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刑事事件の上告とは?控訴との違いや上告棄却、流れについて解説

このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しています。

 

 

 

上告とは

上告とは、高等裁判所の判決に不満がある場合に最高裁判所に対してする不服申立てです。

 

 

裁判では、三審制といって、第一審⇒控訴審⇒上告審と3つの裁判所で審理を受ける機会があります。刑事裁判の第一審は地方裁判所か簡易裁判所、控訴審は高等裁判所、上告審は最高裁判所になります。

 

 

上告理由とは

上告の申立てはどんな理由でもよいわけではなく、一定の事由があることを理由とする場合に限りできるとされています。この理由のことを「上告理由」といいます。上告理由は、法律によって以下のように限定されています。

 

 

①憲法違反または憲法解釈の誤りがあること

②最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと

*最高裁の判例がない場合は、大審院または高裁の判例と相反する判断をしたことも上告理由となります。

 

 

【刑事訴訟法】

第四百五条 高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。

一 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。

二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。

三 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。

 

 

上告趣意書とは

上告趣意書とは上告理由にあたる事情を記載した書面です。弁護士が作成して裁判所に提出します。最高裁判所は、主として上告趣意書に記載された上告理由の有無について審理します。

 

 

上告趣意書の作成と提出が上告審での弁護活動の中心といえるでしょう。判例違反を理由として上告する場合は、控訴趣意書にその判例を具体的に記載する必要があります。

 

 

上告すると、上告趣意書の提出期限が書かれた通知書が最高裁から被告人と弁護人に送達されます。提出期限は通知書が到着してから1か月半~2か月後に設定されていることが多いです。

 

 

提出期限を1日でも過ぎると上告は決定で棄却されます。期限後に控訴趣意書を提出しても判断してくれません。

 

 

上告と控訴の違い

1.裁判所の違い

控訴とは、第一審の判決に納得できない場合に上級の裁判所にする不服申立てです。第一審は地方裁判所か簡易裁判所になりますが、どちらの裁判所であっても、控訴する裁判所は高等裁判所になります。

 

 

これに対して、控訴審である高等裁判所の判決に納得できない場合にされる不服申立てが上告です。上告審は最高裁判所のみです。

 

 

2.上訴理由の違い

上告理由は控訴理由よりも範囲が絞られています。控訴理由には主として、①訴訟手続の法令違反、②事実誤認、③法令適用の誤り、④量刑不当がありますが、上告理由は憲法違反最高裁の判例違反に限られています。

 

 

憲法で最高裁判所は違憲審査をする終審裁判所であるとされていることから、憲法違反が上告理由とされています。また、社会生活の法的安定性を維持するために判例違反も上告理由とされています。

 

 

3.弁論の有無の違い

憲法違反や判例違反の有無は書面での審理になじみます。そのため、最高裁で弁論が開かれることはめったにありません。上告しても弁護士や被告人が最高裁判所に足を運ぶことはほとんどありません。

 

 

控訴審も一審とは異なり書面審理が中心となりますが、少なくとも1回は弁論が開かれ、被告人が出廷することも可能です。

 

 

上告が棄却されるケース

上告の申立てをしても上告理由があると認められなければ棄却されるのが原則です。上告棄却には上告棄却判決と上告棄却決定の2つのタイプがあります。それぞれについて見ていきましょう。

 

 

1.上告棄却判決

上告趣意書で憲法違反や判例違反の主張はされているが理由がないと認められる場合、上告棄却判決が宣告されます。

 

 

理由がないことが明らかであると認められる場合、弁論を開く必要がないとされています。上告棄却の判決は最高裁の小法廷で宣告されます。

 

 

【上告棄却判決が宣告されるケース】

①上告理由として憲法違反を主張しているが、同一の問題について別の最高裁判決で合憲の判断がなされているとき

 

②上告理由として判例違反を主張しているが、その判例と原判決が相反していない場合

 

 

なお、死刑事件の場合は、上告理由がないことが明らかであっても、口頭弁論が開かれるのが慣例になっています。

 

 

2.上告棄却決定

上告趣意書の内容がそもそも憲法違反や判例違反の主張にすらなっておらず不適法とされる場合、弁論を経ることなく決定で上告が棄却されます。上告棄却の決定書が被告人と弁護人に送達されて初めて棄却決定が出た事実を知ることになります。

 

 

【上告棄却決定が出されるケース】

①憲法違反や判例違反の主張をしていない場合

 

②形式的には憲法違反の主張をしているものの、単に憲法の条項を挙げているだけで、実質的には法令違反、事実誤認、量刑不当の主張に過ぎない場合

 

 

上告事件の大半が決定で棄却されます。

 

 

上告して原判決が破棄されるケース

上告理由があると認められる場合は原判決が破棄されます。

 

 

ただし、原判決に憲法違反や判例違反があっても、その違反が判決に影響を及ぼさない場合は、上告棄却判決が下されます。判例違反が認められる場合でも、最高裁が判例を変更して原判決を維持する場合も上告棄却判決が下されます。

 

 

原判決について憲法違反の判断をする場合や最高裁の判例を変更する場合は、大法廷で弁論が開かれます。

 

 

最高裁が原判決を破棄するときは、事件を原審の高等裁判所に差し戻すか、第一審の地方裁判所または簡易裁判所に差し戻します。

 

 

ただし、最高裁が、訴訟記録や原審・第一審で取り調べた証拠によって直ちに判決することができる場合は、最高裁が自ら判決を下します(自判)。

 

 

上告理由がなくても破棄されるケース-職権破棄事由

上告理由が不適法であったり、適法であっても理由が認められない場合でも、一定の事由があり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められるときは、最高裁の職権で原判決を破棄することができます。

 

 

この一定の事由を「職権破棄事由」といいます。具体的には次の5つが法律で定められています。

 

 

一 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。

二 刑の量定が著しく不当であること。

三 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。

四 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。

五 判決があった後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があったこと。

 

 

これらの事由があるかどうかの判断は裁判所が職権でするため、弁護士がこれらの事由を全く主張していなくても、裁判所は職権を発動して原判決を破棄することができます。

 

 

とはいえ、弁護士が職権破棄事由が存在すると判断した場合は、控訴趣意書にその旨指摘し、裁判官の職権発動を促すべきです。

 

 

上告したら判決はいつ確定する?

1.上告棄却判決

上告棄却判決が出た場合、判決が宣告された日の翌日から10日以内に、最高裁に対して判決訂正の申立てをすることができます。訂正の申立てをしなければ10日目に確定することになります。

 

 

判決訂正の申立てをして訂正判決が出た場合は、その時点で確定します。訂正の判決に対してさらに訂正を求めることはできません。訂正申立てに対して棄却決定が出た場合は、決定書が被告人に送達された時点で確定します。

 

 

2.上告棄却決定

上告棄却決定が出た場合、決定書が被告人に送達された日の翌日から3日以内に、最高裁に対して異議申し立てをすることができます。異議申し立てをしなければ3日目に確定することになります。

 

 

ほとんどのケースで異議申し立てをしても決定で棄却されます。申し立てをしてから1,2週間で棄却決定書が被告人と弁護人に送達されます。被告人に送達された時点で確定します。

最高裁の上告棄却決定に対する異議申し立てとは?弁護士がわかりやすく解説

 

 

3.破棄

最高裁が原判決を破棄して自ら判決を下した場合は、上記1と同様の流れになります。高裁や地裁に差し戻した場合は、当分の間は確定しないことになります。

 

 

上告の流れ

【上告棄却になるケース】

申立てから3か月前後で棄却になるケースが多いです。

 

①上告申立て

②裁判所から上告趣意書の提出期限を指定される

③期限内に弁護士が上告趣意書を提出する

④上告棄却判決または上告棄却決定

 

 

【原判決破棄のケース】

申立てから判決まで少なくとも6か月以上はかかるでしょう。

 

①上告申立て

②裁判所から上告趣意書の提出期限を指定される

③期限内に弁護士が上告趣意書を提出する

④弁論の通知

⑤公判期日

⑥破棄

 

 

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