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公判前整理手続とは?流れやポイントについて弁護士が解説
本ページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
目次
公判前整理手続とは
公判前整理手続とは公判が始まる前に準備をする手続です。「こうはんぜんせいりてつづき」と読みます。常の裁判は次のような順番で進みます。
①検察官と弁護士がそれぞれの主張を明らかにする。
②検察官と弁護士が主張を裏づける証拠の取調べを裁判所に請求する
③裁判所が検察官と弁護士の意見を聞き各証拠を取り調べるか否かを決定する
④裁判所で証拠を取り調べる
⑤検察官・弁護士・被告人が意見を陳述する。
公判前整理手続では、①から③を公判が始まる前に事前にしておきます。④の証拠の取調べは公判で行うことになりますが、各証拠の取調べの順序や取調の時間については、公判前整理手続で決めておきます。
事前に争点と証拠を整理しておくことによって、充実した公判の審理を、継続的・計画的・迅速に進めることが可能になります。
【公判前整理手続のわかりやすい説明】 公判前整理手続は「イベントの準備活動」のようなものです。イベントを企画する際、まずコンセプトを決めます。その後に様々な出し物を考えます。最後に出し物の順番や時間を決めていきます。
イベントを公判、コンセプトを争点、出し物を証拠、イベント準備を公判前整理手続と考えるとわかりやすいです。 |
公判前整理手続に付される2つのケース
1.裁判員裁判
裁判員裁判では必ず公判前整理手続に付さなければなりません。裁判員は会社員や主婦などの一般市民です。ふだんの生活がある裁判員を公判に何か月も関わらせるわけにはいきません。
そのため、事前に裁判官・検察官・弁護士のみで公判前整理手続を行い、争点や証拠を整理します。ひととおり整理が終わった後に裁判員を選任し、裁判員裁判を始めます。
事前に争点と証拠を整理しておくことにより、裁判員裁判の公判は1週間前後で終わり、裁判員の負担を軽くすることができます。
2.否認事件
公判前整理手続では証拠開示が広く認められています。通常の裁判でも、検察官が取調べを請求した証拠(検察官請求証拠)は弁護側に開示されますが、それ以外の証拠については開示の規定がありません。
公判前整理手続では、検察官請求証拠に加え、その証拠の信用性を判断するために必要な証拠や弁護側の主張に関連する証拠も検察官から開示されるようになりました。
否認事件では、検察官の主張に反論するため、検察側の手持ち証拠をできるだけ開示させる必要があります。そのための手段として、弁護士が公判前整理手続に付するよう求めます。
公判前整理手続はこう進む!
典型的な公判前整理手続のスケジュールは以下の通りです。
赤字の部分が公判前整理手続、青字の部分が裁判員裁判です。公判前整理手続が数か月続いているのに対して、裁判員裁判はわずか1週間で終わっています。
このように、公判前整理手続が実施されると公判がスタートするまで数か月かかりますが、いったん公判がスタートすると迅速に進行します。
4月1日 | 起訴 |
5月15日 | 進行についての打ち合わせ |
5月31日 | 公判前整理手続に付する決定 |
6月15日 | 第1回公判前整理手続期日 |
8月1日 | 第2回公判前整理手続期日 |
9月15日 | 第3回公判前整理手続期日 |
10月15日 | 第4回公判前整理手続期日 |
11月1日 | 公判開始→証拠調べ |
11月2日 | 証拠調べ |
11月3日 | 証拠調べ |
11月4日 | 意見陳述 |
11月8日 | 判決宣告 |
【公判前整理手続の流れ】
公判前整理手続の第1ステップ:検察官請求証拠の開示
1.証明予定事実の提出
検察官は、公判期日において証拠により証明しようとする事実(証明予定事実)を記載した書面を裁判所と弁護士に提出します。
2.証拠の取調べ請求
検察官は、証明予定事実を立証するための証拠の取調べを裁判所に請求します。
3.検察官請求証拠の開示
検察官は裁判所に取調べ請求をした証拠(検察官請求証拠)を弁護士に開示します。証拠の種類に応じて次の3つの開示方法があります。
証拠の種類 | 開示の方法 |
供述調書などの証拠書類 | 弁護士が検察庁でコピーします。 |
凶器などの証拠物 | 弁護士が検察庁で証拠物を閲覧します。 |
証人 | 検察官が弁護士に証人の氏名、住所、証言の要旨を記載した書面(証言要旨記載書面)などを開示します。 |
公判前整理手続の第2ステップ:類型証拠の開示
検察官は、手持ちの証拠の中から、証明予定事実を立証するために必要な証拠を厳選します。つまり、検察官は検察官請求証拠以外にも多くの証拠を持っているということです。
弁護士が検察官請求証拠に対する意見を決める上で、その証拠がどの程度の証明力を持っているのかを検討する必要があります。
例えば、検察官が被害者の供述調書の取調べを請求した場合、その調書を見ているだけでは証明力について十分な判断ができません。
検察官が取調べを請求していない被害者の供述調書が他にもあれば、それと比較することにより、供述の変遷等を検証することができます。このように特定の検察官請求証拠の証明力を判断するための証拠を類型証拠といいます。
検察官は、弁護士から類型証拠の開示を請求された場合、その証拠が次の3つの要件を満たすときは、速やかに開示しなければいけません。
①次の類型のいずれかに該当する証拠
証拠物 |
裁判所または裁判官の検証の結果を記載した書面 |
検察官、検察事務官または司法警察職員の検証の結果を記載した書面+これに準ずる書面 |
鑑定書+これに準ずる書面 |
検察官が証人として尋問を請求した者の供述録取書等 |
検察官が取調べを請求した供述録取書等の供述者であって、当該供述録取書等が刑事訴訟法326の同意がされない場合には、検察官が証人として尋問を請求することを予定しているものの供述録取書等 |
被告人以外の者の供述録取書等であって、検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの |
被告人の供述録取書等 |
取調べ状況報告書 |
検察官請求証拠である証拠物の押収手続記録書面 |
②特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められる証拠
③証拠の重要性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるとき
公判前整理手続の第3ステップ:検察官請求証拠に対する意見表明
弁護士は、検察官から証明予定事実記載書面を受けとり、検察官請求証拠と類型証拠を開示されたときは、検察官請求証拠に対する意見を明らかにしなければなりません。
証拠意見の種類は以下のとおりです。
・同意または不同意(証拠書類の場合)
・異議なし(証拠物の場合)
・必要性がない
・関連性がない
・任意性がない
・違法収集証拠であり証拠能力がない
公判前整理手続の第4ステップ:弁護側の主張や証拠の開示
弁護士は、検察官から証明予定事実記載書面を受けとり、検察官請求証拠と類型証拠を開示されたときは、次の3つのことをしなければなりません。
①証明予定事実等を明らかにする
弁護側でも公判期日において証拠により証明しようとする事実(証明予定事実)があるときは、裁判所と検察官に対しその内容を明らかにします。証明予定事実以外に事実上及び法律上の主張があるときもその内容を明らかにします。
②証拠の取調べ請求
証明予定事実があるときは、弁護士が、証明予定事実を証明するための証拠(弁護側請求証拠)の取調べを裁判所に請求します。
③証拠の開示
弁護士は、弁護側請求証拠を速やかに検察官に開示します。開示の方法は検察官請求証拠と同じです。
公判前整理手続の第5ステップ:弁護側請求証拠に対する意見表明
検察官は、弁護側請求証拠の開示を受けたときは、弁護側請求証拠に対する意見を明らかにしなければなりません。
公判前整理手続の第6ステップ:主張関連証拠の開示
検察官は、弁護側の主張と関連すると認められる証拠(主張関連証拠)について、弁護士から開示の請求があった場合、次の3つの観点から開示が相当と認められる場合は、弁護士に速やかに開示しなければなりません。
①弁護側の主張との関連性の程度
②被告人の防御準備のために当該開示をすることの必要性の程度
③当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度
弁護士は検察官に主張関連証拠の開示を請求するにあたり、次の2つの事項を明らかにする必要があります。
①請求対象の証拠を識別するに足りる事項
②弁護側の主張と請求対象の証拠との関連性その他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由
公判前整理手続と証拠制限
公判前整理手続が終わった後は、原則として、新たな証拠の取調べを請求することはできません。
公判前整理手続が終わった後でも無制限に証拠の取調べ請求が許されると、新たな証拠調べ請求に対応して、相手方から新たな主張や証拠調べ請求が出されることになり、公判前整理手続を実施した意味がなくなるためです。
例外的に、やむを得ない理由によって公判前整理手続において請求できなかった証拠は、公判前整理手続が終わった後でも取調べを請求することができます。
例えば、公判前整理手続が終わった後に被害者との間で示談が成立した場合は、その後に示談書の取調べを請求することができます。
なお、公判前整理手続後に制限されるのは新たな「証拠」の取調べ請求であって、新たな「主張」を述べることは制限されていません。
公判前整理手続と弁護活動の留意点
近年、公判前整理手続の長期化が問題となっています。そのため、裁判官は、公判前整理手続を早めに終わらせようとして、やや強引に手続を進めることが少なくありません。
弁護士が検察官から類型証拠の開示を受けていないにもかかわらず、弁護士に対して予定主張を明示するよう求めてくる裁判官もいます。
このような場合は必ずしも裁判官の求めに従う必要はなく、「類型証拠の開示を受けてから予定主張を明らかにします。」、「現時点では~という主張を予定していますが、まだ類型証拠を開示されたわけではありませんので、今後変更する可能性もあります。」等と述べるべきです。