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刑事事件の控訴-流れや判決までの期間について
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
控訴とは
控訴とは一審の判決に不服がある場合に、上級の裁判所に改めて審理してもらうことをいいます。一審が地方裁判所でも簡易裁判所でも、控訴の申立ては高等裁判所に行います。
控訴できる期間
控訴できる期間は一審の判決日の翌日から14日間です。14日目が土日祝日や年末年始(12月31日~1月3日)の場合は、直後の平日まで期間が延長されます。この期間内に控訴申立書を一審の裁判所に提出します。
控訴審の3つの判決
控訴審の判決には次の3種類があります。
1.破棄自判-控訴審が判断
控訴審が一審の判決を取り消して、自ら判決を言い渡します。
2.破棄差戻し-裁判のやり直し
控訴審が一審の判決を取り消し、事件を一審に差し戻してもう一度審理させます。一審の裁判所は、差し戻した控訴審の判断に拘束されるため、当初と同じ内容の判決を下すことはできません。
3.控訴棄却-変更なし
控訴審が控訴申立てに理由がないとして棄却する裁判です。これによって一審の判決が維持されることになります。
控訴を申し立てる側としては、破棄自判か破棄差戻しを目標とすることになります。
控訴と不利益変更禁止の原則
被告人のみが控訴した場合、一審の判決よりも控訴審の判決が重くなることはありません。これを不利益変更禁止の原則といいます。これに対して、検察官が控訴した場合は、一審の判決より重くなることがあります。
例えば、懲役1年の実刑判決を不服として被告人のみが控訴した場合、控訴審で懲役1年を超える判決が言い渡されることはありません。
控訴審の特徴-事件ではなく判決内容を審理する
控訴審は裁判のやり直しではありません。一審では起訴状に書かれた事件について審理します。例えば、起訴状に「被告人がAを殺した」と書かれている場合、「本当に被告人がAを殺したのか」が審理の対象になります。
これに対して、控訴審は、事件ではなく「一審の判決が正しいか誤っているか」を審理します。
例えば、一審の有罪判決を不服として被告人が控訴した場合、控訴審では、事件について改めて審理するのではなく、一審の判決に間違っているところがあるかどうかを審理するのです。
控訴理由が審理のメイン
1.控訴理由とは
控訴審では一審の判決が正しいか間違っているかを審理します。判決が間違っているケースは刑事訴訟法という法律で細かく分類されています。これが控訴理由です。
控訴した場合は、控訴した側が「控訴趣意書」という書面に、どのような控訴理由があるのかを明記して、裁判所に提出します。
控訴審では、控訴理由があるか否かを審理することになります。控訴理由があれば一審の判決は破棄されますし、なければ控訴が棄却されます。
2.代表的な4つの控訴理由
一審の刑事裁判では、裁判官は、①法令に従って訴訟手続を行い、②証拠に基づき事実を認定した上で、③その事実に法令を適用し、④適切な刑罰を定めることになっています。これらの4つのプロセスに対応して、4つの控訴理由が定められています。
①訴訟手続の法令違反
訴訟手続に法律や裁判所の規則、経験則違反があり無効になることです。
②事実誤認
証拠から認定されるべき事実と異なる事実を認定することです。
③法令適用の誤り
認定した事実に対して適用された法令が誤っていることです。
④量刑不当
刑罰が合理的な裁量を超えて重すぎる、または軽すぎることです。
3.相対的控訴理由と絶対的控訴理由
上に挙げた①から④は、判決に影響を及ぼすことが明らかである場合に限って控訴理由になります。これを相対的控訴理由といいます。
ただ、①訴訟手続の法令違反の一部は、判決への影響の程度にかかわらず常に控訴理由になります。これを絶対的控訴理由といいます。絶対的控訴理由の例としては、裁判所の管轄違いが挙げられます。
控訴の流れ
控訴は次の流れで進んでいきます。
①控訴申立て
↓
②控訴趣意書の提出期限の告知
↓
③控訴趣意書の提出
↓
④控訴審の審理
↓
⑤控訴審判決の言い渡し
控訴を申し立ててから判決まで4カ月~6ヶ月程度かかります。
控訴の弁護活動
控訴審では、一審と異なり審理が1回で終わることが多いです。情状関係の証拠を除き、証拠調べが実施されることも少ないです。そのため、控訴趣意書に何を書くかが極めて重要になります。
控訴審では、事件そのものではなく、一審判決に誤りがないか否かを審理します。まずは弁護士が判決書を読みこんで、控訴理由に該当する事情がないかどうかを精査します。
控訴理由に精通していなければ、説得力のある控訴趣意書を作成することは困難です。控訴審の弁護活動は控訴審の経験豊富な弁護士に依頼した方がよいでしょう。