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横領
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
目次
横領罪の3つの類型
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対象者 |
刑罰 |
具体例 |
単純横領罪 |
自己の占有する他人の物を横領した者 |
5年以下の懲役 |
レンタカーを契約終了後返還せず使い続けた場合 |
業務上横領罪 |
業務上自己の占有する他人の物を横領した者 |
10年以下の懲役 |
従業員が顧客から集金した金銭を着服した場合 |
遺失物横領罪 |
占有を離れた他人の物を横領した者 |
1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料 |
路上に置かれていた自転車を持ち去った場合 |
横領と逮捕
2018年に刑事事件として処分された横領事件(単純横領罪・業務上横領罪・遺失物横領罪すべて含む)のうち逮捕されたケースは13%です(2018年検察統計年報:本ページの数値はこの資料に基づいています)。
かなり低いとも思われますが、捜査機関で取り扱っている横領事件の約9割が刑罰の軽い遺失物横領罪ですので、業務上横領罪だけでみると、逮捕率はかなり上がると思われます。逮捕後勾留される確率は91%、勾留期間(原則10日・最長20日)が延長される確率は59%です。
業務上横領で逮捕されやすいケース
大企業や官公庁の場合は、コンプライアンス上、職員の不祥事には厳正に対処することが求められますので、被害届を提出され、逮捕される可能性が十分にあります。
中小企業の場合は、経営者の意思によるところが大きいですが、本人が逮捕されても、被害金額を回収できるわけではないことから、交渉次第で刑事事件になることを回避できる場合が多いです。刑事事件にならなければ逮捕されることはありません。
成年後見人や弁護士・司法書士による横領も逮捕されることが多いです。
業務上横領で逮捕されるまでの流れ
業務上横領が刑事事件になったとしても、すぐに逮捕されるわけではありません。逮捕されるとしても早くて数か月後になります。複雑な横領事件の場合、1年以上たってから逮捕されることも少なくありません。
捜査機関は、いったん被疑者を逮捕すれば23日以内に取調べを終え、起訴するか釈放するかを決めなくてはいけません。そのため、複雑な横領事件については、逮捕前に何度か任意で取調べを行い、全体像を把握してから逮捕することが多いです。
それほど複雑な事件でなければ、いきなり自宅に来て家宅捜索を終えた後、逮捕することもあります。警察は逮捕する前に行動確認のため、本人を尾行したり、近くの車から自宅を観察していることがあります。不審な点があればお早めに弁護士に相談してください。
業務上横領の取調べ
①本人の取調べ
業務上横領は巧妙に反復継続して行われることが多く、捜査も容易ではないことから、県警本部の捜査二課から所轄の警察署に捜査員が派遣され、本人の取調べをすることが多いです。金銭の流れを追跡する財務分析官が派遣されることもあります。
業務上横領で逮捕・勾留された場合、他の犯罪に比べ、取調べの回数が格段に多くなります。余罪も含め逮捕後ほぼ毎日、長時間の取調べが行われることも少なくありません。行き過ぎた取調べがないよう弁護士が目を光らせる必要があります。
②ご家族の取調べ
一定期間継続的に行われた業務上横領では、ご家族も、警察から取調べのために呼出しを受けることが多いです。警察からは主として、横領期間中の本人の暮らしぶり、特にお金の使い方について尋ねられます。
ご家族はあくまで参考人扱いとなるのが原則ですが、横領行為に加担したと疑われるような行為をしていた場合、被疑者として取調べを受けることもあります。
業務上横領と再逮捕・追起訴
業務上横領は1回きりではなく、反復・継続して行われることが多い犯罪です。業務上横領の時効期間は7年ですが、捜査機関としては、時効期間内の多数の横領をひとまとめにして逮捕することは通常ありません。
まず、証拠関係の明白な一部の事件で逮捕し、余罪については、再逮捕や追起訴(同一の被告人に対してある事件で起訴した後に別の事件で起訴すること)という形で進めることが多いです。保釈請求は、再逮捕がないということを確認した上で行うことになります。
業務上横領と保釈
保釈には被告人の権利として認められる権利保釈と裁判官の裁量によって認められる裁量保釈の2種類があります。権利保釈は、法定の除外事由に該当しない限り認められます。
業務上横領のケースでは、着服行為を反復・継続していることが多いですが、このように常習性がある場合、除外事由に該当し権利保釈は認められません。
もっとも、刑事事件化する前から会社の調査に協力し、被害弁償を行っている場合は、裁量保釈が認められる余地は十分にあります。起訴直後の保釈を目指す場合は、起訴前の段階から弁護士と打ち合わせをし保釈の準備を進めていきます。
横領と刑事裁判
単純横領罪の起訴率は37%、業務上横領罪の起訴率は44%、遺失物横領罪の起訴率は11%です。遺失物横領罪は起訴されても罰金で終わるケースが多いですが、単純横領罪と業務上横領罪には罰金刑がないので、起訴されると執行猶予がつかない限り懲役刑に服することになります。
着服金額が数百万円にのぼる業務上横領の場合、示談が成立しなければ、初犯であっても起訴され実刑となる可能性が高いです。逆に示談が成立すれば、複数の前科があるとか執行猶予中である等の不利な事情がない限り、実刑を回避できる可能性が高いです。
業務上横領と詐欺
業務上横領は自分で管理している金銭を着服した場合に成立します。例えば、下請け業者と結託し、自分が勤めている会社に過大な請求をさせて差額を抜いた場合、もともと自分で管理していたお金を着服したわけではないので、業務上横領罪にはなりません。この場合は詐欺罪が成立します。
もっとも、業務上横領罪にせよ詐欺罪にせよ、法定刑(懲役10年以下)は全く同じで、罪質も共通していますので、事件の流れや弁護活動に大きな違いはありません。
横領罪の弁護方針(罪を認める場合)
(1)示談をする
横領事件においては、性犯罪等と異なり、被害者側に示談交渉そのものを拒否されることはまずありません。示談金については被害金額をベースとして交渉することになるでしょう。
業務上横領のケースでは、会社としても横領の事実が公になることは避けたいとの判断から、示談が成立すれば警察に被害の申告がなされず、そもそも刑事事件とならない場合も少なくありません。
示談交渉に入る前に逮捕されてしまったとしても、その後に示談が成立すれば、被害金額が多額であるとか前科がある等の不利な事情がない限り、不起訴となる可能性が高まります。検察官は起訴するか否かの判断するにあたり、示談の成否を非常に重視しているからです。
(2)被害者に謝罪する
被害者にお会いしたり、手紙をお送りして謝罪します。通り一遍のことを述べるのではなく、自分の言葉で謝罪することが重要です。
起訴されたら…
弁護士が謝罪文の写しを証拠として提出します。また、裁判官の前で被害者への思いを直接語ってもらいます。
(3)環境を改善する
横領した金銭で多額のブランド品を購入したり、ギャンブルに興じるなど生活の乱れが事件の背景にある場合は、抜本的な生活環境の改善が必要となってくるでしょう。買物依存やギャンブル依存がある場合はカウンセリングを受けていただきます。
借金問題が事件の原因になっている場合は、弁護士が別途委任を受けて債務整理を行います。いずれにせよ生活環境を立て直すためにはご家族の協力が不可欠です。ご家族には日常生活の中で本人を監督してもらいます。
起訴されたら…
本人を監督する旨の誓約書をご家族に書いてもらい証拠として提出します。また、情状証人として、裁判官の前で、本人の更生をどのようにサポートしていくのかを語ってもらいます。
(4)その他の弁護活動
① 早期釈放を目指す
身体拘束されている場合は、早期釈放に向けた弁護活動を行います
② 寄付をする
示談が成立しなかった場合、反省の気持ちを示すために慈善団体等へ寄付をすることがあります。起訴された場合は、弁護士が寄付したことの証明書を証拠として提出します。
横領罪の弁護方針(無罪を主張する場合)
(1)横領罪の成立要件を検討する
単純横領罪及び業務上横領罪が成立するためには、(業務上)委託に基づいて占有している他人の物を違法に取得したことが必要です。
そのため、①委託があったのか、②本人が目的物を占有していたのか、③目的物は「他人の物」といえるのか(本人の物と考える余地はないか)、④目的物を違法に取得したのか(委託者のためにする意思はなかったのか)といった点について一つ一つ検討し、横領罪の成立要件を満たしていないと考えられる場合、その点を検察官や裁判官に指摘します。
(2)被害者側の言い分を検討する
業務上横領罪の多くは、被害届の提出、告訴など被害者側のアクションをきっかけとして捜査が始まります。既に被害者が民事訴訟を提起していることも少なくありません。
なかには会社内部の権力闘争や民事訴訟を有利に運ぼうとして、相手を告訴する者もいます。そのため、横領事件においては、被害者側の言っていることが本当か否かを慎重に吟味する必要があります。
人間の記憶は時の経過とともに衰えていくものですが、取調べが進むにしたがって、被害者側の供述がより詳しくなっていくということがあります。また、異なる時点で作成された複数の供述調書の間で、同一の場面についての供述内容が不自然に変化していることもあります。
これらは被害者側の恣意的な態度を強く示唆するものです。弁護士が被害者側の供述調書を検討したり反対尋問を行うことによって、これらの不合理な変遷を炙り出します。
オーダーメイドの弁護活動
このページでご紹介している弁護方針は一つの例にすぎません。事件によってベストな弁護活動は異なります。ウェルネスでは、数多くのノウハウに基づき、一つ一つの事件に対応した完全オーダーメイドの弁護活動を行います。
【横領・業務上横領のページ】
横領(本ページ) |
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