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失火罪・重過失失火罪の構成要件は?刑事・民事の責任についても解説

失火罪

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

 

失火罪・重過失失火罪・業務上失火罪

故意で火をつけると放火罪になりますが、過失であっても火災を生じさせてしまうと、一定の場合に犯罪として処罰されます。

 

 

これが失火罪です。失火罪には次の3つの種類があります。

 

 

①(狭義の)失火罪

②重過失失火罪

③業務上失火罪

 

 

このページでは①⇒②⇒③の順番で解説していきます。

 

失火罪とは

失火罪の構成要件

犯罪が成立するための要件を構成要件といいます。失火罪の構成要件は次の通りです。

 

 

【要件1】

失火により

【要件2】

①現住建造物等、②他人が所有する非現住建造物等、③自己所有の非現住建造物等、④建造物等以外の物 のいずれかを

【要件3】

焼損すること

【要件4】

上記③と④については失火により公共の危険を生じさせることも要件となります。①と②については公共の危険の発生は要件とされていません。

 

 

【要件1】「失火」とは?

失火とは過失によって出火させることです。

 

 

過失とは、①火災になることを容易に認識できたにもかかわらず認識しなかったこと、または、②火災にならないだろうと安易に考え、出火防止のための適切な措置を怠ったことをいいます。

 

 

【要件2】失火罪の客体は?

失火罪の客体は次の通りです。

 

客体

具体例

①現住建造物等

人が住んでいる家

現に人がいる事務所、施設、倉庫

②他人が所有する非現住建造物等

他人が所有している現に人がいない空き家

他人が所有している現に人がいない事務所、施設、倉庫

③自己所有の非現住建造物等

自分以外の他人が住居に使用しておらず、現に他人がいない自己所有の家

④建造物等以外の物

自動車、バス、無人の電車

 

 

【要件3】「焼損」とは

失火罪の焼損とは、放っておいても火が勝手に燃える状態になることです。「独立燃焼」という状態で、放火罪の焼損と同じ意味です。

 

 

【要件4】「公共の危険」とは

③自己所有の非現住建造物等と④建造物等以外の物については、公共の危険が発生しなければ失火罪にはなりません。

 

 

公共の危険とは、不特定または多数の人の生命・身体・財産に脅威を及ぼす状態のことです。市街地で失火した場合は、すぐ隣に建物がなかったとしても、風向き等により周囲に延焼するおそれがあるため、公共の危険が発生したといえるでしょう。

 

重過失失火罪とは

重過失失火罪とは重過失により失火を招くことです。「重過失」とは、わずかな注意を払えば容易に火災の発生を防止できたにもかかわらず注意を怠ったことをいいます。

 

 

【判例で重過失失火罪とされた事例】

①石油ストーブの燃料タンクに灯油と間違えてガソリンが入ったオイルを注入し、家屋2階を全焼させた。

 

 

②可燃物が存在する室内で、ゴキブリを炎によって駆除するために、アルコール製剤をガスバーナーの火で点火しながら噴霧したところ、段ボール箱等に着火させて建物を全焼させた。

 

 

③スズメバチの巣を駆除するために、炎をあげている煙幕を巣穴に入れたところ、巣が発火し、茅葺屋根を介して、建物を全焼させた。

 

 

業務上失火罪とは

業務上必要な注意を怠って失火罪を犯すと、業務上失火罪が成立します。業務上失火罪の「業務」とは、「職務として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位」をいいます。

 

 

主婦の炊事は「業務」にはあたりませんので、揚げ物をしているときに失火させても、業務上失火罪にはなりません。一方、調理師は、職務として火気の安全に配慮すべき地位にあるといえるため、調理中に失火させれば業務上失火罪になり得ます。

 

 

【「業務」が認定されやすい仕事】

①火気を直接取り扱う仕事

例)電気溶接

 

 

②火気発生の可能性が高い物を扱う仕事

例)石油や高圧ガスの販売、ガソリン車からタンクへの給油作業

 

 

③火災の発見・防止を任務とする仕事

例)ビルの防火管理責任者

 

 

失火罪・重過失失火罪・業務上失火罪の刑罰

失火罪の刑罰は50万円以下の罰金です。

 

 

重過失失火罪と業務上失火罪の刑罰は、失火罪より重く、3年以下の禁錮または150万円以下の罰金です。

 

 

失火罪・重過失失火罪・業務上失火罪に未遂はある?

失火罪・重過失失火罪・業務上失火罪はいずれも過失犯ですので未遂はありません。そのため、火が独立して燃焼する状態にいたる前に消し止めた場合、これらの犯罪は成立しません。

 

 

失火罪・重過失失火罪・業務上失火罪の時効

失火罪・重過失失火罪・業務上失火罪の時効は全て3年です。

 

 

失火により人が死傷した場合の刑事責任

失火により人が死傷した場合は、失火罪に加えて、過失傷害罪、過失致死罪が成立します。過失傷害罪の刑罰は30万円以下の罰金、過失致死罪の刑罰は50万円以下の罰金です。

 

 

重過失失火罪が成立した場合は、人の死傷についても、重過失傷害罪。重過失致死罪が成立する可能性が高いです。罰則はいずれも5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。

 

 

失火と民事責任

失火により火が周囲の建物に延焼すれば、第三者にも大きな損害が生じます。過失により第三者に損害を与えた場合は、民法上の不法行為となり損害賠償責任を負うのが原則です。

 

 

しかし、失火については、失火責任法という法律により、重過失があった場合のみ賠償責任が生じるとされています。木造建築が多い日本では延焼が生じやすく、単なる過失で賠償責任を負わせるのは酷だからです。

 

 

重過失失火罪の重過失と失火責任法の重過失はほぼ同じ意味です。そのため、重過失失火罪で有罪になれば、民事上も賠償責任を免れないと思われます。

 

 

失火と民事の時効

重過失で失火した場合は、民事上も賠償責任を負うことになります。民事の時効は次のとおりです。

 

 

①人身損害の時効

被害者側が損害及び加害者を知ったときから5年または失火から20年

 

 

②物損

被害者側が損害及び加害者を知ったときから3年または失火から20年

 

 

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