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【元検察官へのインタビュー】取調べについて
ウェルネス法律事務所の弁護士 楠 洋一郎が知り合いの元検察官の方に、取調べについてインタビューしました。
取調べは、被疑者と取調官との時には人生をかけた究極のコミュニケーションです。取調官もまた一人の人間です。取調べに適切に対応する上で、取調官のテクニックや心理を知っておくことは非常に有益です。ご参考にしていただければ幸いです。
楠:被疑者に黙秘されると、検察官はどのような気持ちになりますか?
元検察官:私は、黙秘だったら黙秘でどうぞというスタンスでした。淡々と客観証拠を積み上げて、起訴できるんであれば起訴する。起訴できなければしょうがないというスタンス。ただ、黙秘されちゃうと内心慌てる取調官もいます。そういう人は生きた心地がしないんじゃないですか。どちらかというと古いタイプの人に多い。
楠:自白調書がとれないと上司からプレッシャーはあるんですか?
元検察官:ありますね。副部長とか部長から「なんでこいつを割れないんだ」と小言を言われることがあります。地方だったら次席検事から言われますね。
楠:上司から電話がかかってくるんですか?
元検察官:もちろん電話もかかってくるし、中間報告に行ったり、他の事件の決裁に行ったときにかなり小言を言われます。プレッシャーを感じる検察官は間違いなくいます。
楠:ずっと黙秘されて起訴できなければ、検察官はどのような気持ちになりますか?
元検察官:やっぱりくやしいという気持ちはあると思います。強制わいせつみたいに被害者対応が難しい事件は特にそうですね。被害者通知制度があるので、場合によっては、被害者になぜ起訴できなかったか説明しないといけない。「本来であればこれだけの証拠が揃っていれば起訴できたはずですが、この部分の証拠がなくて起訴できなかった。」と言わないといけない。
楠:被疑者の割り方はどうやって体得されるんですか?
元検察官:それは自分で会得していくしかないです。研修もあるが、だいたいが講師の自慢話ですね。私の場合は被疑者と信頼関係を作るようにしています。まず証拠関係を吟味します。本人の身上調書を読み込んで、その人の生い立ちを確認する。調書の行間から、どういう人生を歩んできて、なんでこういう事件を起こしたのかということに思いをめぐらします。なぜこの事件を起こしたのかという心理的な流れを理解しようとして、話をしていきます。そういう調べを連日やります。「体調どうだ?」とか「誰か面会に来てくれているか?」とか聞いたりしてね。そういうなかで、「ところでね。事件の話だけどなんでこう思ったの?」と聞きます。事件で責めを負うのは本人たちもわかっている。ただ、人間性を否定することなく、本人の悩み苦しみをていねいに拾っていく。そうすることによって被疑者の固く閉ざされた扉を開いていきます。
楠:怒鳴ったりすることはないんでしょうか?
検察官:ありますよ。被疑者が「もうどうでもいい。」と自分を卑下したときは「ふざけんじゃねえ!」とか「目の前の状況から逃げるんじゃない!」と怒鳴ることもある。
楠:検察官でも自白させるのがうまい人とそうではない人がいるんですか?
検察官:はい。割れる人と割れない人がいます。
楠:何が違うんですか?
検察官:こればっかりは何ともいえない。ただ、ずっと怒鳴るだけでは絶対にいいことは何もない。取調官としては、緩急をうまく使い分けるようにしています。怒鳴る場合でも瞬間的に怒鳴るが、ずっと怒鳴りはしない。なぜそうしたのかということを丹念に聞いていく。そうしないと被疑者の本質にたどりつけない。以前、私がもっていた事件で、弁護人にも黙秘している被疑者がいましたが、最終的には話してくれた。「捜査でこういうことがわかったんだけど本当はどうだったの?」とその人の気持ちを理解しようとして切々と問いかける。被疑者との信頼関係を作るためには、被疑者をどれだけ理解できるかが大事。その事件の被疑者にも、最終的には全部話してもらい、「担当があなたでよかった。」と言われた。他にもそういう事件が何件もある。被疑者に「自分のことを理解しようとしてくれているんだ。」と思ってもらってはじめて事件のことを話してもらえます。
楠:ありがとうございました。
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