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【国選】刑事事件と国選弁護人
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
目次
*このページでは、東京都内の弁護士会の運用に基づき解説しています。各弁護士会によって運用が異なる場合があります。
国選弁護人とは
国選弁護人とは、貧困などの理由により私選弁護人を選任することができない被告人や被被疑者のために、裁判所(裁判官)が選任する弁護人です。
本人や家族が弁護士費用を払って選任するわけではありませんので、「刑事事件に強い弁護士をつけてもらいたい」とか「新人弁護士はやめてほしい」等とリクエストすることはできません。
国選弁護人はどんな弁護士?
国選弁護人といっても国選弁護だけに特化した専門の弁護士がいるわけではありません。
一般の弁護士が通常の業務をしながら、年に何回か国選弁護人として活動しています。国選弁護人として活動するためには、法テラス(日本司法支援センター)との間で国選弁護人の事務を取り扱う契約を締結していることが必要です。
法テラスとの契約は、基本的には弁護士であれば誰でもすることができます。「弁護士登録してから〇年以上」とか「刑事事件を〇件以上扱ったことがある」というような条件はありません。そのため、弁護士であれば誰でも国選弁護人として活動することができます。
そのような事情を反映してか、国選弁護人として活動している弁護士には、新人弁護士など経営や集客の基盤が確立していない弁護士が多いようです。
国選弁護の対象となる事件
1.被疑者国選と被告人国選
起訴前の国選を被疑者国選、起訴後の国選を被告人国選といいます。対象となる刑事事件は次のとおりです。
被疑者国選 |
被疑者が勾留されている刑事事件 |
被告人国選 |
全ての刑事事件 |
2.被疑者国選は勾留された場合のみ
被疑者国選は、被疑者が「勾留」されている事件のみを対象としています。逮捕されていない在宅事件は国選の対象にはなりません。
逮捕されたがまだ勾留されていない事件も国選の対象外ですが、検察官から勾留請求されれば、国選弁護人の選任を「請求」することは可能です。
その後に勾留された場合は、そのまま国選弁護人が選任されます。勾留請求が却下され釈放された場合は、国選弁護人は選任されません。
勾留されて国選弁護人がついた後に釈放されれば、その時点で国選弁護人の業務は自動的に終了します。
これらのケースで刑事弁護を受けるためには、自分で私選弁護人を選任することになります。
3.被告人国選は拘束されていなくても利用可
被告人国選は、被疑者国選と異なり、身柄拘束されているか否かを問わず、全ての事件を対象としています。
国選弁護の対象となる人
1.50万円以上の資産があると国選を利用できない
国選弁護は、貧困等の理由により私選弁護人を選任できない方のために税金で運用されている制度です。
そのため、国選弁護人を利用できるのは、原則として、資産が50万円未満の人に限られます。この50万円とは現金や預金といった流動性のある資産のことです。不動産は流動性がないため資産にカウントされません。また借金も考慮されません。家族の資産も考慮されません。
【具体例①】
2000万円相当の土地と30万円の預金がある
⇒土地は資産にカウントされないため、資産50万円未満とみなされます。
【具体例②】
預金が300万円あるが、住宅ローンが2000万円残っている
⇒借金は考慮されないため、資産50万円以上とみなされます。
【具体例③】
父が多額の貯金をもっているが、自分の資産は現金3万円しかない。
⇒家族の資産は考慮されないため、資産50万円未満とみなされます。
2.国選弁護人と資力申告書
50万円以上の資産があると国選弁護人を利用できないため、国選弁護人の選任を請求する際は、「資力申告書」という書面に資産状況を記載しなければいけません。
裁判所は、この資力申告書をチェックして、国選弁護人を選任してよいかどうかを判断します。
逮捕・勾留されている状況で自分の正確な資産を把握している人は少ないと思われます。そのため、資力申告書はその時点での記憶に基づいて書けばよいことになっています。
ただ、明らかに50万円以上の資産があるにもかかわらず、裁判所(裁判官)の判断を誤らせる目的で、資力申告書に虚偽の記載をしたときは、10万円以下の過料を科されることがあるため、正直に記載してください。
3.50万円以上の資産がある人が国選を利用するための方法
50万円以上の資産があれば、常に国選弁護人を選任できないというわけではありません。
50万円以上の資産があっても、弁護士会から紹介してもらった弁護士に、私選弁護を依頼して断られた場合は、国選弁護人を選任してもらうことができます。
50万円以上の資産があっても、弁護士の都合で断られた場合にまで国選弁護人を利用できないとするのは酷に過ぎることから、このような例外が定められています。
50万円以上の資産がある人が国選弁護人を選任する流れは次の通りです。
①弁護士会に当番弁護士の接見を依頼する。 ↓ ②当番弁護士が接見に来る ↓ ③その弁護士に私選弁護を依頼する⇒断られる ↓ ④当番弁護士が不受任通知を弁護士会にFAXする⇒弁護士会が裁判所に通知する ↓ ⑤国選弁護人の選任を請求する |
【必要的弁護事件】 殺人、放火など一定の重大事件は、弁護人がいなければ審理することができないとされています。これを必要的弁護事件といいます。
必要的弁護事件については、50万円以上の資産がある方でも無条件で国選弁護人を選任することができます。そのため資力申告書の作成も不要です。 |
国選弁護人をつけるには本人の請求が必要
国選弁護人は、必要的弁護事件などのケースを除き、被疑者・被告人の請求があって初めて選任されます。被疑者・被告人が国選弁護人の選任を請求しなければ、裁判所は動いてくれません。
国選弁護人の選任を請求できるのは被疑者・被告人のみです。家族が請求することはできません。
接見禁止がついていなければ、留置場で家族が本人と面会して、国選弁護人の選任を請求するようアドバイスできます。接禁止がついていれば家族も会うことはできませんので、私選弁護人に初回接見を依頼して、国選弁護人の選任を請求するよう伝えます。
国選弁護人の費用
国選弁護人をつけてもらった被疑者や被告人が費用を負担するケースはそれほど多くはありません。この点が国選弁護の最大のメリットといえるでしょう。
ただ、資力申告書の記載から50万円以上の資産があることが明らかなケース等では、国選弁護人に払われる報酬などを「訴訟費用」として負担しなければいけないことがあります。
⇒国選弁護人でも費用がかかる!?訴訟費用が生じるケースを解説
国選弁護人が事件を引き受けるまでの流れ
法テラスと国選弁護契約を締結すると、定期的に弁護士会から契約弁護士のもとに、割当表が届きます。
この割当表に事務所に待機する日が記載されています。東京では、割当票は半年に1回(年に2回)届きます。それぞれの割当票には待機日が2、3日程度記載されています。
この待機日に弁護士が事務所で待機していると、法テラスの職員から電話がかかってきて、「お願いしたい事件があります。」と言われて、国選事件の配点を受けることになります。国選の依頼が少ない日は電話がかかってこないこともあります。
*電話ではなく弁護士が法テラスに赴いて事件の配点を受ける地域もあります。
法テラスから配点を受けた弁護士は体調不良などの正当な理由がなければ断ってはいけないことになっているため、通常は事件の配点を受けることになります。
国選弁護人を決めるのは誰?
国選弁護人を選任するのは裁判所ですが、国選弁護人の候補者を指名して裁判所に通知するのは法テラスです。
弁護士は法テラスから国選事件の配点を受けると「国選弁護人の候補者」になります。
法テラスは、この候補者を裁判所に通知します。裁判所は、法テラスから通知された候補者をそのまま国選弁護人に選任します。
法テラスが通知した候補者を国選弁護人に選任しないこともできますが、実際に裁判所が選任しなかったケースは聞いたことがありません。
そのため、どの弁護士を国選弁護人にするかを実質的に決めているのは法テラスといえるでしょう。
法テラスの職員は、その日に待機している契約弁護士の中からランダムに国選弁護人の候補者を選びます。そのため、本人や家族が法テラスに「実績のある弁護士をつけてください。」等とリクエストすることはできません。
どの弁護士が国選弁護人になるかは運次第ということになります。
国選弁護人が被疑者に接見するまでの流れ
被疑者が国選弁護人の選任を請求すると、翌日の夕方から夜に国選弁護人が初回接見に来ることが多いです。具体的な流れは次の通りです。
①被疑者が国選弁護人の選任を請求する
逮捕された被疑者が勾留(請求)された後に、警察署で国選弁護人の選任を請求するケースが多いです。警察職員に国選弁護人の選任請求書と資力申告書を用意してもらい、必要事項を記入します。
②警察署から裁判官に通知される
選任請求書と資力申告書が警察からFAX等により裁判所に送られます。
③裁判所から法テラスに連絡が入る
裁判所は法テラスに対して、国選弁護人の候補者を指名して通知するように依頼します。
④法テラスが弁護士に電話する
法テラスが、その日に待機している契約弁護士のリストから1人をピックアップし、弁護士に電話をして事件を配点します。法テラスはその弁護士を「国選弁護人の候補者」として裁判官に通知します。
⑤弁護士が接見する
配点を受けた弁護士が警察署に行き被疑者と接見します。多くの弁護士会は、事件の配点を受けてからおおむね24時間以内に被疑者に接見することを求めています。
国選弁護人の報酬
1.どこから支払われる?
国選弁護人の報酬は法テラスから支払われます。原資は国民の税金です。
2.被疑者国選の報酬
被疑者国選の報酬は接見の回数によって異なります。20日勾留された被疑者について、5回接見した場合の報酬は10万円超です。
被害者との間で示談が成立すると特別報酬として3万円が加算されます。不起訴の報酬金はありません。私選弁護人に依頼すると100万円以上かかることが多いですが、それよりはかなり低い金額になります。
3.被告人国選の報酬
被告人国選の報酬は、被疑者国選と異なり、接見回数によって違いはありません。そのため、起訴されるとほとんど接見に来なくなる国選弁護人もいるようです。
多くの事件は地方裁判所で単独の裁判官によって審理され、公判は1回で終了します。その場合、国選弁護人の報酬は7万円超です。
国選弁護人を解任できる?
私選弁護人は、本人や家族が選任しているので、いつでも解任することができます。
一方、国選弁護人を選任しているのは、裁判所(裁判官)ですので、そもそも本人が国選弁護人を解任することはできません。
国選弁護人を変えてもらいたいということであれば、裁判所(裁判官)に解任を請求することになります。
ただ、次のような理由で国選弁護人を解任してもらうことはできません。
☑ なんか頼りない
☑ やる気が感じられない
☑ 相性があわない
このような理由で解任を認めると、裁判所や法テラスの負担が増えたり、裁判がひんぱんに中断することになりかねないからです。国選弁護は税金で運用されているため、「そこまで期待すべきではない。」ということもできるでしょう。
もっとも、国選弁護人が絶対に解任されないというわけではありません。以下に該当するケースでは、裁判所(裁判官)は国選弁護人を解任することができます。
【刑事訴訟法38条1項】 ①私選弁護人が選任されたことその他の理由により弁護人をつける必要がなくなったこと。 ②被疑者・被告人と弁護人の利益が相反する状況にあり、弁護人に職務を継続させることが相当でないこと。 ③心身の故障その他の事由により、弁護人が職務を行うことができず、または職務を行うことが困難になったとき。 ④弁護人がその任務に著しく反したことによりその職務を継続させることが相当でないとき。 ⑤弁護人に対する暴行、脅迫その他の被告人の責めに帰すべき事由により弁護人にその職務を継続させることが相当でないとき |
これらの中でもっとも多いのは、私選弁護人をつけた場合です。私選弁護人をつければ、自動的に国選弁護人は解任されます。
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