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公判手続の更新
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
公判手続の更新とは
刑事裁判の基本的なルールとして、裁判所が口頭で述べられた事項を聴き(口頭主義)、法廷で直接取り調べた証拠に基づき裁判を行う必要があります(直接主義)。
そのため、裁判の途中で裁判官が交代すると、口頭主義、直接主義の要請にこたえるために、新たな裁判官のもとで手続をやり直す必要があります。これが公判手続の更新です。
裁判官1名で審理する単独事件で裁判官が交代したときだけでなく、裁判官3名で審理する合議事件でそのうちの1名が交代したときも、公判手続の更新が必要になります。
裁判官は公務員ですので、2、3年ごとに別の裁判所に異動します。そのため、刑事裁判の途中で裁判官が交代し公判手続が更新されることは少なくありません。。
公判手続の更新が行われる時期
裁判官が異動する時期は3月末日になることがほとんどです。そのため公判手続の更新は4月に実施されることが多いです。
公判手続の更新の流れ
(1)裁判長が検察官に起訴状の要旨を陳述させる
初公判の時と異なり、検察官は起訴状を全文朗読する必要はありません。また、被告人や弁護士に異議がなければ、要旨の陳述も省略することができます。
(2)裁判長が被告人と弁護士に起訴された事件について陳述する機会を与える
被告人と弁護士は、初公判の際、「罪状認否」という形で意見を陳述する機会を与えられていますが、更新に伴い改めて意見陳述の機会を与えられます。黙秘権については、初公判のときに裁判長から説明を受けていますので、更新の際は、改めて説明する必要はありません。
(3)裁判所が証拠調べを行う
①裁判官の交代前に証人尋問や被告人質問が実施されたケース
裁判官の交代に伴い、裁判所がもう一度尋問を実施することまでは求められていません。尋問が実施されると、質疑応答を記録した尋問調書が作成されますが、その調書を取り調べることで足りるとされています。
②裁判官の交代前に証拠書類や証拠物が取り調べられたケース
裁判官の交代に伴い、裁判所が職権でこれらの証拠を取り調べます。
取調べ方法については、訴訟関係人が同意したときは、証拠書類を朗読したり、証拠物を示す必要はなく、相当と認める方法で取り調べればよいとされています。実務では、裁判長が証拠のタイトルのみを告げるという方法もとられています。
(4)裁判長が取り調べた証拠について訴訟関係人の意見及び弁解を聴く
ひとつひとつの証拠を取り調べた後に、その証拠についての意見や弁解を個別に聴く必要はなく、全ての証拠調べを終えた後に、まとめて各証拠についての意見や弁解を述べる機会を与えればよいとされています。
公判手続の更新を行う必要がないケース
(1)単独事件の場合
裁判官1名が担当する単独事件の場合、弁論が終結し、前任の裁判官によって判決書が作成され、あとは宣告のみという段階で裁判官が交代した場合は、公判手続を更新する必要ありません。
(2)合議事件の場合
裁判官3名が担当する合議事件の場合、裁判官3名の合議がまとまり判決の内容が決定した後に、そのうち1名の裁判官が交代した場合は、たとえ判決書が作成されていなくても公判手続を更新する必要はありません。