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業務上横領で逮捕や刑罰のめやすは?示談や弁護士費用も解説
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
目次
業務上横領の成立要件
業務上横領の要件は、自分が業務で管理しているお金を着服することです。「自分が管理しているお金」であることがポイントです。
会社内で自分が管理していないお金をとった場合は、業務上横領ではなく窃盗になります。
架空請求や水増し請求により会社をだましてお金をとった場合は詐欺罪になります。自分が管理しているお金をとったわけではないので業務上横領罪にはなりません。
【よくある業務上横領の事例】 ①営業マンが顧客から集金した売上金を自分の物にした ②会社のキャッシュカードを預かっていた会計係が、そのカードでお金を引き出して自分の物にした ③会社の金庫の鍵をもっている会計係が金庫を開けてお金をとった |
業務上横領と背任の区別
背任罪は、会社の従業員が、自分の利益を図る目的で、任務に反する行為をして、会社に損害を与えた場合に成立します。刑罰は5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
業務上横領と共通する面もありますが、一つの行為が業務上横領罪にも背任罪にもあたる場合は、刑の重い業務上横領罪のみが成立するとされています。
そのため、背任の要件に該当する場合でも、自分で管理しているお金をとった場合は業務上横領罪が成立します。
【よくある背任の事例】 ①取引先に不要な物品を発注し、自己の関係先に送ってもらい転売した ②銀行職員が融資先からリベートをもらい不正に融資した |
業務上横領と逮捕
業務上横領で逮捕されるケースでは、事前に会社が警察に告訴状を提出し、受理されているはずです。
告訴状が受理されても必ず逮捕されるわけではありません。横領額が100万円未満のケースでは、「本人が否認している」、「住居不定である」、「執行猶予中である」といった特別の事情がない限り逮捕される可能性は低いです。
これに対して、横領額が200万円を超えると逮捕される可能性が高くなっていきます。1000万円を超えていれば、逮捕される可能性は非常に高いです。早急に弁護士をつけて会社と示談交渉した方がよいでしょう。
業務上横領の判例
加害者の立場 |
横領金額 |
被害弁償 |
判決 |
労働組合の書記 |
3億4000万 |
2000万 |
懲役8年 |
社会福祉法人の会計責任者 |
3億6000万円 |
2億5000万円 |
懲役4年6月 |
社会福祉法人の理事長 |
3700万円 |
なし |
懲役4年 |
町役場の会計担当者 |
2700万円 |
110万円 |
懲役3年 |
コンビニ店長 |
1400万円 |
80万円 |
懲役3年 |
社団法人の職員 |
約125万円 (起訴されていない横領を含めると約900万円) |
30万円 |
懲役1年4月 |
法律事務所の事務員 |
240万円 (起訴されていない横領を含めると約900万円) |
530万円 |
懲役2年6月・執行猶予4年 |
*金額は概算で表記しています。
業務上横領の金額と刑罰の関係
上記の判例からもわかるように、業務上横領で起訴された場合、実刑になるか執行猶予になるかや懲役の期間は、「被害弁償しきれていない金額」と密接に関連します。
「被害弁償をしきれていない金額」とは「起訴されていない横領を含めたすべての横領額」-「被害弁償をした金額」のことです。
被害弁償しきれていない金額が300万円を超えると実刑になる可能性が高くなっていきます。もっとも、300万円未満でも被害弁償にむけた努力を何もしていない場合は、実刑になる余地が十分にあります。
被害弁償しきれていない金額が1億円程度になると懲役5年前後の実刑になることが多いです。
被害弁償しきれていない金額が1000万円から3000万円程度のケースでは懲役3年前後の実刑になる可能性が高いです。数百万円であれば実刑になったとしても懲役1年~2年程度にとどまるでしょう。
ただ、これらは全て「示談が成立していない場合」の量刑傾向です。分割弁済の示談が成立し、示談書に「許す」という言葉が書かれていれば、判決の時点で被害弁償しきれていない金額が数千万円あったとしても、執行猶予を獲得できる余地は十分にあります。
業務上横領の時効
業務上横領は刑事事件にも民事事件にもなり得ます。それぞれの時効期間は次の通りです。
1.刑事事件の時効
横領行為のときから7年です。
2.民事事件の時効
加害者が横領したことが発覚したときから3年または横領行為のときから20年です。
業務上横領は何度も継続的に行われることが多いですが、刑事の時効も民事の時効もそれぞれの横領ごとに個別に進行します。そのため長期間にわたって横領をしていたケースでは、時効になっていない一部のみ起訴されたり損害賠償請求されることがあります。
業務上横領と会社の対応
業務上横領が会社に発覚した場合は、まずは自宅待機になることが多いです。その後何度か会社に呼び出されてヒアリングを受けることになります。会社に顧問弁護士がいる場合は、弁護士事務所でヒアリングを受けることもあります。
零細企業で代わりの職員がいない場合は、業務上横領が発覚しても、これまで通り業務を続けるよう指示されることもあります。
通常は何度かヒアリングを受けた後に懲戒解雇になるケースが多いです。会社は、懲戒解雇の処分を出す前に労基署に解雇予告の除外認定を申請します。その後、労基署から本人に「事情を聞かせてほしい。」と連絡が入ります。
早期に弁護士に依頼することにより懲戒解雇ではなく諭旨解雇や自主退職に持ち込めるケースもあります。
中小企業の場合は、取締役や従業員が本人の実家におしかけ、両親に返済や担保の提供を迫ったり、本人を会社の一室に閉じ込め自由に行動させないケースもあります。
弁護士に依頼すれば、このような無理な対応をストップさせることができるでしょう。
少額の業務上横領
数万円程度の少額の業務上横領であれば、会社と交渉して全額を一括で返済できれば、刑事事件にならないことが圧倒的に多いです。
同僚のサイフの中からお金を盗む職場窃盗であれば、1、2万円程度の少額であっても、被害者の意向によっては、警察に被害届が出されて刑事事件化します。逮捕されることもあります。
これに対して、少額の業務上横領のケースでは、一括で返済できる限り事件化することはほとんどありません。
警察も少額の業務上横領で会社から被害相談を受けても、「捜査資源の適正な配分」という観点から、積極的に立件しようとはしませんし、当事者同士での解決を促しているのが実情です。
とはいえ、全く返済せずに放置していれば、刑事事件化することもあり得ます。もし少額の業務上横領が会社に発覚した場合は、すぐに一括で返済した方がよいでしょう。
業務上横領と示談
業務上横領では、会社と示談をすることも最も重要な弁護活動になります。警察に被害届や告訴状が受理される前に示談が成立すれば、示談で決めた条件に違反しない限り、刑事事件にはなりません。刑事事件にならなければ、逮捕も起訴もされません。
横領してしまったお金を一括で返済できる場合は、示談が成立する可能性が高くなります。
刑事事件化した後でも速やかに示談が成立すれば、逮捕や起訴を回避できる可能性が高まります。起訴されても判決のときまでに示談が成立すれば執行猶予になる可能性が高まります。
借金があって示談金をねん出できないという場合は、まずは自己破産の申立てをして、他の借金を整理してから、会社と示談交渉をすることもあります。
業務上横領をしたが返済できない場合
業務上横領をしたが返済できない場合は、分割払いでの示談を目指すことになります。業務上横領のケースでは、被害金額に対応して示談金が数千万円を超えることもありますので、一括で返済できないケースも多々あります。
その場合は、弁護士が分割返済を条件として示談ができるよう会社側と交渉します。ウェルネスの弁護士はこれまで100件程度の業務上横領を手掛けていますが、多くのケースで分割払いでの示談を成立させています。10年以上の分割払いで示談をまとめたこともあります。
長期の分割払いで示談する場合は、会社としても回収の不安があることから、連帯保証人や抵当権の設定を求めてくるでしょう。
また、不払いがあった場合は民事裁判を経ずに預金や給与の差し押さえ等ができるよう強制執行認諾文言付きの公正証書を作成することを求めてきます。
無理をして月々の返済額をぎりぎりまで多く設定すると、何かあったときに返済できなくなるリスクもあるため、家庭を維持しながら余裕をもって返済できるよう弁護士が会社と交渉します。
業務上横領の弁護士費用
業務上横領の弁護士費用の相場は50万円~200万円程度になります。ネット広告で集客している大手の法律事務所では、逮捕されていない事件でも100万円近くの費用はかかるでしょう。
業務上横領のケースでは会社に返済をして示談をまとめられるかどうかが最重要です。弁護士費用で予算を使い切ってしまい会社に返済できなくなれば、弁護士を雇った意味がなくなってしまいます。
長期の分割弁済を前提として会社と示談交渉をする場合、まず最初にまとまった金額をお支払した方が示談が成立する可能性が高くなります。そのため、弁護士に依頼した時点で、ある程度のお金を手元に準備しておいた方がよいです。
予算が限られている場合は、「示談の成功率を上げる」という観点からも、なるべく弁護士費用を安くおさえられる法律事務所で契約をした方がよいでしょう。
ウェルネスではご依頼者が逮捕されていない場合の着手金は20万円(税別)になります。着手金以外は分割払いも可能ですので、お気軽にご連絡ください。
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