刑事事件と供託

このページはウェルネス法律事務所の弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

供託とは

供託とは、債権者がお金を受けとってくれないときに、債務者が供託所にそのお金を納付することです。供託することによって債権者にお金を支払う義務が消滅します。

 

供託が必要なケースとしては、「アパートの賃借人が家主に家賃を持って行ったが、家主がそれを受け取らなかった場合」が挙げられます。 「そんなことあるの?」と思われるかもしれませんが、家主が賃借人を追い出そうと思って、あえて家賃を受け取らないということはあり得ます。

 

賃借人としては、家賃を受け取ってもらえないからといって、家賃の支払い義務がなくなるわけではありません。あとで家主から「家賃を払ってくれないので退去してくれ」等と言いがかりをつけられるとたまったものではありません。

 

供託所に供託しておけば、支払ったものとして扱われますので、このような言いがかりをブロックすることができます。

 

賃借人が供託すれば、家主は供託所に請求して、そのお金を受け取ることができます(これを「供託金の還付といいます)。家主が還付請求をしない場合、賃借人は、供託所に請求して、供託金を返してもらうことができます(これを「供託金の取り戻しといいます)。

 

 

刑事事件と供託

刑事事件で供託する目的は、先ほどの家賃の例のように、相手の言いがかりを阻止するためというよりも、事件によって生じた被害を回復するためです。

 

痴漢盗撮などの性犯罪、暴行傷害などの暴力犯罪をはじめとして、ほとんどの刑事事件には被害者がいます。被害者がいる刑事事件では、被害者との間で示談を成立させることが何よりも大切です。示談が成立すれば、示談金を被害者に直接支払うことによって被害回復を行うことになります。

 

もっとも、常に示談が成立するとは限りません。示談が成立しない場合でも、供託という形で、被害回復に向けた活動をすることによって、刑事処分が軽くなる可能性が高まります。

 

 

被害者の氏名・住所がわからなくても供託できる?

(1)氏名について

被害者の氏名がわからないと供託の対象が特定できないため、供託することはできません。

 

起訴された後であれば、被害者の氏名が記載された起訴状が加害者に郵送されますので、氏名がわからないことはありません。

 

起訴される前の時点では、検察官は、交通事件を除き、加害者本人に被害者の氏名や電話番号を教えることは通常ありません。弁護士が選任されていれば、検察官は、被害者の意思を確認し、氏名や電話番号を教えても問題ないということであれば、弁護士限りで教えてくれます。

 

弁護士が間に入ることにより、多くのケースでは氏名や電話番号を教えてくれますが、性犯罪等では、被害者が氏名を教えることを望まないこともあります。そのようなケースでは供託できないことになります。

 

この場合、贖罪寄付を検討することになります。贖罪寄付は被害者の氏名がわからなくても可能です。

 

(2)住所について

供託をするためには、原則として、加害者側が被害者の氏名と住所を知っていることが必要です。「氏名は知っているけれども住所は知らない」という場合、どこに住んでいるのか全くわからなければ、供託することはできません。

 

供託を取り扱っているのは法務局です。法務局の管轄は被害者の住所によって決まります。そのため、被害者の住所が全く分からなければ管轄の法務局を特定できず、供託できないということになります。

 

管轄の法務局を特定できる程度に住所が判明していれば供託できます。例えば、「東京都23区内に住んでいることは確実だが、どの区に住んでいるかわからない」という場合は供託することができます。東京23区は全て東京法務局の管轄です。そのため区まで特定できていなくても供託することができるのです。

 

供託官によっては、「同姓同名の人間もいるので氏名と住所が完全に判明していなければ、供託申請を受理できない。」と言う方もいます。しかし、供託書の備考欄に裁判所の事件番号や検察庁の検番を記載すれば、それをもって被供託者は特定できますので、弁護士が粘り強く供託官と交渉することが大切です。

 

 

供託金の決め方

(1)財産的損害について

詐欺窃盗により被害者のお金をとったり、けがを負わせて治療費を支出させた場合など、財産的な損害を与えた場合は、その損害額が供託金の基準となります。

 

(2)精神的損害(慰謝料)について

慰謝料については供託金額を決める明確な基準はありません。そのため、加害者側が妥当な金額を決めることになります。供託所が加害者に対して、事件の内容をふまえて、「この事件であれば50万円になります」等と具体的な金額を指定するわけではありません。

 

このように慰謝料について供託金額は自由に決められますが、刑事事件で供託をする場合、事件の内容に応じてある程度の相場があります。

 

相場よりも著しく低い金額で供託しても、被害者の感情を逆なでしてかえって逆効果になることもあります。金額については弁護士に相談して決めた方がよいでしょう。

 

 

供託金と遅延損害金

供託に際しては、損害の元金だけではなく、遅延損害金もあわせて納付しないと、受けつけてもらえません。

 

刑事事件については、事件の発生日から年5パーセントの割合で遅延損害金が発生します。1年未満の場合は日割りで計算します。

 

 

供託前にすべきこと

金額が決まっても、いきなり供託することはできません。

 

供託するためには、被害者に対して、「損害の元金と遅延損害金を支払いますので受けとってください」とアプローチして拒否される必要があります(受領拒否)。原則として、何のアプローチもせずにいきなり供託することはできません。

 

刑事事件で供託をする場合、被害者の住所や電話番号がわからず、アプローチすることができないケースもあります。そのような場合は検察官を通じてアプローチすることになります。具体的な流れは以下のようになります。

 

①弁護士が検察官に対して、具体的な賠償金額を明示して、被害者に受け取ってもらえないか確認するよう依頼します

②検察官が被害者に確認→被害者から受け取りを拒否される(この段階で被害者が「受けとってもよい」ということであれば、供託する必要はなくなります)

③弁護士が検察官に、被害者とやりとりをした日ややりとりの内容を聴き取り、供託書に記載する。

 

 

供託後にすべきこと

加害者が供託すると、供託官が被害者に対して、加害者から供託があったことを書面で通知します。もっとも、刑事事件で供託するケースでは、被害者の住所が全て判明していないことも少なくありません。この場合、供託官が被害者に通知することはできません。

 

このようなケースでは検察官を通じて被害者に通知することになります。具体的な流れは以下のようになります。

 

①弁護士が検察官に供託書を提出し、被害者への通知を依頼

②検察官が被害者に供託があったことを通知

③弁護士が検察官にいつ被害者に通知したかを確認し、その結果を報告書にまとめる

④供託書と報告書を証拠として裁判所に提出する

 

 

供託金は戻ってくるのか

被害者から供託金の還付請求がなければ、加害者は供託金を取り戻すことができます。逆に、被害者から還付請求があれば、供託金は被害者に支払われますので、加害者が取り戻すことはできません。

 

加害者にとっては、被害者に供託金を受けとってもらった方が、刑事処分が軽くなる可能性が高まります。そのため一度供託すれば、刑事処分が出るまでは取戻請求を行わないのが通常です。

 

刑事処分が確定した場合、その後に供託金が被害者に支払われても、いったん確定した処分が軽くなるわけではありません。そのため、刑事処分のことだけを考えれば、取り戻しても問題ありません。

 

もっとも、その後に民事の紛争になることもありますので、供託金を取り戻すか否かは弁護士と相談してから決めてください。

 

 

供託金取戻請求権の放棄

被害者が供託金を受けとらない限り、加害者は供託金を取り戻すことができます。この権利を取戻請求権といいます。

 

取戻請求権は放棄することができます。放棄すれば、被害者が供託金を受けとらない限り、供託金は供託所で保管されます。取戻請求権を放棄しても、供託金を受けとるか否かは、被害者の自由です。放棄したからといって、自動的に被害者の口座に供託金が振り込まれるわけではありません。

 

とはいえ、被害者としては、10年の消滅時効が来るまでは、いつでも供託金を受けとれますので、より被害者のためになるといえます。そのため、放棄した方がさらに処分が軽くなる可能性が高まります。

 

 

供託と弁護士

家賃等とは異なり、刑事事件で供託をする場合、誰でも簡単に供託の手続をすることができるわけではありません。

 

供託する際は、供託書に「供託の原因たる事実」を記載しますが、弁護士であっても、供託所と事前にやりとりしないと適切に記載できないことが多いです。供託の前には被害者へのアプローチが必要ですし、供託した後は供託したことの通知も必要です。

 

また、供託して終わりというわけではなく、供託書や関連資料を検察官や裁判官に提出し、意見書や弁論要旨において、それがどのような意味をもつのか主張することも必要です。

 

刑事事件で供託を検討している方は、まずは弁護士に相談してみてください。

 

 

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