水増し請求と詐欺

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

 

 

水増し請求は詐欺罪になる

水増し請求のよくある流れはこうです。

 

①取引先の担当者に実際の金額よりも高い金額を記載した請求書を出してもらう

②会社が取引先に水増しされた金額を支払う

③取引先から水増し分を受けとる

 

通常、本人が取引先の担当者に、協力してくれた報酬として、水増し金額の一部を渡しています。水増し請求をすると、着服した本人と取引先の担当者に詐欺罪の共同正犯が成立します。

 

「業務上横領罪になるのでは?」と考える人がいるかもしれませんが、業務上横領罪は、自分が「管理」しているお金を着服することです。例えば、会社の預金通帳を「管理」している経理担当者が口座から不正にお金に引き出した場合は業務上横領罪が成立します。

 

これに対して、水増し請求の場合は、本人は営業担当でお金の管理をしているわけではありません。水増しした請求書を取引先から会社に出させることによって、会社をだまして、お金を支払わせているので、業務上横領罪ではなく詐欺罪になります。

業務上横領と詐欺の違い

 

共同正犯とは、お互いに協力しあって、特定の犯罪を「自分の犯罪として」実現する者のことです。ほう助犯のようにわき役的な存在ではなく、二人とも主役とみなされるということです。

 

「取引先の担当者は協力しただけなので、ほう助犯にとどまるのでは?」と思われるかもしれませんが、請求書の作成や会社への請求という行為がなければ、犯罪は実現しませんので、ほう助犯ではなく正犯として扱われます。

 

ただ、力関係によって協力せざるを得なかった場合は、逮捕・起訴される可能性は低くなります。

 

水増し請求と弁護士

水増し請求事件において、本人と協力者は、詐欺の共犯者になります。一般的に、共犯者の双方に一人の弁護士がつくことは避けるべきとされています。

 

共犯者間で責任の程度などについて争いになることが多く、そうなれば一人の弁護士が双方のために活動することが難しくなるためです。弁護士が仲間割れしている一方のために活動すれば、他方にとって不利益な結果になりかねません。

 

水増し請求事件でも、水増しをすることになった経緯や誰が金額を決めていたかなどについて当事者間で争いになる可能性があるため、別々の弁護士をつけた方がよいでしょう。

 

水増し請求と不真正連帯債務

着服した本人と協力者は、刑法上は詐欺罪の共同正犯となりますが、民法上は、共同不法行為者として、会社に対して損害を賠償する義務を負っています。

 

会社に対する賠償義務は「不真正連帯債務」となります。不真正連帯債務となるケースでは、債権者は債権の「全額」であれ「一部」であれ、どの債務者からでも、自由にとることができます。

 

例えば、AとBの2名が共同して被害者から100万円をだましとったケースの場合、被害者はAに対して50万円しか請求できないというわけではありません。Aに対して100万円を請求することができますし、Bに対しても100万円請求できます。

 

ただし、二重取りはできませんので、VがAから100万円を実際に回収した場合は、Bに対する債権も消滅します。もしVがAから50万円のみ回収できたとすると、残りの50万円をBに請求できるのは当然として、Aにも請求できます。

 

要するに、被害者からすれば一番回収できそうな人間から回収できるということです。

 

もし被害者がAから100万円全額を回収した場合は、「Aに酷ではないか」と思われるかもしれませんが、それはAとBの内部で「求償権」を行使することによって調整します。AとBが同程度に犯行に関与していたとすると、100万円全額を支払ったAはBに50万を求償することができます。

 

つまり「不払いのリスクを債権者(被害者)に負わせるのではなく債務者(加害者)に負わせることにより被害者の保護を図る」のが不真正連帯債務の趣旨になります。

 

水増し請求でも、被害を受けた会社は、着服した従業員に対しても、その協力者に対しても、全額を請求することができます。

 

 

水増し請求と示談

水増し請求で逮捕や起訴を防ぐためには、会社と示談をすることが重要になります。前述したように、水増し請求のケースでは、本人と協力者が会社に対して負担する債務、不真正連帯債務となります。

そのため、本人や協力者が会社と示談をする際は、他方が弁済した場合に、その分だけ債務額が減少する旨の条項を設定するようにしてください。具体的には次のような条項が考えられます。

 

 

第〇条 

甲(会社)は、〇〇株式会社(協力者の会社)または〇〇(協力者)のいずれかから、本件債務の全部または一部の弁済を受けたときは、乙(本人)に下記事項を報告し、乙の残債務から前記弁済額を控除する。控除後に乙の残債務が存在する場合、同債務の支払方法について、甲乙間で協議するものとする。

①弁済者

②弁済日

③弁済額

 

 

 

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