• トップ
  • > 否認事件の取調べ-黙秘によって不利な調書をとらせない!

否認事件の取調べ-黙秘によって不利な調書をとらせない!

否認事件の取調べ-黙秘によって不利な調書をとらせない

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

 

否認事件とは?

否認事件とは?

 

否認事件とは被疑者が容疑を認めていない事件です。これに対して、容疑を認めている事件のことを自白事件といいます。

 

 

例えば、殺人事件の被疑者が「殺していません」と言っている場合が否認事件、「殺しました」と言っている場合が自白事件です。

 

 

否認事件の中には一部否認という類型もあります。例えば上記の例で、被疑者が「私が死なせたが殺すつもりはなかった」と言っている場合、殺意については否認していますが、その他の部分は認めていますので、一部否認事件と言うことになります。

 

 

否認事件の取調べのポイント-不利な調書をとらせない

否認事件の取調べのポイント-不利な調書をとらせない

 

1.不利な調書をとらせてはいけない理由

否認事件において最も大切なことは、「不利な供述調書をとらせない」ということです。不利な調書の最たるものが自白調書(罪を犯したことを認める調書)です。

 

 

日本の刑事裁判では調書が非常に重視されています。そのため、自白調書がとられてしまうと刑事裁判でいくら無罪を主張しても、調書にもとづき有罪になる可能性が高くなります。

 

 

いったん供述調書をとられると、その後に「事実と違っているので破棄してください。」と言っても対応してくれません。そのため、否認事件で不利な調書がとられてしまうと、大きな不利益になってしまいます。

 

 

2.無罪よりも不起訴を目指すべき

日本の刑事裁判の有罪率は99.9%です。起訴されれば無罪になるのは1000件に1件しかありません。これに対して、起訴される確率は50%未満です。刑事事件全体の半分以上が不起訴で終了しています。

 

 

このことから次の2点がわかります。

 

☑ 検察官は自信をもって有罪に持ち込める事件のみ起訴している

☑ 検察官は無罪になる可能性が少しでもあれば不起訴にしている

 

 

これらをふまえると、起訴された後に無罪判決を目指すよりも、起訴されないよう不起訴を目指すのが現実的であることがわかります。

不起訴処分について弁護士が解説

 

 

3.不利な調書をとらせなければ不起訴に近づく

不利な調書がなければ、捜査機関は客観的な証拠や証人尋問をメインとして有罪を立証しなければならず、立証のハードルが高くなります。

 

 

その結果、検察官が「起訴しても無罪をとれない可能性がある」と判断し、嫌疑不十分で不起訴にする可能性が高まります。

 

 

これに対して、自白調書等の不利な調書があれば、「これで有罪に持ち込める」と検察官を勢いづかせ、起訴される可能性が高くなります。

 

 

否認事件の取調べ-黙秘権を行使する

否認事件の取調べ-黙秘権を行使する

 

1.黙秘権とは

否認事件の取調べでは、不利な調書がとられることを防ぐため、黙秘権を行使します。黙秘権とは、話したくないことを話すよう強制されない権利です。黙秘権は憲法と刑事訴訟法で保障されています。

黙秘とは?黙秘の意味や使い方、デメリットを解説

 

 

黙秘権を十分に保障するため、取調官が取調べを始める際には、被疑者に対して、黙秘権を告知することが要請されています。

 

 

【刑事訴訟法198条2項】

前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。

 

 

2.黙秘権を行使する方法

それでは黙秘権はどのようにして行使すればよいのでしょうか?

 

 

黙秘するときは、取調官に対して「黙秘します。」と言って、後は何を聞かれても無視してするのが原則です。取調官の質問に答えてしまうと、そこから会話のキャッチボールが始まり、気がついたら不利な調書がとられていたということにもなりかねません。

黙秘しているときに取調官と雑談してはいけない理由

 

 

3.黙秘するのは難しい

黙秘はひたすら取調官を無視するだけであり、積極的に何かをするわけではないので、簡単なようにも思えます。もっとも、取調べの現場で黙秘権を行使するのは至難の業です。

 

 

なぜなら、取調官は被疑者に対して様々なプレッシャーをかけて黙秘を打ち破ろうとするからです。ほとんどの被疑者は、プレッシャーに負けて口を割ってしまいます。

 

 

黙秘を貫くためには、事前に取調官がどのようにプレッシャーをかけてくるのかを把握した上で、弁護士にサポートしてもらうことが必要です。

取調べで黙秘したらどうなるか

 

 

黙秘することが難しい場合は、話をする代わりに供述調書への署名押印を拒否することもあります。

供述著書の署名押印を拒否できる?メリットや拒否の仕方について

 

 

否認事件の取調べ-黙秘しないことのリスク

否認事件の取調べ-黙秘しないことのリスク

 

1.不利な調書をとられてしまうリスク

黙秘することの第一の目的は「捜査機関に不利な調書をとらせない」ということです。とすれば、取調べで自分の言い分のみを述べるのであれば、黙秘する必要はないように思えます。

 

 

自分の言いたいことが100%調書に反映されるのであれば黙秘する必要はありません。しかし、取調官は被疑者を誘導しながら、捜査機関が描いたストーリーに沿った供述調書を作成しようとします。

 

 

被疑者も「取調官の印象を悪化させたくない」と思って、知らず知らずのうちに取調官に迎合してしまいがちです。

 

 

そのため、自分の言い分がそのまま調書に反映されることはまずありません。「言いたいことを全て調書に書いてもらった」と思っても、後に弁護士が確認すると、不利な内容の調書になっていることが少なくありません。

 

 

2.法廷での発言と矛盾するリスク

もし自分の言い分が100%調書に反映されたとしても、自分の考えを詳細に述べれば述べるほど、法廷での発言と矛盾する可能性が高まります。

 

 

刑事裁判の法廷で被告人が自分の考えを述べたとき、調書の内容と違っていると、検察官から「なぜ供述調書に書かれていることと違うんですか?」と突っ込まれます。

 

 

被疑者は不安と緊張の中で取調べを受けているため、記憶と違うことを言ってしまうこともあるでしょう。

 

 

それにもかかわらず、ひとたび供述調書がとられると、後に法廷で言い間違いを訂正しただけで、「調書と矛盾しているので信用できない」と不利に判断されるリスクがあります。

 

 

3.自分の主張をつぶされるリスク

取調べで積極的に供述すると、捜査機関に自分の言い分が明らかになります。その結果、捜査機関がその言い分をつぶしにくることがあります。

 

 

例えば、被害者や目撃者が、被疑者のことを犯人だと思っていたが、確かな根拠はなかったとします。確かな根拠がない以上、取調官も説得力のある被害者や目撃者の供述調書を作成することができません。

 

 

このようなケースで被疑者が自分の考えを詳細に述べれば、取調官がその発言に含まれている情報を利用して、被害者や目撃者に誘導尋問をし、その結果、見かけ上説得力のある供述調書が作られてしまうことがあります

 

 

(例)

取調官:被疑者は~と言っているが、本当にそんなことはあったんですか?」

 

被害者:いいえありませんでした

 

 

このように被疑者が積極的に供述することにより、逆に、被疑者の主張がつぶされてしまリスクがあります。そのため、取調官に対し口を開くことには慎重であるべきです。

 

 

否認事件の取調べ-弁護士がサポート!

否認事件の取調べ-弁護士がサポートします!

 

1.逮捕・勾留されている場合

被疑者を逮捕・勾留して取り調べをすることができる期間は、最長でも23日しかありません。警察や検察は、この期間内に何としてでも自白調書をとろうとして、否認している被疑者に対して連日プレッシャーをかけてきます。

 

 

弁護士が被疑者とひんぱんに接見し、捜査機関のプレッシャーに屈しないようバックアップします。

 

 

2.逮捕・勾留されていない場合

被疑者が逮捕・勾留されていない場合は、弁護士が取調べに同行することにより不利な調書をとられないようサポートします。

 

 

弁護士であっても被疑者と一緒に取調室の中に入ることまでは許可されませんが、署内で待機することは可能です。

 

 

被疑者が取調官のプレッシャーに耐え切れそうになければ、いつでも取調べを中断してもらい、取調室の外に出ることができます。近くで待機している弁護士に相談し、その場で弁護士からアドバイスをもらったり、取調官に抗議してもらうことができます。

 

 

3. 違法・不当な取り調べに対する弁護活動

捜査機関が自白調書を作成しようとして、違法・不当な取り調べを行うことがあります。違法・不当な取調べを防止するため、否認事件では、捜査機関に対して取調べ状況の録画を要請します。

 

 

実際に違法・不当な取り調べが行われた場合は、弁護士が捜査機関に対して直ちに抗議し、そのような取調べやめさせます。

 

 

【関連ページ】

弁護士の接見

逮捕後どの弁護士を呼ぶ?弁護士費用・連絡方法・選び方を解説

東京の刑事事件に弁護士がスピード対応