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強制執行妨害目的財産損壊等罪について弁護士が解説
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
強制執行妨害が問題になるケース
強制執行とは、債権者のために、裁判所が債務者の財産を差し押さえ、競売にかけて現金化し、債権の支払にあてることです。
「お金を貸したのに返済期限を過ぎても返してもらえない。」
このようなケースでいつまでたってもお金を返してもらえない場合、債権者としては、貸したお金の返還を求めて民事訴訟を提起するしかありません。ただ、民事訴訟で勝訴しても、債務者(被告)がお金を払ってくれるとは限りません。
勝訴しても債務者がお金を払わない場合は、裁判所に強制執行を申し立て、債務者の預金や自宅を差し押さえてもらうことができます。
強制執行の妨害はこのような局面で問題になります。その他に強制執行妨害が問題になるケースとして次の2つが挙げられます。
①担保権の実行としての競売 ②民事保全 |
【①について】
住宅ローン等の債務者が不動産に抵当権を設定している場合、債務の返済ができなくなれば、抵当権を実行され競売されてしまいます。これが担保権の実行としての競売です。
【②について】
民事訴訟で勝訴判決を得てから強制執行が終わるまでに短くても1年程度はかかってしまいます。その間に財産を処分されないように、民事訴訟を提起する前であっても一定の要件を満たせば、債務者の財産を保全して、処分を制限することができます。これが民事保全です。
強制執行妨害財産損壊等罪とは
タイプ | 事例 |
財産の隠匿 | 預金を引き出して自宅で保管していた |
財産の損壊 | やけになって差押えの対象になっている車を壊した |
財産の譲渡を仮装 | 車の名義のみ友人に移した状態でこれまで通り使っていた |
財産の現状改変 | 住み慣れた家の競売を遅らせる目的で不要な増築をした |
財産の無償譲渡 | 自宅を家族に無償で譲渡し名義を書き換えた |
強制執行妨害の各行為について
1.財産の隠匿
財産の隠匿で最も多いのは預金の払い戻しです。払い戻した現金を、床下など人目につきにくいところに隠して初めて隠匿になるわけではありません。預金を払い戻した時点で隠匿とみなされます。
預金の差押えは容易ですが、いったん引き出されてしまうと事実上差押えが難しくなるため、隠匿したものとして扱われてしまいます。
2.財産の損壊
財産を物理的に破壊して価値を減少させる行為をいいます。
3.財産の譲渡を仮装
「仮装」かどうかは財産の利用状態から判断されます。名義は第三者に移転したけれども、利用状態はこれまでと変わらず、本人がその財産を実質的に支配しているといえる場合は、「仮装」といえます。
4.財産の現状改変
財産の状態を物理的に変更することです。土地に不要な工作物を建てたり、大量の不用品を運び込んだりすることは現状改変になります。
ただ、現状改変しても、結果として価格が著しく下落したり、強制執行の費用が著しく増大しない限りは、処罰されません。
5.財産の無償譲渡
仮装ではなく真実の譲渡であっても、無償で譲渡したり、相場よりも格段に低い金額で譲渡した場合は、債権者の引き当てになる財産が減少することから、処罰の対象になります。
強制執行妨害財産隠匿等罪の要件
これらの行為をしても、「現実に強制執行を受けるおそれのある客観的な状態」でなければ、強制執行妨害財産隠匿等罪にはなりません。
債権者から「早くお金を返してください。」と言われているだけでは、そのような状態にあるとは言えないことが多いです。
民事裁判で原告(債権者)の勝訴判決が確定していたり、住宅ローンの滞納が続いている場合は、いつ強制執行されてもおかしくない以上、「現実に強制執行を受けるおそれのある客観的な状態」にあるといえるでしょう。
強制執行妨害目的財産損壊等罪の刑罰
本罪の刑罰は、3年以下の懲役または250万円以下の罰金です。懲役刑と罰金刑の両方が併科されることもあります。
強制執行妨害目的財産損壊等罪の弁護活動
本罪は国家作用である強制執行の手続を保護しています。
国の業務を保護しているという点では公務執行妨害罪と似ていますが、強制執行は債権回収の手段ですので、本罪は究極的には債権者の保護を主眼にしているといえます(最高裁昭和35年6月24日)。
そのため、被疑者としては、強制執行の手続がスムーズに進むよう協力するとともに、強制執行された財産のみで債務を完済できないときは、残債務の支払いについて、債権者との間で示談をまとめ、許しを得ることが重要です。
残債務の一括払いが難しければ、分割払いで返済できるよう弁護士が債権者と交渉します。