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神奈川刃物逃走事件を弁護士が解説
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
目次
神奈川刃物逃走事件の概要
傷害などで実刑判決が確定した神奈川県在住の男性が、収容に応じず、検察事務官や警察官に刃物を見せて車で逃走した事件が話題になっています。神奈川逃走事件の概要は次の通りです。
2018年9月21日 | 傷害、窃盗、覚せい剤取締法違反、建造物侵入で懲役3年8か月の実刑判決 (横浜地方裁判所小田原支部) |
| 東京高等裁判所に控訴 |
| 控訴中に保釈 |
2019年1月24日 | 東京高等裁判所が控訴棄却判決 |
2月8日 | 控訴棄却判決が確定 |
| 検察庁が男性に呼出状を発送 |
| 検察官が収容状を発付 |
6月19日 | 収容に応じず逃走 |
6月23日 | 公務執行妨害の容疑で逮捕 |
神奈川逃走事件について法律的な観点から弁護士が解説します。
そもそもなぜ実刑判決を下された男性が自宅にいるのか?
一審では、保釈中の被告人は、裁判が終了すると直ちに身柄が拘束され、拘置所に連行されてしまいます。これに対して、控訴審では、控訴棄却判決が下され一審の実刑判決が維持されても、直ちに身柄を拘束されるわけではありません。
なぜこのような違いが生じるのでしょうか?
一審では、被告人が判決言渡し期日に裁判所に出廷する義務があります。これに対して、控訴審では、判決言渡し期日に、被告人が裁判所に出廷する義務はありません。被告人が在廷していなければ、その場で身柄を拘束することはできません。
仮に、被告人が出廷していた場合でも、判決宣告の直後に拘束されることはありません。たまたま出廷しているかどうかで、拘束されるか否かが異なってくるのは法的安定性に欠けるためです。
神奈川逃走事件についても、控訴棄却判決が言い渡され、一審の実刑判決が維持されていますが、その時点ではまだ身柄拘束されていません。
控訴審でも実刑になった場合、どのようにして収監されるのか?
一審の実刑判決に対して被告人が控訴したが棄却された場合など、控訴審でも実刑になった場合、裁判終了後直ちに身柄が拘束されることはありません。身柄が拘束されるのは判決が確定した後になります。被告人が上告しない限り、控訴審の判決は言渡しの15日後に確定します。
判決が確定すると、検察庁から刑の言い渡しを受けた方のもとに呼出状が郵送されます。呼出状には、出頭日時と出頭場所が記載されています。記載された日時に、記載された場所に出頭すると、その場で身柄を拘束され、刑事施設に移送されます。
呼出状が郵送されるタイミングは、判決確定日から1週間~3か月前後になります。神奈川逃走事件でも、2019年2月8日に男性の判決が確定した後、検察庁から男性の自宅に呼出状が送られてきているはずです。
呼出状を送っても出頭してこない場合はどうなるのか?
呼出状が届くと、ほとんどの方は、指示通りに出頭します。もし呼出に応じない場合は、検察官が収容状を発付し、強制的に収容場所まで連行します。収容状は、検察官の指揮によって、検察事務官または司法警察職員が執行します。
神奈川逃走事件についても、検察事務官と警察官が収容状を持って男性の自宅を訪問しています。
神奈川刃物逃走事件の責任はどこにあるのか?
マスメディアでは、以前に比べて保釈される割合が高まったことが、今回の事件の背景にあるとの指摘がされています。また、粗暴犯などの前科がある被告人に対して保釈を認めるのはいき過ぎであるとして、保釈を許可した裁判官を批判する論調も見られます。
しかし、粗暴犯などの前科があっても、大多数の人は逃走することなく刑に服しています。
また、保釈に際しては、検察官が裁判官に反対意見を言う機会があります。もし、今回のケースで、男性が逃走する現実的なおそれがあったのであれば、検察官が裁判官にその点を指摘していれば、保釈が認められなかった可能性が高いです。
これらの事情から、保釈を認めた裁判官を批判するのはどうかと思います。
むしろ、検察側に責任があると考えられます。検察庁は、事件前からこの男性に対して呼出状を送って出頭を求めていたにもかかわらず、長期間にわたって無視されていました。そのような事情があれば、検察庁としても、男性に接触を図る前に逃亡や抵抗のおそれがあることを予見できていたはずです。
にもかかわらず、検察庁の職員は、不測の事態に対処できるだけの人員と装備を用意せずに、男性宅を訪問しています。この点で大きな過失があったといえるのではないでしょうか?
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