【少年事件】抗告とは?少年院を回避する手段について解説

抗告とは

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

 

少年事件の抗告とは?

「少年院に送致します。」-少年審判で裁判官からこのように言われれば諦めるしかないのでしょうか?

 

 

いえ、まだ少年院を回避する余地は残されています。そのための手段が抗告です。抗告とは、少年審判で言い渡された保護処分に納得できないときに、高等裁判所に不服を申し立てることです。

 

 

保護処分には、①保護観察、②児童自立支援施設または児童養護施設送致、③少年院送致の3つがありますが、抗告を申し立てるのは少年院に送致された場合がほとんどです。

 

 

高等裁判所が抗告に理由があると判断すれば、家庭裁判所の決定を取り消した上で、事件を家庭裁判所に差し戻し、改めて審理させます。家庭裁判所の審判は高等裁判所の判断に拘束されるため、少年院を回避できる可能性が高くなります。

 

 

抗告をすることができるのは、少年本人、法定代理人(少年の親)、付添人(弁護士)のいずれかです。通常は付添人である弁護士が抗告をします。

 

少年事件で抗告できる3つのケース

抗告できるのは次の3つのいずれかを理由とする場合に限られます。

 

1.決定に影響を及ぼす法令の違反がある場合

調査や審判の手続等に法令違反があり、違反の程度が重く決定自体に影響を及ぼし得る場合は、抗告理由とされています。

 

 

2.重大な事実の誤認がある場合

処分の前提となる事実の認定に重大な誤りがあれば、それに連動して処分も不当なものになるため、抗告理由とされています。

 

 

3.処分の著しい不当がある場合

前提となる事実に重大な誤認がなくても、処分が裁判所の裁量の範囲を超え著しく不当な処分である場合は、抗告理由とされています。

 

 

抗告しただけでは少年院から出れない

20歳以上の大人の刑事事件では、たとえ実刑判決を言い渡されても、控訴すると刑務所に収容されることなく、拘置所にとどめ置かれます。再保釈請求が許可されれば、控訴審の判決が出るまでの間、自宅に戻ることも可能です。

 

 

これに対して、少年事件の抗告には保護処分の執行を停止する効力がありません。そのため、少年審判で少年院送致を言い渡されると、通常はその日のうちに少年院に移送され、抗告しても少年院から出ることはできません。

 

抗告が認められれば少年院から出れる

高等裁判所で抗告に理由があると認められた場合は、直ちに少年院から釈放され、少年の身柄は家庭裁判所に送致されます。

 

 

家庭裁判所に送致されると、その日のうちに釈放されるか、観護措置となり少年鑑別所に収容されるかのいずれかになります。

 

 

抗告事件では、最初の審判前に少年鑑別所に収容されていることが多いことから、再び観護措置とはならずに、自宅に戻されることが多いです。

 

 

少年事件の抗告は時間との闘い

1.2週間以内に抗告の理由を特定する

抗告することができるのは、保護処分が言い渡された日の翌日から2週間に限られています。「抗告します。」という書面を裁判所に提出するだけでは足りず、抗告の理由についても記載しなければなりません。

 

 

これが大人の刑事事件における控訴との大きな違いです。

 

 

2.抗告と控訴の違い

控訴できるのも判決言渡しの翌日から2週間です。もっとも、控訴の場合は2週間以内に「控訴します。」という控訴申立書を提出するだけでよく、控訴期間内に控訴理由まで明らかにする必要はありません。

 

 

控訴理由は「控訴趣意書」という別の書面に記載して裁判所に提出します。控訴趣意書の提出期限は控訴の約2か月後です。そのため、控訴の方が抗告よりも時間的余裕があることになります。

刑事事件の控訴-流れや判決までの期間について

 

3.抗告するなら直ちに弁護士に依頼すべき

少年事件で抗告するためには、審判の翌日から2週間以内に抗告申立書を提出する必要があるため、直ちに弁護士が準備にとりかかる必要があります。

 

 

抗告をするのであれば、少年審判の当日か翌日に弁護士に依頼した方がよいでしょう。少年院送致になった場合に備えて、少年審判の前にあらかじめ弁護士に相談しておくのがベストです。

 

抗告の流れ

 

6月1日

少年審判

6月14日

弁護士が抗告申立書を提出

6月15日

抗告の期限

7月15日

事件の記録が家裁から高裁に移る

7月25日

弁護士が証拠書類を提出

7月30日

弁護士が裁判官と面接

8月31日

決定(抗告棄却or現決定の取り消し)

 

 

抗告の弁護活動

1.少年との接見

まずは弁護士が少年と接見します。通常は審判当日に少年院に移送されるため、弁護士が少年院まで出向いて接見することになります。多くの少年は少年院送致となり動揺しているため、少年の心情にも十分に配慮してコミュニケーションをとる必要があります。

 

 

2.記録の検討

家庭裁判所に記録の閲覧やコピーを申請します。警察や検察が作成した証拠はコピーすることができますが、家庭裁判所調査官や鑑別技官が作成した書類はコピーすることができませんので、弁護士が家庭裁判所に出向いて閲覧します。

 

 

3.抗告理由を検討する

抗告を受けた高等裁判所は、通常、書面審理のみで結論を出すので、申立書に抗告理由を説得的に記載する必要があります。少年院を回避するためには、「社会内での更生が可能である」ということを裁判官に納得してもらう必要があります。

 

 

4.裁判官との面接

抗告審では通常、法廷で審理されることはなく、書面のみで審理されるため、弁護士が裁判官と面談し、特に強調しておきたいポイントや補足しておきたい内容を裁判官に指摘します。

 

 

5.被害者と示談をする

少年審判の後に生じた事実であっても抗告審理の対象になります。抗告申立書に「被害者側と示談交渉中である。」と記載しておけば、抗告期間が経過した後であっても示談書を証拠として提出することができます。