供託で不起訴となりうる3つのケース

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

供託で不起訴を獲得できることがある

検察官は、起訴するか不起訴にするかを決めるにあたって、被害者と示談ができているか否かを非常に重視します。もっとも、たとえ示談ができなくても、被害弁償をすることにより、不起訴になる可能性が高まります。

 

被害弁償とは被害者に直接、賠償金をお支払いすることです。示談との違いは、被害者にお金をお支払いするだけで、「許す。」とか「刑事処罰を求めない。」等と書かれた示談書が作成されないことです。

 

示談にせよ、被害弁償にせよ、被害者と話し合って納得してもらうことが前提になります。それでは、被害者の納得が得られない場合、起訴されて前科がつくことは避けられないのでしょうか?

 

結論からいうと、示談や被害弁償ができなくても、供託によって不起訴を獲得できることがあります。

 

供託とは、債務者がお金を払いたくても債権者が受けとってくれないときに、そのお金を供託所に預けることです。債権者は供託所からそのお金を受けとることができます。

刑事事件と供託

 

示談や被害弁償とは異なり、被害者に直接、お金を受けとってもらえるわけではありませんので、不起訴のハードルは高くなりますが、次の3つの刑事事件では供託によって不起訴を獲得できる余地が十分にあります。

 

供託によって不起訴となりうる3つの刑事事件

① 置き引き

置き引きのケースでは、弁護士が被害者と交渉することにより、示談をしてもらえることが多いです。

 

もし示談や被害弁償ができなかったとしても、被害金額が数万円程度であれば、供託をすることにより、不起訴を獲得できる可能性が十分にあります。

 

置き引きは、刑法の窃盗罪になるケースと遺失物横領罪になるケースがあります。所有者や管理者の占有が及んでいるときは窃盗、道ばたに置き忘れた場合など誰の占有も及んでいないときは遺失物横領になります。

置引き

 

遺失物横領の方が刑が軽いため、供託により不起訴を獲得できる可能性が高くなります。 

窃盗

①10年以下の懲役、②50万円以下の罰金のいずれか

遺失物横領

①1年以下の懲役、②10万円以下の罰金、③科料のいずれか

 

② 業務上横領

被害額が100~200万円程度の業務上横領のケースでは、供託をすることによって、不起訴を獲得できることが少なくありません。

 

刑事事件として立件されている業務上横領が全体の一部であり、事件化していない余罪がある場合でも、事件化している横領についてのみ供託をすることにより、不起訴を獲得できることもあります。

 

被害金額が数百万円を超えてくると、供託をしても起訴されて懲役刑を請求される可能性が高くなります。ただ、供託をすれば執行猶予の可能性が高まるため、可能であれば供託をした方がよいでしょう

 

ウェルネスの弁護士も業務上横領で供託をすることにより不起訴を獲得したことがあります。

 

③ 暴行

駅などで相手とぶつかりつい手が出てしまったようなケースや、被害者にも落ち度があるケースでは、仮に示談や被害弁償ができなくても、供託をすることにより不起訴を獲得できる余地が十分にあります。

 

相手に全く落ち度がない場合や強度の暴行を加えた場合は、供託をしても不起訴は難しくなります。

 

供託で不起訴を獲得するための注意点

氏名不詳者に供託をすることはできませんので、供託をするためには被害者の氏名を知っている必要があります。

 

供託金は管轄の供託所に納付します。刑事事件の加害者が被害者に供託する場合は、被害者の住所地を管轄する供託所に納付することになります。

 

そのため供託所の管轄がわかる程度に被害者の住所を知っていることが必要になります。例えば「東京23区内に在住」ということがわかれば、「東京法務局」と管轄を特定することができます。

 

住所が全くわからなければ、管轄の供託所が特定できず供託できないということになります。弁護士が、検察官に対して、氏名とおおよその住所を教えてもらえるよう交渉します。

 

供託の相談は弁護士へ

供託は、債権者がお金を受けとってくれないときに利用できる制度です。そのため、事前に被害弁償の申し入れをしていないと、供託をすることはできません。

 

手続も複雑です。何度も繰り返し行っていた業務上横領のケースでは、遅延損害金もまとめて計算するわけではなく、個別の横領ごとに計算することになります。

 

刑事事件で供託をするためには弁護士に依頼した方がよいでしょう。弁護士であれば、被害者の氏名やおおよその住所を教えてもらえることも多々あります。

 

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