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緊急逮捕とは?現行犯逮捕との違いや事例を弁護士が解説

緊急逮捕

 

 

逮捕には、通常逮捕、現行犯逮捕、緊急逮捕の3種類があります。このページでは弁護士 楠 洋一郎が緊急逮捕について知っておきたいことを解説しました。ぜひ参考にしてみてください。

 

 

 

 

緊急逮捕とは

緊急逮捕は一定の重大事件について逮捕状なしで行う逮捕手続です。

 

 

現行犯逮捕については逮捕状が不要とされていますが、現行犯以外は全て逮捕状が必要であるとすると、警察官が重大犯罪の容疑者を見つけた場合でも、現行犯でなければ、逮捕状を請求しなければならないことになります。

 

 

もっとも、逮捕状を請求してから発付されるまでに数時間はかかってしまうため、その間に被疑者が逃げてしまったり、証拠を隠滅してしまう可能性が高くなります

 

 

そこで、一定の要件を満たす場合に限って、現行犯でなくても逮捕状なしで逮捕することが認められています。これが緊急逮捕です。

 

 

緊急逮捕の要件

緊急逮捕は刑事訴訟法で定められています。

 

 

【刑事訴訟法210条1項】

検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

 

 

この条文から緊急逮捕の要件として次の5つが導かれます。

 

 

①死刑、無期、長期3年以上の懲役・禁錮にあたる犯罪であること

②罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由があること

③急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないこと

④被疑者に対して理由を告げること

⑤逮捕後直ちに裁判官に逮捕状を請求し発付されること

 

 

①~④は逮捕する際の要件、⑤は逮捕後の要件となります。以下それぞれの要件について見ていきましょう

 

1.要件①(重大犯罪)について

「死捜査機関の暴走を防ぐため、逮捕にあたっては裁判官の令状が必要とされています(令状主義)。

 

 

緊急逮捕は令状主義の例外にあたるため、死刑、無期、長期3年以上の懲役・禁錮にあたる犯罪に限って認めることにより、令状主義が骨抜きにならないようにしています。

 

 

【緊急逮捕できる犯罪】

罪名等

法定刑

殺人罪

死刑、無期懲役、5年以上の懲役のいずれか

現住建造物放火罪

死刑、無期懲役、5年以上の懲役のいずれか

強盗罪​

5年以上の懲役

恐喝罪

10年以下の懲役

詐欺罪

10年以下の懲役

窃盗罪

10年以下の懲役または50万円以下の罰金

傷害罪

15年以下の懲役または50万円以下の罰金

強制性交等罪

5年以上の懲役

強制わいせつ罪

懲役6か月~10年

住居侵入・建造物侵入罪

3年以下の懲役または10万円以下の罰金

 

以下の犯罪は, 「死刑、無期、長期3年以上の懲役・禁錮にあたる犯罪」ではありませんので、緊急逮捕することはできません。

 

 

【緊急逮捕できない犯罪】

・痴漢、盗撮(迷惑防止条例違反)

・公然わいせつ

・脅迫罪

・暴行罪

・軽犯罪法違反

 

 

2.要件②(十分な理由)について

通常逮捕する際は逮捕状が必要になります。裁判官が逮捕状を発付するためには、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があることが必要とされています。

 

 

【刑事訴訟法199条1項本文】

検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。

 

 

これに対して、緊急逮捕の場合は、逮捕の要件として、罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由があることが必要とされています。「相当な理由」と「十分な理由」で微妙に言い回しが違っています。

 

 

緊急逮捕の「十分な理由」の方が通常逮捕の「相当な理由」よりも、さらに嫌疑の程度が高いことを意味します。

 

 

緊急逮捕は令状主義の例外であることから、通常逮捕の場合よりも要件を厳しくして、より慎重な判断を促しているのです。

 

 

3.要件③(緊急性)について

「急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないとき」とは、逮捕状を請求している間に、被疑者が逃げたり証拠を隠滅する可能性が高いことを意味します。

 

 

警察官が路上で被疑者を見つけた場合は、緊急性の要件を満たすことが多いでしょう。被疑者が家族や弁護士と一緒に自首してきた場合は、緊急性の要件が否定されることもあり得ます。

 

 

4.要件④(理由の告知)について

通常逮捕するときは、被疑者に逮捕状を示す必要がありますが、緊急逮捕するときは、逮捕状がありませんので、逮捕の理由を被疑者に告げなければなりません。

 

 

具体的には、被疑事実の要旨と急速を要することを伝える必要があります。

 

 

5.要件⑤(逮捕後の令状請求・発付)について

緊急逮捕したときは、直ちに裁判官に逮捕状を請求しなければなりません。緊急逮捕は令状主義の例外ですので、厳しい要件を課すことによって令状主義が形骸化しないようにしているのです。

 

 

「直ちに」が何時間なのか明確に決まっているわけではありませんが、実務では緊急逮捕してから1,2時間以内に逮捕状を請求しています。半日以上たってから請求しても「遅すぎる」として、裁判官に却下されるでしょう。

 

 

裁判官に逮捕状を請求したが却下された場合は、すぐに被疑者を釈放しなければなりません。

 

 

緊急逮捕と現行犯逮捕の違い

現行犯逮捕のケースでは、犯罪と犯人が明白であり誤認逮捕のおそれはまずありません。これに対して、緊急逮捕のケースでは、目の前で犯罪が行われていたわけではないことから、誤認逮捕のおそれがあります。

 

 

そのため、緊急逮捕の方が現行犯逮捕よりも要件が厳しくなっています。

 

 

すなわち、緊急逮捕できるのは重大犯罪に限られ、逮捕後直ちに逮捕状を請求する必要がありますが、現行犯逮捕にはこのような制限はありません。

 

 

このように緊急逮捕は要件が厳しくなっているため、逮捕できるのは検察官・検察事務官・司法警察職員に限られています。これに対して、現行犯逮捕は一般人でもすることができます。

 

 

緊急逮捕と逮捕状の緊急執行の違い

通常逮捕する際は逮捕状を被疑者に示す必要があります。

 

 

逮捕状の緊急執行とは、逮捕状が出ているものの、被疑者を見つけた捜査員がたまたま逮捕状を持っていなかった場合に、逮捕状を示さずに逮捕することです。

 

 

この場合、被疑者に対して、被疑事実の要旨と逮捕状が出ていることを告げて逮捕できますが、逮捕後速やかに逮捕状を被疑者に示さなければなりません。

 

 

逮捕状は1部しかありませんので、指名手配している被疑者を逮捕するときに、逮捕状の緊急執行が行われることが多いです。

 

 

緊急逮捕との違いは、既に逮捕状が出ている点と緊急執行できる犯罪に制限がないことです。

 

 

緊急逮捕は違憲?

憲法は、現行犯逮捕される場合を除き令状なしで逮捕されないことを定めています。

 

 

【憲法33条】

何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

 

 

憲法には、「現行犯として逮捕される場合を除いては」とされており、緊急逮捕を例外に含めていないことから、緊急逮捕は憲法違反であるという考え方もあります。

 

 

この点について最高裁は、一定の重大犯罪についてのみ厳格な要件の下で緊急やむを得ない場合に限って、逮捕後直ちに逮捕状を請求することを要件として逮捕を認めることは、憲法33条の趣旨に反しないとして合憲としています。

 

 

緊急逮捕の事例

1.警戒中の警察官に見つかったケース

ひったくりや万引きのケースで、犯人が現場から逃げてしばらくしてから、警戒している警察官に見つかった場合、緊急逮捕されることが多いです。

 

 

警察官は犯行そのものを見ているわけではないので現行犯逮捕はできませんが、被害品を所持しているなど犯人性を裏付ける証拠があれば、緊急逮捕されます。

 

 

2.違法な現行犯逮捕のケース

逮捕されると48時間以内に検察官に送致され取調べを受けます。

 

 

現行犯逮捕された被疑者が検察官に送致された後、検察官が現行犯逮捕の要件を満たしていないと判断したときは、その場で被疑者をいったん釈放してすぐに緊急逮捕します。

 

 

報道された緊急逮捕の事例

緊急逮捕されるケースは通常逮捕や現行犯逮捕よりずっと少ないことから、緊急逮捕されると報道されることが多いです。ここでは報道された緊急逮捕の事例を紹介します。

 

 

1.万引きの疑いで緊急逮捕

食料品を万引きした疑いで緊急逮捕された事件。スーパーで不審な動きをしていた女性がいたため店員が警察に通報したところ、かけつけた警察官が女性の所持品の中から売り物の食料品15点を発見したため、窃盗容疑で緊急逮捕した(2022年11月)。

 

 

2.女子高生の靴を盗んだ疑いで緊急逮捕

高校に侵入し女子高生の靴を盗んだ疑いで緊急逮捕された事件。校内の下駄箱近くを歩いている不審者がいたため、教員が警察に通報したところ、カバンの中から下駄箱に入れていた女子高生の靴が発見され、緊急逮捕された(2022年11月)。

 

 

3.スマホ窃盗の疑いで緊急逮捕

リサイクルショップでスマートフォン2台を盗んだ疑いで緊急逮捕された事件。スマートフォン2台を別の店に売りに行ったところ、被害店舗の系列店で被害情報を共有していたため、警察に通報し緊急逮捕につながった(2022年11月)。

 

 

4.ひき逃げの疑いで緊急逮捕

飲酒運転をして路側帯を歩いていた男性に衝突しそのまま逃げた疑いで緊急逮捕された事件。目撃者の情報と防犯カメラから特定され、任意同行されて事情を聴かれていた(2022年11月)。

 

 

5.特殊詐欺の疑いで緊急逮捕

特殊詐欺の受け子の疑いで緊急逮捕された事件。指示役の指示にしたがい80代女性の自宅に行ってお金を受けとった後、「詐欺に加担したかもしれない」と警察に通報した後に緊急逮捕された。

 

 

被害者はこの男性にお金を渡す前に、別の男性から電話で「投資で稼いだが、税金500万円を払わないといけない。これから知人に取りに行かせる。」等と言われていた(2022年11月)。

 

 

緊急逮捕された後の流れ

緊急逮捕された後の流れは、逮捕状請求のタイミングを除き、通常逮捕された場合と同じです。

 

 

緊急逮捕された被疑者は、留置の必要がないとして釈放されなければ、48時間以内に検察官に送致されます。検察官は「逃亡や証拠隠滅のおそれがある」と判断すれば、送致を受けてから24時間以内に被疑者の勾留を請求します。

 

 

勾留請求されれば、その後に裁判官の勾留質問を受け、勾留されるか釈放されるかが決定します。勾留されると原則10日、最長20日にわたって拘束され、その期間内に起訴される釈放されるかが決まります。

起訴前の流れ(逮捕・勾留あり)

 

 

緊急逮捕は重大犯罪を対象としているため、勾留される可能性が高くなりますが、事案によっては早期釈放にもちこめるケースもあります。ご家族が緊急逮捕された場合はお早めに弁護士にご相談ください。

 

 

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