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前科とは?前科と前歴の違いや就職等のデメリットについて

☑ 前科と前歴の違いは?

☑ 前科を調べることはできる?

☑ 前科がつくと公務員になれない?

☑ 前科は就職に影響する?

☑ 前科は消える?

 

 

このような疑問をお持ちの方のために、刑事事件に詳しい弁護士が前科と前歴の違いや前科について知っておきたいことをまとめました。ぜひ参考にしてみてください!

 

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

前科とは?

前科とは、刑事裁判で有罪となり刑罰を科されたことです。裁判が確定した時点で前科になります。実刑判決だけではなく執行猶予が付いた場合も前科になります。

 

 

不起訴処分になった場合は、刑事裁判になっていないので、前科はつきません。

不起訴とは?無罪との違いや前歴・罰金との関係

 

 

逮捕されたからといって必ず前科がつくわけではありません。逮捕された後に起訴され、有罪の刑事裁判が確定して初めて前科になります。逮捕されても、不起訴になれば前科はつきません。

 

罰金は前科になる?

罰金は1万円以上の財産刑です。罰金も懲役や禁錮と同じく刑罰の一種で、有罪の裁判によって科されるものですので、前科がつくことになります。

 

 

なお、罰金に似た刑罰として科料があります。科料は1万円未満の財産刑で最も軽い刑罰ですが、刑罰である以上、前科がつくことになります。

 

交通違反は前科になる?

交通違反で青切符を交付され反則金を払った場合は、前科はつきません。反則金は行政処分であり刑罰ではないからです。

 

 

これに対して赤切符を交付され罰金を払った場合、罰金は刑罰ですので前科がつきます。

赤切符とは?青切符との違いや後日の流れを元検察官が解説

 

 

交通違反で赤切符を交付された場合は、法廷ドラマで見るような正式裁判ではなく、簡易な略式裁判で審理され罰金を科されます。

略式裁判とは?罰金の金額や払えない場合について弁護士が解説

 

 

略式裁判は書面のみで審理され法廷は開かれません。結果は略式命令という書面で通知されるだけですので、刑事裁判を受けたという実感を持ちにくいですが、れっきとした裁判ですので前科がつくことになります。

 

前科と前歴の違いは?

前歴とは、警察や検察などの捜査機関によって捜査の対象にされたことです。前歴は前科よりも広い概念です。不起訴になれば前科はつきませんが、被疑者として犯罪捜査の対象にはなっているので前歴はつきます。

 

 

警察署で始末書を書いただけで帰されたような場合は、被疑者として捜査の対象になっておらず、前科はもちろん前歴すらつかないことが多いです。

 

 

取調べを受け供述調書が作成された場合は、刑事事件として立件されており、前歴がつく可能性が高いです。

 

前科と前歴の具体例

 ケース

前歴

前科

逮捕されたが、処分保留で釈放され、その後不起訴になった

×

逮捕・勾留された後に起訴され、懲役1年・執行猶予3年の判決を受けた

逮捕されず在宅で捜査を受けていたが、不起訴処分になった

×

逮捕されず在宅で捜査を受けていたが、略式起訴され30万円の略式命令を受けた。

*前歴は前科に吸収されますので、前歴と前科の両方に○がつく場合は、前科1犯としてカウントされます。

 

前科を調べることはできる?

前科は戸籍謄本にも住民票にものりません。破産者と異なり官報にものりません。罰金以上の前科に限り、本籍地の役場の犯罪人名簿に記録されますが、一般の方は閲覧できませんし、調べることもできません。

 

 

検察庁のデータベースには、科料や拘留を含め全ての前科が本人が死亡するまで保存されていますが、これも一般の方は閲覧できませんし、調べることもできません。

 

 

そのため、刑事事件が実名報道されたり本人が自分で言わない限り、前科が一般の方に知られることないでしょう。

 

前科と就職

1.履歴書に前科を書く義務はある?

判例で、履歴書の賞罰欄には前科を記載しなければならないとされています。賞罰欄のない履歴書であれば前科を記入する義務はありません。前歴は、賞罰欄があったとしても、記入する必要はありません。

 

 

エントリーシートで会社に応募する場合も同様に考えることができます。履歴書は、本人が賞罰欄がないものを用意すればすむ話ですが、エントリーシートは会社が用意するので、賞罰欄があれば前科を記入しなければなりません。

 

 

2.前科を言わない場合のデメリット

履歴書の賞罰欄に前科を書かずに採用された場合、その後に前科が会社に発覚すると、経歴詐称になり懲戒解雇の可能性がでてきます。

 

 

もっとも、実名報道されたり自分から言わない限り、前科が会社に発覚する可能性は低いです。

 

前科と海外渡航

1.日本からの出国

執行猶予中の方はパスポートの申請をしても発行されないことがあります(旅券法13条1項3号)。

 

 

パスポートを申請する際、申請書に質問が書かれており、それぞれの質問に対して「はい」か「いいえ」にチェックを入れて回答します。

 

 

前科に関する質問として、「現在日本国法令により、仮釈放、刑の執行停止又は執行猶予の処分を受けていますか。」という質問があります。

 

 

仮釈放中や執行猶予中の方はこの質問に「はい」と回答することになります。その結果、判決謄本や渡航事情説明書の提出を求められ、特別の審査を受けることになります。

 

 

審査の結果、パスポートが発行されない場合や、渡航先が制限されることがあります。

 

 

仮釈放中や執行猶予中であるにもかかわらず、「いいえ」と回答すれば、旅券法違反で逮捕・起訴されることがあります。刑罰は5年以下の懲役または300万円以下の罰金です(両方科されることもあります)。

 

2.海外への入国

前科があると渡航先のビザ免除プログラムを利用できず、観光旅行に行くだけでもビザを取得しなければならない場合があります。

 

 

ビザを申請した際、渡航先の大使館から犯罪経歴証明書(無犯罪証明書)の提出を求められることがあります。犯罪経歴証明書は、警察が作成するもので、申請者の前科の有無や犯罪名が記載されています。

犯罪経歴証明書についての警視庁のページ

 

 

犯罪経歴証明書により渡航先に前科が明らかになり、ビザを取得できないことがあります。実際にビザを取得できるかどうかは、渡航先の入国管理システムによって異なります。

 

 

弁護士事務所のホームページに、「渡航先の大使館に問い合わせてください」と書かれていることがありますが、実際は大使館に問い合わせても明確な回答は得られません。

 

 

信頼性の高い情報を得るためには、渡航先の移民弁護士に相談する必要がありますが、それ自体が大きな手間になってしまいます。

 

前科と資格の制限

師や看護師、介護福祉士、証券外務員など国家資格に基づく職業については、前科があると、国家試験に合格しても免許が与えられなかったり、保有している免許が取り消されることがあります。

 

 

例えば、医師については、罰金以上の前科があれば、医師国家試験に合格しても、医師免許が与えられないことがあります。

 

 

既に医師として活動している方についても、罰金以上の前科がついた場合は、医師免許の取消しや医業停止になることがあります。

 

前科・前歴と公務員

禁錮以上の刑が確定すると、官職につく能力を失い、公務員試験を受けることができなくなります。既に公務員になっている人についても、禁錮以上の刑罰が確定すると当然に失職します。

 

 

地方公務員については条例で例外が定められており、交通事故のように過失で刑事事件を起こし禁錮以上の刑になった場合は救済されることもあります。

公務員の刑事事件に関する3つの処分-休職・失職・懲戒

 

 

前科がつくのは有罪判決が確定した日ですが、公務員が刑事事件を起こした場合、実際は前科がつく前に、戒告、減給、停職、免職などの懲戒処分を受けるのが通常です。

 

 

不起訴となり前歴にとどまる場合も、職場に発覚すれば懲戒処分を受ける可能性が高いです。

 

 

前科のその他のデメリット

1.さらに罪を犯すと処分が重くなりやすい

前科のある被疑者がさらに別の罪を犯すと、初犯の方に比べて、逮捕・起訴される可能性が高くなります。

 

 

刑事裁判では、「前科があるから今回の事件もやったに違いない。」と前科を理由に有罪を認定することは原則として許されません。

 

 

ただ、他の証拠から有罪を認定した上で、「刑罰の程度」を判断するにあたって、前科を理由に刑罰を重くすることは許されます。

 

 

執行猶予中に新たに罪を犯して起訴された場合は、新たな犯罪で実刑になる可能性が非常に高くなります。そうなると執行猶予も取り消され、2つの判決を合計した期間、刑務所に入ることになります。

執行猶予の取り消しとは?執行猶予の取り消しを防ぐ3つの方法を解説

 

 

2.薬物犯罪の前科があると職務質問がきつくなる

薬物犯罪の前科がある場合は、警察に職務質問された際、やましいところがなくてもすぐに解放してもらえないことが多いです。

 

 

職務質問の現場で警察官によって前科照会が行われ、薬物犯罪の前科が判明すると、「鞄の中を見せてください。」、「袖をまくって肘を見せてください。」等と言われたり、車の中を捜索されたり、尿検査を迫られることが多いです。

 

 

3.選挙権や被選挙権が一時的になくなることがある

懲役・禁錮の実刑を受け刑務所に入っている間は選挙権も被選挙権もありません。仮釈放となり出所しても、刑期を満了するまでは選挙権も被選挙権もありません。

 

 

また、選挙犯罪、収賄罪など一定の犯罪で前科がついた場合は、一定の期間、選挙権・被選挙権を喪失します。

 

前科は消える?

1.前科が消える要件

刑法には前科の抹消についての規定があります。整理すると次のようになります。

 

刑罰の種類

前科抹消の要件

禁固刑、懲役刑

刑期を終えた後に罰金以上の刑に処せられないで10年を経過したとき

罰金以下の刑

罰金支払い後、罰金以上の刑に処せられないで5年を経過したとき

 

 

2.前科が消えるとどうなる?

前科抹消の主な効果は次の3つです。 

 

 

①本籍地の犯罪人名簿から抹消される

②前科による資格の制限を受けなくなる

③履歴書の賞罰欄に前科を記載する必要がなくなる

 

 

このうち特定の方への影響が最も大きいのは②です。例えば、執行猶予付きの懲役・禁錮刑を受けると、公務員試験を受けることができなくなりますが、猶予期間が経過すれば、前科が抹消され、公務員試験を受けられるようになります。

 

 

3.前科が消えても残るもの

前科が抹消されても、過去に刑の言渡しを受けたという事実そのものがなくなるわけではありません。

 

 

そのため、検察庁のデータベースには前科情報が一生残ります。新たな犯罪を起こしたときには、抹消された前科も新たな犯罪の処分に影響を与えることがあります。

 

【詳細ページ】刑の消滅とは?前科があっても資格をとって活躍できる!

 

前科をつけないようにするために

1.起訴されると前科がつく可能性が高い

司法統計によれば、起訴されれば、99.9パーセント以上の確率で有罪判決が下されます。

 

 

もっとも、起訴される確率は刑事事件の約5割にとどまります。そのため、前科をつけないようにするためには、起訴された「後に」無罪を狙うより、起訴される「前に」不起訴を狙う方が現実的です。

不起訴とは?無罪との違いや前歴・罰金との関係

 

 

2.自白事件と前科の回避

本人が容疑を認めているのであれば、「起訴猶予」による不起訴を目指します。起訴猶予を獲得するためには、何よりも被害者と示談をすることが重要です。

 

 

被害者がいない犯罪の場合は、反省の気持ちを示すために贖罪寄付をしたり、再発防止のプランを作成・実践することにより、起訴猶予による不起訴を目指します。

 

 

3.否認事件と前科の回避

否認事件で前科を回避するためには、「嫌疑なし」または「嫌疑不十分」による不起訴を目指すことになります。

 

 

否認していても、取調官のプレッシャーに負けてしまい、「私がやりました」という自白調書をとられてしまうと起訴される可能性が高くなります。

 

 

弁護士が本人とひんぱんに接見したり、不当な取調べに対して抗議したりして、自白調書がとられないようバックアップします。

 

 

詳しくは刑事事件の経験豊富な弁護士に相談してください。

 

【関連ページ】否認事件の刑事弁護

 

前科についてのご質問

Q:前科が結婚する際に障害になることがありますか?

一般の方は前科を調べることができないので、実名報道された場合や前科について知っている共通の知人がいない限り、前科が交際相手に発覚することはありません。そのため、結婚の障害にはなりません。

 

 

Q:前科があると住宅ローンの審査に通らないと聞いたことがありますが本当でしょうか?

金融機関であっても、前科の有無や内容について知ることはできませんし、そもそも融資審査の項目にもなっていませんので、前科自体が住宅ローンの審査に影響することはありません。

 

 

Q:17歳の時に刑事事件を起こして少年院に入ったことがあります。これは前科になるのでしょうか?

少年院送致や保護観察といった家庭裁判所の保護処分は、前歴にはなりますが前科にはなりません。