• トップ
  • > 淫行勧誘罪とは?要件やAV出演強要との関係について解説

淫行勧誘罪とは?要件やAV出演強要との関係について解説

2018年1月にAV制作会社の社長らが、未経験の女性にAV出演を強要したとして、淫行勧誘罪で逮捕されました。淫行勧誘罪が適用されたのはこの事件が実に71年ぶりのことでした。

 

 

このページでは淫行勧誘罪の要件やAV出演強要との関係について、刑事事件に詳しい弁護士が解説しています。

 

 

 

 

淫行勧誘罪がAV出演強要に適用された経緯

1.AV出演強要とは

近年、AV出演の強要が問題になっています。手口はこうです。グラビアモデル等と偽って女性を撮影スタジオに連れ出し、そこでAV出演を持ちかけ女性から拒否されると、高額の違約金をちらつかせる等してAV出演を強要します。

 

 

2.AV出演強要と売春防止法違反

売春をあっせんすれば売春防止法違反になりますが、AV出演を強要したからといって売春をあっせんしたことにはなりません。

 

 

売春は対価を得て不特定の相手と性交することを意味しますが、AVでは特定の男優としか性交せず、報酬も性交の対価ではなく出演の対価だからです。そのため、AV出演を強要しても売春防止法違反にはなりません。

 

 

3.AV出演強要と強要罪

AV出演の強要は、意に反する行為を強要したという点で強要罪にあたります。もっとも、女性とのやりとりは密室の中で行われるため、強要したことの証拠がなく立件できないことが多いです。

 

 

4.AV出演強要と労働者派遣法・職業安定法違反

AV出演を強要した者を労働者派遣法や職業安定法違反で検挙することがあります。

 

 

労働者派遣法違反は、公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、労働者を派遣した場合に成立します。職業安定法違反は、同様の目的で、職業紹介、労働者の募集や供給を行った場合に成立します。

 

 

AVは公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務といえますが、労働者派遣法や職業安定法が適用されるためにはAV女優が「労働者」であることが前提になります。

 

 

たあ、AV女優は会社員のように決まった時間に決まった場所で仕事をするわけではなく、報酬も作品単位で発生することが多いので、労働者と言いにくい面があります。AVプロダクションも労働者と認定されないように契約書に業務委託契約等と記載しています。

 

5.AV出演強要と淫行勧誘罪

AV出演の強要は、売春防止法違反、強要罪、労働者派遣法・職業安定法違反として立件するのが難しい現状で、捜査機関が注目したのが淫行勧誘罪です。

 

 

そこで、刑事事件に詳しい弁護士が、淫行勧誘罪の要件やAV出演強要のケースがなぜ淫行勧誘罪の要件にあてはまるのかを解説しました。

 

 

淫行勧誘罪とは

淫行勧誘罪とは、「営利の目的で、淫行の常習のない女子を勧誘して姦淫させた者」について成立する犯罪です。刑法182条に規定されています。

 

 

淫行勧誘罪の刑罰は3年以下の懲役または30万円以下の罰金です。

 

 

淫行勧誘罪の構成要件

犯罪が成立するための要件を構成要件といいます。淫行勧誘罪の構成要件は以下のとおりです。

 

 

1.営利の目的

淫行勧誘罪の「営利の目的」とは次の3つのいずれかをいいます。

 

 

① 勧誘した者の財産上の利益を図る目的

② 第三者の財産上の利益を図る目的

③ ①と②が併存する場合

 

 

例えば、AVプロダクションの関係者が女性を勧誘してAVに出演させた場合は、プロダクションにも出演料が入ってきますし、制作会社やAVメーカーも利益を得ますので、上記の③にあたり営利目的が認められます。

 

 

2.淫行の常習のない女子

淫行勧誘罪の「淫行」とは、社会の健全な性道徳から許容されない性行為をいいます。淫行の常習性がある女子については保護の必要がないと考えられ、対象から除外されています。

 

 

AV出演を強要した場合も、強要された女性がパパ活を頻繁にしていたり、他のAVに自発的に何本も出演していたという事情があれば、この要件を満たさない可能性が十分にあります。

 

 

3.勧誘

淫行勧誘罪の「勧誘」とは、女性に姦淫の決意を生じさせるよう働きかける行為をいいます。対価を提示して働きかける場合が一般的ですが、女性を騙したり困惑させたり、上下関係を利用して姦淫を決意させる場合も勧誘にあたります。

 

 

「水着の撮影しかしない。」等と言って女性を騙したり、「拒否すれば違約金が発生する。」等と言って困惑させてAVに出演させることも勧誘にあたります。

 

 

暴行や脅迫を用いて女性の意思決定の自由を奪って姦淫させた場合は、淫行勧誘罪ではなくより重い強制性交等罪が成立します。

 

 

勧誘されて姦淫した女性は罪に問われません。その女性と性交した男性も罪に問われませんが、その男性も女性を勧誘していた場合は淫行勧誘罪になります。

 

 

4.姦淫

淫行勧誘罪の「姦淫」とは性交を意味します。性交一般ではなく、性道徳的に問題があり刑罰をもって防止する必要のある性交のみをさすという見解も有力です。

 

 

AV出演を強要されて意に反して性交することは刑罰をもって防止する必要があると考えられるため、後者の見解によっても出演を強要された女性による性交は姦淫といえるでしょう。

 

 

淫行勧誘罪はいつ成立する?

淫行勧誘罪は勧誘された女性が性交した時点で成立します。勧誘しただけで淫行勧誘罪にはなるわけではありません。

 

 

AV出演の強要についても、強要された女性が男優と性交していなければ、淫行勧誘罪にはなりません。性交していればAVが販売される前であっても淫行勧誘罪になります。

 

 

淫行勧誘罪と他の犯罪

1.児童買春周旋罪

18歳未満の児童を勧誘して児童売春をさせた場合は、児童ポルノ法の児童買春周旋罪になります。罰則は5年以下の懲役または500万円以下の罰金です。

 

 

業として反復してそのような行為をした場合、刑が加重され、7年以下の懲役または1000万円以下の罰金になります。

 

 

2.児童福祉法違反

教師と生徒、親と子のように一定の影響力があることを背景として、18歳未満の児童に淫行させた場合は、児童福祉法違反が成立します。

 

 

罰則は10年以下の懲役または300万円以下の罰金です。懲役と罰金が両方科されることもあります。

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しました。

 

 

【関連ページ】

淫行に強い弁護士

児童買春とは?逮捕の確率や不起訴になる方法を弁護士が解説