否認事件の刑事弁護

否認事件の刑事弁護

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

 

 

【否認事件】自白調書を作らせない

否認事件で最も大切なことは、「捜査機関に自白調書(=容疑を認める調書)をとらせない」ということです。嘆かわしいことですが、わが国の刑事裁判では伝統的に自白調書が重視されてきました。

 

 

いったん自白調書がとられてしまうと、後の刑事裁判で無罪を主張しても、ほとんどの場合、「自白調書と矛盾しており信用性がない。」として退けられてしまいます。そして、捜査機関の思惑通り、自白調書に基づいて有罪判決が下されます。

 

 

このように、いったん自白調書がとられてしまうと、裁判で取り返しのつかない結果になりかねません。「捜査機関に自白調書をとらせない」-これが否認事件の弁護活動の鉄則です。

 

 

自白調書がなければ、捜査機関は客観的な証拠や証人尋問をメインとして有罪を立証しなければならず、ハードルが高くなります。結果的に嫌疑不十分による不起訴の可能性が高まります。

不起訴とは?無罪との違いや前歴・罰金との関係

 

 

【否認事件】黙秘権を行使する

自白調書がとられることを防ぐためには、黙秘権を行使する必要があります。黙秘権とは、自己に不利益なことを話すよう強制されない権利です。黙秘権は憲法で保障された権利であり、捜査機関が侵害することは許されません。

 

 

もっとも、極度の緊張を強いられる取調で、最後まで黙秘を続けることは決して容易ではありません。黙秘を貫くためには、弁護士が被疑者とひんぱんに接見してサポートすることが不可欠です。

 

 

否認事件で自分の考えを述べるリスク

否認事件で黙秘する目的は、捜査機関に自白調書をとらせないためです。とすれば、取調べで「私は無実です。」と自己の言い分を述べるだけであれば、問題はないようにも思われます。

 

 

しかし、取調官は、あらかじめ想定したストーリーに基づいて、被疑者を誘導しながら取調べを進めます。

 

 

被疑者も「取調官から嫌われたくない。」、「少しでも印象を良くしたい。」と藁にもすがる思いで、取調官の誘導にのってしまうことが少なくありません。

 

 

そのため、自分の言い分を述べたとしても、そのまま調書に反映されることはまずありません。弁護士が後から見てみると「捜査機関に都合のよい作文」になっていることがほとんです。

 

 

仮に被疑者の言い分が100パーセント調書に反映されたとしても、自分の考えを積極的に述べることには以下のリスクが伴います。

 

 

1. 供述調書と法廷での発言が矛盾するリスク

いったん供述調書がとられると、後の裁判で被告人が自分の考えを述べたとき、その内容が調書の内容と違っていると、検察官から「なぜ供述調書に書かれている内容と違うんですか?」と突っ込まれることになります。

 

被疑者は、取調室の中で、大きなプレッシャーを受けながら取調べに臨んでいます。そのような状況で、被疑者が記憶と異なることを言ってしまうことも少なくありません。

 

しかし、ひとたび供述調書がとられてしまうと、後に法廷で言い間違いを訂正しただけで、「嘘をついているのではないか?」等と勘繰られることになってしまいます。

 

 

2.被疑者の主張がつぶされるリスク

例えば、被害者や目撃者が、被疑者のことを犯人ではないかと思っていたが、確かな根拠はなかったとします。確かな根拠がない以上、取調官も説得力のある被害者や目撃者の供述調書を作成することはできません。

 

 

このようなケースで、被疑者が自分の考えを詳細に述べれば、取調官がその発言に含まれている情報を利用して、被害者や目撃者に誘導尋問をし、その結果、見かけ上説得力のある供述調書が作られてしまうことがあります。

 

 

【具体例】

取調官:被疑者は~と言っているが、本当にそんなことはあったんですか?」

被害者:いいえありませんでした。なぜなら~だからです。

 

 

このように被疑者が積極的に供述することにより、逆に、自分の主張がつぶされてしまうリスクがあります。そのため、たとえ、自分の考えを述べるためであっても、取調官に対して安易に口を開くことには慎重であるべきです。

 

 

否認事件で言うべきことがある場合

簡潔な記載にとどめることによって、後日、刑事裁判になったときに、法廷での発言と矛盾が生じてしまい、検察官から「なぜ以前の発言と違うんですか?」等と些末な揚げ足取りをされる危険性を排除できます。

 

 

また、簡潔な記載にとどめることによって、捜査機関によって、被害者等の供述を肉付けするために利用される危険を防止できます。

 

 

否認事件で弁護士がすべきこと

1.ひんぱんな接見

取調べで被疑者が黙秘を貫くことは容易ではありません。被疑者は、ある日突然逮捕され、「これからどうなってしまうのだろう?」と不安な思いで取調べに臨んでいます。

 

 

このような被疑者に対して、取調官は連日プレッシャーをかけ、全力を挙げて自白調書をとろうとします。自白調書さえあれば、客観的な証拠が不十分でも一気に有罪に持ち込める可能性が高くなるからです。

 

 

被疑者の身体を拘束した上で取り調べをすることができる期間は、逮捕から最長23日しかありません。取調官は、この期間内に何としてでも自白調書を作成しなければなりません。

 

 

そのため、黙秘を続ける被疑者に対しては、連日長時間の取調べを行うのが通常です。

 

 

取調官のなかには、利益誘導(自白すれば手心を加えてやる)や偽計(「共犯者は全部しゃべっている。お前だけ黙っていると大変なことになるぞ。」)を用いて、プレッシャーをかけてくる人もいます。

 

 

弁護士が被疑者とひんぱんに接見し、ともすれば弱気になる被疑者をバックアップすることがぜひとも必要です。

 

2. 違法・不当な取調べに対する弁護活動

否認事件では、取調官が自白調書を作成するために違法・不当な取り調べを行うことがあります。

 

 

違法・不当な取調べを防ぐため、弁護士が捜査機関に対して、取調べの可視化(取調べ状況の録音録画)を要請します。

 

 

実際に違法・不当な取り調べが行われた場合は、弁護士が直ちに抗議し、そのような取調べやめさせます。具体的には、担当検察官や検事正(地方検察庁の長)に対して厳重に抗議し、再発防止を要請します。

 

 

否認事件の解決事例

ウェルネスの弁護士は、以下の否認事件で不起訴・不送致(警察署限りで終了すること)の実績があります。

 

 

殺人、傷害致死、現住建造物放火、強姦痴漢児童買春暴行振り込め詐欺ひき逃げ

 

 

 

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