しします。
2.弁護士に依頼していない場合
弁護士に依頼していなければ、ご自身で検察官に電話して確認することになります。最後の取調べから1か月程度で処分が確定することが多いので、そのタイミングで検察官に電話するとよいでしょう。
その前に警察から押収物の返還の連絡が入ることがあります。返還の連絡があれば、不起訴が確定していることが多いので、検察官に確認してみてください。
不起訴処分告知書は被疑者本人が申請することもできますので、上記の電話の際に申請方法についても確認するとよいでしょう。
不起訴を獲得するために
1.自白事件
性犯罪など被害者がいる事件で不起訴を獲得するためには、被害者と示談を成立させることが重要です。捜査機関は被疑者に被害者の名前や電話番号を教えてくれませんので、示談をしたい場合は、弁護士に依頼することになります。
2.否認事件
否認事件では不利な調書をとられないことが重要です。「私がやりました」といった調書をとられると、裁判で潔白を主張しても信用してもらえません。
黙秘権を行使したり、供述調書への署名・指印を拒否することにより、不利な調書がとられないようにします。
在宅事件で報道される?
在宅事件で報道されるのは社会の注目を浴びるような事件に限られます。その場合でも実名ではなく匿名で報道されます。
有名人や政治家でない限り、通常の在宅事件の被疑者が報道されることはないでしょう。匿名でも報道されません。
在宅事件の進行イメージ
| 事件の流れ | 弁護活動 |
7月1日 | 痴漢で検挙される⇒逮捕されず、警察署で取り調べを受ける |
|
7月2日 |
| 弁護士を選任する |
7月30日 | 警察署で取り調べを受ける |
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8月5日 |
| 被害者との間で示談が成立 ⇒示談書の写しを警察に提出 |
9月1日 | 書類送検⇒担当検察官が決まる |
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9月2日 |
| 弁護士が検察官に意見書を提出 |
9月30日 | 検察官の取調べ |
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10月25日 | 不起訴が確定する |
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【刑事事件早わかりページ】
| 刑事事件の流れやポイント | 弁護活動 |
逮捕前 | ||
起訴前 | 起訴前の流れ(逮捕・勾留なし) | |
起訴後 |