名古屋主婦殺害事件で自首は成立する?弁護士が解説

1999年11月13日、名古屋市西区のアパートで、32歳の主婦が何者かによって首を刃物で刺されて殺害されました。2歳の子供の面前で殺害されたことが当時大きく報道されました。

 

 

アパートの玄関先の床には犯人のものと思われる血痕が付着していました。現場を保存して何とか犯人逮捕につなげようと、殺害された主婦の夫は事件から26年にもわたりアパートを自費で借り続け、賃料として2000万円超の金額を払ってきました。

 

 

この事件について26年後の2025年10月に大きな展開がありました。10月30日に69歳の女性が自ら愛知県警西警察署に出頭し、翌31日に殺人容疑で逮捕されたのです。

 

 

このページではウェルネス法律事務所の弁護士 楠 洋一郎が、出頭した女性に自首が成立するか否かについて検討しました。

 

 

 

 

名古屋主婦殺害事件-自首は成立するか?

1.自首は成立する

名古屋主婦殺害事件で69歳の女性が警察に出頭し事件への関与をほのめかしました。この女性に自首は成立するでしょうか?

 

 

結論から言うと自首が成立すると考えられます。以下でその理由を詳しく説明します。

 

 

2.自首が成立する理由

①犯人が特定されていたか否かが問題になる

自首が成立するためには、罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に犯行を自供する必要があります。「捜査機関に発覚する前」とは、犯行と犯人の両方が捜査機関に発覚する前を意味します。

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名古屋主婦殺害事件では事件直後に犯行は発覚していますので、出頭した時点で犯人が捜査機関に発覚していたか否かが問題になります。

 

 

②犯人は発覚していなかった

名古屋主婦殺害事件は未解決のまま25年以上が経過しており、犯人特定につながる有力な証拠はなかったと思われます。

 

 

そのような状況で犯人を特定するためには、DNA鑑定により、被疑者のDNAと犯行現場の床に付着していた血痕のDNAの同一性を証明するしかない状況でした。

 

 

報道によれば、出頭した女性は2025年になって警察から複数回の事情聴取を受けており、任意でDNAを提出するよう要請されていたものの断っていました。

 

 

もっとも、断り切れなくなったのか、女性は2025年10月30日にDNAを任意に提出しました。その数時間後に警察署に出頭したのです。この時点ではDNA鑑定の結果は出ていませんでした。

 

 

鑑定結果が出たのは翌31日で、女性のDNAと犯行現場に残された血痕のDNAが一致しました。

 

 

DNA以外に犯人性を裏付ける有力な証拠はないと考えられること(仮に有力な証拠があったのであれば既に逮捕されているはずです。)、DNAの任意提出を拒否しただけでは犯人であると推認できないこと、報道によればこの女性以外にも多数の参考人が捜査対象になっていたとのことですので、出頭時点でまだ犯人は発覚していなかったと言えます。

 

 

したがって、この女性には自首が成立すると考えられます。

 

 

名古屋主婦殺害事件-自首することにより減刑されるか?

1.自首すると減刑されることがある

自首が成立した場合は、減刑することができます。

 

 

【刑法】

第四十二条 罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。

 

 

自首減刑の根拠は以下の3点です。

 

①自首することによって捜査が容易になる

②自首することによって冤罪のおそれがなくなる

③自首という行為自体に本人の反省が認められる

 

 

2.どの程度減刑されるのか?

自首により減刑される場合、どの程度減刑されるのでしょうか?

 

 

殺人罪の罰則は死刑、無期懲役、懲役5年~20年のいずれかになります。

*2025年6月1日以降に発生した殺人事件については懲役刑ではなく拘禁刑で処罰されます。

 

 

自首により減刑される場合、殺人罪の法定刑は以下のようになります。

 

 

自首減刑前の法定刑自首減刑後の法定刑
死刑無期懲役または懲役10年~30年
無期懲役懲役7年~30年
懲役5年~20年懲役2年6月~10年

 

 

【刑法】

第六十八条 法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。

一 死刑を減軽するときは、無期又は十年以上の拘禁刑とする。

二 無期拘禁刑を減軽するときは、七年以上の有期拘禁刑とする。

三 有期拘禁刑を減軽するときは、その長期及び短期の二分の一を減ずる。

 

自首の減刑はどれくらい?減刑されるケースとされないケース

 

 

3.名古屋主婦殺害事件で自首減刑はあるか?

名古屋主婦殺害事件では自首が成立するため減刑の余地はありますが、裁判で減刑されることはないと思われます。まず自首減刑は、法律上、「減軽することができる。」となっており、「減軽しなければならない。」と規定されているわけではありません。

 

 

減刑するか否かは裁判官の裁量に委ねられています。

 

 

名古屋主婦殺害事件では、出頭した時点で犯人が発覚していなかったため、自首が成立します。もっとも、出頭した女性は既に警察にDNAを提供しており、DNA鑑定により犯人として特定されるのは時間の問題という状況でした。

 

 

そのような切羽詰まった状況で出頭しても、捜査が容易になったり冤罪が生じるリスクが減ったとは言えませんし、反省のあらわれとも言えません。

 

 

そのため、自首を理由として減刑されることはないと思われます。この女性がDNAの任意提出を要請される前に出頭していれば減刑される可能性は十分にあったでしょう。