【池袋暴走】被告人は収監されるか?刑の執行停止を弁護士が解説

2021年9月2日、池袋暴走事件の飯塚幸三被告人に禁錮5年の実刑判決が言い渡されました。

 

 

飯塚被告人は判決時点で90歳と高齢です。上級国民だから逮捕されなかったと言われていることもあり、世間では「刑務所に収容されないのでは?」とも言われています。

 

 

この点について刑事事件に詳しい弁護士が解説しました。

 

 

いつから収監される?

飯塚被告人のように逮捕・勾留されない状態で判決の日を迎えた場合、たとえ実刑であっても、その日に刑事施設に収容されるわけではありません。

 

 

収容されるのは判決が確定した後になります。実刑判決が確定すれば、通常は1カ月以内に検察庁から出頭日時と場所が記載された手紙が自宅に届きます。

 

 

指定された日時・場所に出頭すると身柄が拘束され、検察庁から拘置所に移送されます。拘置所でしばらく滞在した後に刑務所に移送されます。

 

 

判決は2週間の控訴期間が経過した後に確定します。もし飯塚被告人が控訴しなければ、判決は9月17日に確定しますので、その日以降に収監されることになります。

 

 

飯塚被告人が控訴すれば裁判の舞台は東京高等裁判所に移ります。この場合、判決は確定しませんので、まだ刑務所に収容されません。最高裁まで争うのであれば判決が確定するまで少なくとも1年以上はかかると思われますので、相当長期間、収容されないことになるでしょう。

 

 

判決が確定しても収監されないことがある

自由刑の執行停止

実刑判決が確定すれば収容されるのが原則ですが、これには例外があります。それが「自由刑の執行停止」です。

 

 

「自由刑」とは懲役や禁錮など人の行動の自由を制限する刑罰のことです。「執行停止」とは刑罰を執行しないということです。分かりやすくいうと、執行停止になれば、刑務所に収容されずこれまでと同じように生活できるということです。

 

 

執行停止にするか否かを決めるのは裁判官ではなく検察官です。自由刑の執行停止は刑事訴訟法という法律に定められています。

 

 

執行停止の2つのタイプ

自由刑の執行停止を大きく分けると次の2つがあります。

 

①自由刑の必要的執行停止

②自由刑の任意的執行停止

 

以下、個別にみていきましょう。

 

 

自由刑の必要的執行停止とは

必要的執行停止とは、必ず執行停止にしなければならないことです。このケースにあたるのが心神喪失状態のときです。心神喪失であれば刑罰の意味を理解できないため、執行すべきでないとされているのです。

 

 

判決が出る前の時点で心神喪失であれば、無罪となったり公判手続が停止されるでしょうから、刑の執行停止が問題となるのは、判決が出た「後に」心神喪失になった場合です。

 

 

飯塚被告人のような高齢者の場合、例えば、判決後に認知症が悪化し、物事の意味を理解できなくなった場合が考えられます

 

 

自由刑の任意的執行停止とは

任意的執行停止とは、必ず執行停止にしなければならないわけではなく、検察官の裁量によって停止するかどうかを決めてよい場合です。

 

 

全部で8つの事由が法律で決められています。

①刑の執行によって、著しく健康を害するとき、または生命を保つことのできないおそれがあるとき

②年齢70年以上であるとき

③受胎後150日以上であるとき

④出産後60日を経過しないとき

⑤刑の執行によって回復することのできない不利益を生ずるおそれがあるとき

⑥祖父母または父母が年齢70年以上または重病もしくは不具で、他にこれを保護する親族がいないとき

⑦子または孫が幼年で、他にこれを保護する親族がいないとき

⑧その他重大な事由があるとき

 

飯塚被告人のような高齢者に関連する事由としては、①と②が考えられます。

 

 

実際のところはどうなのか?

実際に執行停止になるのは、生命にかかわる重大な病気にかかっている場合です。例えば、末期ガンで余命宣告されており介護が必要な状態であれば、執行停止になる可能性が高いです。

 

 

回復が見込めなければ、ご本人が亡くなるまで執行停止が続くことになるため、事実上、刑を免れることになります。

 

 

ただ、高齢者であっても「心神喪失」といえるほどの重度の認知症や生命にかかわる重大な病気にかかっていなければ、執行停止となることはまずありません。

 

 

飯塚被告人は被告人質問でパーキンソン症候群の疑いがあると話していたようですが、パーキンソン病は生死に直結する病気ではないことから、パーキンソン病が決めてになり執行停止になる可能性は低いと思われます。

 

 

池袋暴走事件は社会的にも非常に注目されていることから、よほどの事情がない限り、検察官としては執行停止にすることはないと思われます。

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しました。