少年による重大事件を報道するニュースで「検察官送致(逆送)」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。
本記事では、「逆送」の基礎知識や要件、法改正による変更に加え、「逆送された場合のデメリット」や「逆送を回避するために弁護士(付添人)ができる活動」について詳しく解説します。
少年事件の「逆送(検察官送致)」とは
「逆送」とは、家庭裁判所が事件の調査を行った結果、「保護処分ではなく、成人と同様の刑事裁判にかけるべき」と判断し、事件を検察官へ送致(送り返す)することです。
成人の刑事事件であれば、警察・検察の捜査を経て起訴されますが、少年法には「全件送致主義」が採られており、警察・検察が捜査した事件は一度すべて家庭裁判所へ送られます。
➔ 全件送致 ➔
家庭裁判所(調査・鑑別)
(前科はつかない)
(有罪判決で前科がつく)
そのうえで家庭裁判所が「刑事処分が相当」と判断した場合にのみ、事件を検察官のもとへ戻すため、「逆」送と呼ばれます。
逆送の主な要件と区分
逆送には、家庭裁判所の裁量で行われるものと、「原則として逆送しなければならない」という法律の規定により行われるものがあります。
| 区分 | 主な対象と要件 | 根拠法令 |
|---|---|---|
裁判所の判断 | 調査・審判の結果、少年の性格や事件の重大性から「刑事処分が相当」と判断された場合(14歳以上) | 少年法第20条1項 |
重大犯罪 | 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪 | 少年法第20条2項本文 |
法改正特則 | 死刑、無期または短期1年以上の拘禁刑にあたる罪 | 少年法第62条2項2号 |
手続的要件 | 家庭裁判所の手続き中に本人が20歳に達した場合 | 少年法第19条2項 |
改正少年法による逆送の変更点
民法上の成人年齢が18歳に引き下げられたことに伴い、18歳・19歳の少年は「特定少年」として位置づけられました。
従来の「故意による致死事件」に加え、強盗罪や不同意性交等罪、営利目的の覚醒剤所持など、法定刑の短期が1年以上の罪も原則逆送の対象となりました。
少年法61条により少年の推知報道(実名や顔写真等の報道)は原則禁止されていますが、特定少年については、逆送後に検察官が起訴(公判請求)した時点から実名報道が解禁されます。
逆送された場合のデメリット
家庭裁判所での「保護処分」と、逆送後の刑事裁判で科される「刑事処分」には決定的な違いがあります。逆送されると、少年の将来に以下のような重い影響が生じます。
① 「前科」がつく
家庭裁判所による保護処分(少年院送致や保護観察)は刑罰ではないため、「前科」にはならず「前歴」として扱われます。
しかし、逆送されて刑事裁判で有罪判決(執行猶予を含む)を受けると、「前科」がつきます。これにより一定の国家資格(医師、弁護士など)を取得したり、公務員になることが制限されることがあります。
② 実刑判決による刑務所への収容
保護処分であれば、最も厳しい処分であっても、「更生と教育」を主目的とする少年院に収容されますが、刑事裁判で実刑判決を受けた場合は、受刑者として刑務所に服役することになります(若年受刑者向けの少年刑務所に収容されるのが一般的です)。
③ 公開法廷での裁判と実名報道のリスク
家庭裁判所の審判は非公開で行われ、プライバシーが守られます。一方、逆送後に起訴(公判請求)されると、誰でも傍聴できる公開の法廷で審理されます。
さらに、18・19歳の特定少年が起訴された場合は実名や顔写真が報道されるリスクが一気に高まり、インターネット上などにデジタルタトゥーとして情報が残り続ける恐れがあります。
原則逆送の「例外規定」と具体例
原則逆送に該当する事件であっても、法律上の例外規定(少年法20条2項ただし書/62条2項ただし書)により、家庭裁判所が「刑事処分以外の措置(保護処分)が相当」と判断すれば、逆送を回避することができます。
「ただし、調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。」(少年法20条2項ただし書)
「ただし、調査の結果、犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。」(少年法62条2項ただし書)
⚖️ 実務で意外に問題となりやすい「13歳未満に対する不同意性交等事件」
実務では、逆送が問題になるような重大事件(殺人等)は決して多くありませんが、意外に問題となりやすいのが「13歳未満の児童に対する不同意性交等事件」です。
18歳の少年が、12歳の児童とSNSを通じて知り合い、「お互い合意のもと」で性交等に及んでしまったケース。
刑法上、13歳未満の児童と性交等をすれば、相手の同意の有無にかかわらず「不同意性交等罪」が成立します(刑法177条3項)。たとえ少年自身がそのような法律があることを知らなかったとしても、刑法の大原則である「法の不知は違法性を阻却しない(法律を知らなかったからといって免責されない)」という考え方により、不同意性交等罪の成立自体は免れません。
さらに、不同意性交等罪は法定刑の短期が5年以上の重罪であるため、18歳・19歳の特定少年が犯した場合、法律上は「原則逆送(少年法62条2項2号)」の対象となってしまいます。
しかし、少年の場合、成人と比べれば判断能力や法律知識が未熟であることは否めず、「大人に比べれば道義的な責任非難の程度は減少する」と評価できます。暴行や脅迫を用いていない合意の上での行為であり、真摯な反省と適切な環境調整がなされていれば、家庭裁判所の審判において例外規定(ただし書)を適用させ、逆送を阻止できる余地が十分にあります。
例外として保護処分(逆送回避)が認められた実際の裁判例
東京地裁令和4年11月15日判決(控訴審:東京高裁令和5年7月18日判決)で前提とされた家裁決定
16歳の少年が自宅で実父を殺害した事件です。殺人罪は本来、少年法20条2項により原則逆送の対象となります。
しかし家庭裁判所は、父親の少年に対する監護がしばしば暴力や暴言を伴うものであり、時に理不尽といえるほどにその行動を制約する支配的なものであったこと、そのような監護から逃れるために殺害したという動機形成過程に酌むべき事情が認められること、目立った非行がなく保護処分歴がないこと、殺害当時16歳であり少年法20条2項の適用年齢の下限であること等から、保護処分が許容されない事案とまではいえないとして、第1種少年院送致(相当長期間の処遇意見付き)を決定しました。
東京家庭裁判所 令和6年5月16日決定
犯行時18歳の特定少年が、店舗内でカッターナイフを示して「金を出せ」と脅迫し、現金5,000円を強取した強盗事件です。強盗罪は法定刑の短期が1年以上の懲役(拘禁刑)にあたるため、少年法62条2項2号により原則逆送の対象とされています。
東京家庭裁判所は、凶器準備などの一定の計画性や犯行態様の悪質性を認定しつつも、被害額が5,000円と軽微であること、示談が成立して全額弁償され被害者が許していること、知的制約や発達特性(自閉スペクトラム症の疑い)による情緒・社会性の未熟さがあること、これまで家裁での係属歴がなく捜査段階から一貫して犯行を認め反省の態度を示していることなどを考慮しました。
その結果、「保護処分を許容し得る特段の事情がある」と判断し、少年法62条2項ただし書を適用して逆送を回避し、第1種少年院送致(収容期間3年)を決定しました。特定少年の原則逆送事案であっても、示談や資質上の考慮により保護処分を獲得できることを示した最新の重要実例です。
逆送を防ぐために弁護士(付添人)ができること
少年事件において、弁護士は少年の味方である「付添人(つきそいにん)」として活動します。逆送を回避するためには、家庭裁判所での調査・審判の段階で以下のような弁護活動が不可欠です。
① 被害者対応(示談交渉と宥恕の獲得)
刑事処分を回避するうえで、示談は極めて重要です。付添人が間に入り、被害者の心情に配慮しながら真摯に謝罪を尽くし、示談という形で宥恕(許し)を得ることで、裁判所に犯情の軽減を強くアピールできます。
② 帰るべき受け皿(保護環境)の整備
保護者と面談を重ねて家庭内の監督体制を整えるほか、復学や就職先の確保、更生支援機関との連携など、少年が社会で立ち直るための基盤を整えて家庭裁判所に示します。
③ 20歳到達前の迅速な手続き進行(年齢超過対策)
事件当時に19歳の場合、家庭裁判所の手続き中に20歳を迎えると、法律上保護処分を選択できなくなり自動的に逆送されてしまいます(年齢超過逆送)。付添人は、20歳の誕生日を迎える前に審判を終わらせるよう、家庭裁判所に迅速な対応を働きかけます。
【少年法55条移送】逆送後でも保護処分の余地あり
家庭裁判所で逆送が決定され、検察官に起訴(公判請求)された場合でも、保護観察などの保護処分を受ける道が完全に閉ざされたわけではありません。
少年法第55条には、以下のように刑事裁判所から家庭裁判所へ事件を差し戻す「移送」の規定が設けられています。
「裁判所は、事実審理の結果、少年の被告人を保護処分に付するのが相当であると認めるときは、決定をもつて、事件を家庭裁判所に移送しなければならない。」(少年法第55条)
起訴された後であっても、公判廷において被害者との示談成立、真摯な反省、保護環境の整備などを粘り強く主張・立証することで、刑事裁判所の裁判官に「刑事罰ではなく保護処分こそがふさわしい」と判断させることができれば、事件を家庭裁判所へ戻してもらうことが可能です。
家庭裁判所に移送されれば、成人のような前科がつかない「保護観察」や「少年院送致」といった保護処分を受ける道が再び開かれます。逆送・起訴されたからといって諦めることなく、刑事弁護人として最後まで粘り強く戦い抜くことが重要です。
少年事件・逆送に関する「よくある不安と疑問」(Q&A)
保護者の方が強い不安を抱かれるポイントについて、弁護実務の目線でお答えします。
まとめ:早期の付添人活動が少年の将来を左右する
逆送されると、「前科」や「実刑」「実名報道」という取り返しのつかない事態につながっていきます。
特に18・19歳の特定少年に対する処遇は厳格化されており、放置すれば原則通りに逆送されてしまう可能性が高いです。
しかし、事件の背景に同情すべき事情があったり、少年が真摯に反省して立ち直りの道筋が整っている場合には、弁護士(付添人)の適切な活動によって保護処分を獲得できる余地は十分にあります。万が一逆送されてしまった場合でも、少年法55条移送によって家裁へ差し戻される道が残されています。
対応が遅れるほど、逆送を回避できる余地は狭まってしまいます。まずは一刻も早く弁護士へご相談ください。




