現行犯逮捕とは?通常逮捕との違いや現行犯逮捕されたときの対処法

現行犯逮捕

 

逮捕には、通常逮捕、緊急逮捕、現行犯逮捕の3つの種類がありますが、このページでは現行犯逮捕について解説します。

 

 

このページは元東京地検特捜部の検察官が執筆し、弁護士 楠 洋一郎が監修をしています。

 

 

  

 

現行犯逮捕とは

1.現行犯逮捕の意味

目の前で犯罪を行っている者、または、犯罪を行った直後の者を現行犯人といいます。現行犯人を逮捕することが現行犯逮捕です。

 

【刑事訴訟法212条1項】

現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とする。

 

【刑事訴訟法213条】

現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

 

 

2.現行犯逮捕の要件

犯行直後の者については、犯行と逮捕との間に時間的・場所的な隔たりがないことが現行犯逮捕の要件になります。

 

 

どの程度の時間的・場所的な隔たりであれば現行犯逮捕が許容されるのかは、個々のケースによって異なってきます。

 

 

例えば、犯行を目撃してから取り押さえるまで一度も見失うことなく追跡していた場合は、かなりの隔たりがあっても許容されるでしょう。

 

 

通常逮捕については、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれといった逮捕の必要性が要件とされていますが、現行犯逮捕の場合は、これらは一般的に推定されていて、個々のケースで具体的に判断する必要はないとされています。

 

 

準現行犯逮捕とは

目の前で犯罪を行っていたり、犯罪を行った直後というわけではありませんが、次の2つの要件に該当する場合は、現行犯人とみなされます。狭義の現行犯人と区別するために「準現行犯人」と言われます。

 

 

【要件①】以下の4つのいずれかに該当する

①犯人として呼ばれたり追いかけられているとき

②窃盗品や犯罪に利用したと思われる凶器等を所持しているとき

③服に返り血がついている等、犯罪の顕著な痕跡があるとき

④氏名等を尋ねられて逃げようとするとき

 

【要件②】罪を行い終わってから間がない明らかに認められる

 

このタイプの現行犯人を逮捕することを準現行犯逮捕といい、現行犯逮捕と同じように扱われます。このページでは狭義の現行犯逮捕と準現行犯逮捕をまとめて現行犯逮捕と表記しています。

 

 

【刑事訴訟法212条2項】

左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。

1 犯人として追呼されているとき。

2 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。

3 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。

4 誰何されて逃走しようとするとき。

 

 

現行犯逮捕は逮捕状なしでできる

現行犯逮捕は逮捕状なしですることができます。

 

 

【刑事訴訟法213条】

現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

 

 

逮捕は人の意思に反して身体を拘束するという点で人権侵害にあたります。そのため、逮捕する際には令状が必要であると憲法で定められています。

 

 

もっとも、現行犯逮捕のケースでは、犯罪と犯人が明白で誤認逮捕のおそれがありません。また、その場で逮捕しないと犯人に逃げられてしまいます。

 

 

そのため、憲法でも現行犯逮捕については令状が不要とされています

 

【憲法33条】

何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

 

 

現行犯逮捕は一般人でもできる

現行犯逮捕は要件を満たしていれば誰でもすることができます。

 

【刑事訴訟法213条】

現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

 

 

一般人による現行犯逮捕を私人逮捕といいます。被疑者に対して「逮捕する!」と言う必要はなく、身体の一部をつかんで取り押さえた時点で現行犯逮捕とみなされます。

 

 

私人逮捕した場合は、直ちに被疑者を司法警察職員等に引き渡さなければなりません。難しく考える必要はなく、110番して警察の指示に従っておけば問題ありません。

 

【刑事訴訟法214条】

検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない。

 

 

現行犯逮捕手続書とは

被疑者を現行犯逮捕した場合、捜査員は「現行犯逮捕手続書」という書面を作成します。

 

 

現行犯逮捕手続書には、現行犯人と認めた状況、逮捕の日時と場所、逮捕者、逮捕前後の被疑者の言動などを記載します。

 

 

現行犯逮捕された-その後の流れは?

現行犯逮捕されると、警察官によって最寄りの警察署に連行され、すぐに取調べが始まります。その後の流れは通常逮捕された場合と同様です。

 

 

警察は現行犯逮捕した時から48時間以内に被疑者を検察官に送致します。検察官は送致を受けた時から24時間以内に、被疑者を勾留請求するか釈放します。

 

 

検察官が勾留請求した場合、裁判官が被疑者に勾留質問を行い、勾留するか釈放するかを決めます。勾留されると原則10日・最長20日にわたって拘束されます。検察官はその間に被疑者を起訴するか釈放しなければなりません。

 

 

起訴されれば、原則2か月勾留され、以後1か月単位で勾留が更新されます。

起訴前の流れ(逮捕・勾留あり)

 

 

現行犯逮捕できないケース

①30万円以下の罰金、②拘留、③科料にあたる罪については、次の2つの要件のいずれかを満たさない限り、現行犯逮捕はできません。

 

要件1.犯人の住居または氏名が明らかでないとき。 

要件2.犯人が逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

 

 

【法定刑が30万円以下の罰金,拘留,科料に当たる罪の例】

罪名等

法定刑

過失建造物等浸害罪

20万円以下の罰金

過失往来危険罪

30万円以下の罰金

変死者密葬罪​

10万円以下の罰金又は科料

過失傷害罪

30万円以下の罰金又は科料

侮辱罪

拘留又は科料

軽犯罪法違反

拘留又は科料

 

 

【刑事訴訟法217条】 

三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯については、犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、第二百十三条から前条までの規定を適用する。

 

 

現行犯逮捕と通常逮捕の違い

通常逮捕する場合、警部以上の警察官や検察官が裁判官に逮捕状を請求します。

 

 

請求を受けた裁判官は、逮捕してよいかどうかを審査して、逮捕してよいと判断した場合に逮捕状を発付します。警察官がこの逮捕状を被疑者に示して逮捕します。

 

 

通常逮捕は、逮捕状が必要であるという点と一般人は逮捕できないという点で現行犯逮捕と異なります。

 

 

現行犯逮捕と緊急逮捕の違い

緊急逮捕は、一定の重大犯罪について所定の要件を満たす場合に、逮捕状なしでできる逮捕です。

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緊急逮捕が問題になるケースでは、逮捕者の目の前で犯罪が行われているわけではなく、要件に該当するかどうかについて高度の判断が求められるため、一般人は緊急逮捕できません。

 

 

また、緊急逮捕する時点では逮捕状は不要ですが、逮捕後に速やかに逮捕状を請求し許可される必要があります。これらの点が現行犯逮捕との違いです。

 

 

現行犯逮捕されやすい事件

現行犯逮捕されやすい事件は次の通りです。

 

痴漢

被害者や目撃者に私人逮捕されて駅事務所に連れて行かれ、駆けつけた警察官に引き渡されます。

 

 

盗撮

スカレーター上で盗撮しているときに前に立っていた被害者や後ろにいた目撃者に見つかり私人逮捕されることが多いです。

 

 

暴行・傷害・器物損壊

お酒が入り抑えがきかなくなっている状態で、暴力をふるったり店の物や看板を壊したりすると、駆けつけた警察官に現行犯逮捕されることが多いです。

 

 

窃盗

現行犯逮捕が最も多いのは万引きです。店の従業員や警備員によって私人逮捕されます。下着泥棒が住人や目撃者に見つかって私人逮捕されることもあります。

 

 

詐欺

詐欺の現行犯逮捕で昔からよくあるのが無銭飲食です。特殊詐欺で被害者がだまされていることに気づいた場合は、だまされたふり作戦が実施され、事情を知らない受け子が詐欺未遂で現行犯逮捕されます。

 

 

薬物犯罪

警察の職務質問を受け、所持品検査で覚せい剤や大麻らしき物が発見されると、その場で試薬を使った予試験が実施されます。陽性反応が出れば薬物所持で現行犯逮捕されます。

 

 

銃刀法違反

警察の所持品検査を受けた際、所持しているナイフが発見され、刃体の計測を受けて銃刀法違反に該当すれば、現行犯逮捕されることがあります。

 

 

交通事件

無免許運転、酒気帯び・酒酔い運転、危険運転で人身事故を起こした場合は、現行犯逮捕されることが多いです。

 

 

通常の死亡事故の場合でも、遺族感情への配慮や被疑者の自殺防止のために現行犯逮捕することがありますが、すぐに釈放されることが多いです。

 

 

交通違反

交通三悪(無免許・酒気帯び・酒酔い)は、現行犯逮捕される確率が高いです。特に、年2回、春と秋に行われる「全国交通安全運動」期間中の検問等で「無免許・酒気帯び・酒酔い」が発覚した場合には、ほぼ間違いなく現行犯逮捕されます。

 

現行犯逮捕されたら弁護士を呼ぼう

1.冤罪で現行犯逮捕された場合

痴漢冤罪のケースなど、現行犯逮捕であっても誤認逮捕はあり得ます。もし、心当たりがないのに現行犯逮捕された場合は、弁護士がくるまで黙秘してください。

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取調官のプレッシャーにおされて「私はやりました」という自白調書をとられてしまうと、その後に不起訴や無罪を獲得することが困難になります。

 

 

2.自分が犯人で間違いない場合

「自分がやったことに間違いない」という場合は黙秘する必要はありません。ただ、供述調書にサインをする前に、調書の内容を確認させてもらい、記憶と異なることが書かれていないかどうかチェックしてください。

 

 

もし記憶と異なることが書かれている場合は取調官に削除や訂正を申し立ててください。応じてくれない場合はサインをする必要はありません。

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3.まずは弁護士を呼ぼう

現行犯逮捕されれば、心当たりがあるか否かにかかわらず、なるべく早く弁護士を呼んで、釈放に向けて動いてもらうべきです。

 

 

とはいえ、逮捕されるとスマホを使うこともできなくなるので、自分で弁護士を探すことはできません。

 

 

そのため、まずは当番弁護士を呼んでください。当番弁護士とは、弁護士会から警察署に派遣され、逮捕された被疑者のために無料で1回接見してくれる弁護士です。

 

 

留置場の係官に「当番弁護士を呼んでください」と言えば、あとの手続きは全てやってもらえます。

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当番弁護士と接見した後に「この人に弁護してもらいたい。」と思えば、弁護士費用の取り決めをして、私選弁護人として依頼することができます。

 

 

予算がなければ勾留された後になってしまいますが、当番弁護士に国選弁護人になってもらうこともできます。

 

 

当番弁護士にせよ国選弁護人にせよ、ご自身でどの弁護士にするかを選ぶことはできません。弁護士を選んでもらいたいということであれば、ご家族に私選弁護人を探してもらうことになります。

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