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権利保釈とは?6つの除外事由や裁量保釈との関係を解説
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しました。
目次
権利保釈とは
保釈請求があったときは、法律で定められた一定の例外に該当しない限り、裁判所は必ず保釈を許可しなければなりません。これが権利保釈です。権利保釈が許可されない例外のことを「除外事由」といいます。除外事由は次の6つです。
【6つの除外事由】
①被告人が重大犯罪(死刑・無期・短期1年以上の懲役・禁錮にあたる罪)を犯した |
②被告人が前に死刑・無期・長期10年を超える懲役・禁錮にあたる罪で有罪の宣告を受けた |
③被告人が常習として長期3年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯した |
④被告人が証拠を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある |
⑤被告人が被害者や証人となり得る者またはその親族の身体や財産に害を加え、またはこれらの者を怖がらせる行為をすると疑うに足りる相当な理由がある |
⑥被告人の氏名または住居がわからない |
それではこれらの除外事由について個別に見ていきましょう。
権利保釈の除外事由①:重大犯罪を犯した
死刑、無期懲役、短期1年以上の懲役・禁錮にあたる罪で勾留されている場合は、権利保釈の除外事由になります。
例として次の犯罪が挙げられます。
犯罪 | 刑罰 |
殺人 | 死刑、無期、懲役5年~20年のいずれか |
傷害致死 | 懲役3年~20年 |
強盗 | 懲役5年~20年 |
不同意性交等 | 懲役5年~20年 |
覚せい剤の所持・譲渡・譲受(営利目的あり) | 懲役1年~20年 |
危険運転致死 | 懲役1年~20年 |
権利保釈の除外事由②:重大犯罪で有罪を宣告された
被告人が以前に死刑・無期・長期10年を超える懲役・禁錮にあたる罪で有罪の宣告を受けた場合は権利保釈の除外事由になります。
実際に宣告された刑罰ではなく、法律で定められた刑罰が上記の要件を満たしていれば除外事由になります。
上記①の犯罪に加えて次の犯罪が挙げられます。
犯罪 | 刑罰 |
傷害 | 15年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
危険運転致傷 | 15年以下の懲役 |
権利保釈の除外事由③:常習として犯罪を犯した
被告人が常習として長期3年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯したときも権利保釈の除外事由になります。
前科や前歴の原因となった犯罪だけでなく、起訴されて判決が確定する前の犯罪や起訴されていない余罪も常習性の判断材料になります。
長期3年以上の懲役・禁錮に当たる罪の例として、上記①・②の犯罪に加えて次の犯罪が挙げられます。
犯罪 | 刑罰 |
不同意わいせつ | 懲役6ヶ月~10年 |
詐欺 | 10年以下の懲役 |
恐喝 | |
業務上横領 | |
覚せい剤の使用・所持・譲渡・譲受(営利目的なし) | |
酒気帯び運転 | 3年以下の懲役、50万円以下の罰金 |
酒酔い運転 | 5年以下の懲役、100万円以下の罰金 |
【常習性を認められやすい場合】
・受け子として多くの被害者からお金を騙しとったケース(詐欺)
・会社の金庫から何度もお金をとったケース(業務上横領)
・スマートフォンに多数の盗撮動画が保存されているケース(撮影罪)
権利保釈の除外事由④:証拠隠滅を疑うに足りる相当な理由がある
「証拠隠滅を疑うに足りる相当な理由」とは、証拠を隠滅する一般的・抽象的なおそれがあるだけでは足りず、具体的・現実的なおそれがあることを意味します。
権利保釈で実務上もっとも問題になるのがこの要件です。権利保釈が却下されるケースの大半がこの要件で切られます。そのため、権利保釈が認められるためには、弁護士が、証拠隠滅のおそれがないといえる具体的な事情を指摘することが必要です。
動かし難い客観的な証拠があれば、証拠隠滅の実効性がなくなるため、証拠隠滅のおそれがないと言いやすくなります。
例えば、暴行罪や傷害罪のケースで、暴力を振るっている場面が防犯カメラに写っていれば、証拠隠滅の余地がないと言えるため、証拠隠滅のおそれは小さくなります。
権利保釈の除外事由⑤:証人威迫を疑うに足りる相当な理由がある
「証人威迫」の典型は被害者へのお礼参りです。被害者との間で示談が成立していれば、被害者から許しを得ている以上、お礼参りの可能性は低いと考えられます。
そのため、示談をすることによって権利保釈が許可される可能性が高くなります。特に不同意性交等、不同意わいせつといった性犯罪ではこの傾向が顕著です。
権利保釈の除外事由⑥:氏名・住所がわからないこと
氏名がわからないことはまずないでしょうが、住居不定と扱われることは少なくありません。たとえ住民票上の住所があっても、逮捕前にホテル等を転々とし、事実上、住居不定になっている場合はこの要件に該当します。
住居不定と認定されても、保釈中に家族が身元引受人として同居してくれるのであれば、権利保釈が許可される余地は十分にあります。
逃亡のおそれは権利保釈の除外事由になる?
逃亡のおそれ自体は権利保釈の除外事由になっていません。
逃亡のおそれが大きいと認められるケースは、重い刑罰が予想されるときです。予想される刑罰が重いものであればあるほど、「逃げよう」という考えにつながりやすいからです。
刑罰が重くなることが予想されるケースとして、①重大犯罪で起訴された場合や、②過去に重大犯罪で有罪の宣告があった場合、③重大犯罪を常習的に犯していた場合があげられます。
これらの3つの事情は全て権利保釈の除外事由になっています。そのため、これら3つの事情に該当するか否かの審査を通じて、逃亡のおそれについても事実上検討されているといえるでしょう。
権利保釈の条文は?
権利保釈は刑事訴訟法89条に規定されています。
【刑事訴訟法】
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権利保釈と裁量保釈の関係は?
権利保釈が認められなくても、まだ保釈請求が許可されるチャンスがあります。それが裁量保釈です。
裁量保釈とは裁判官が適当と判断したときに許可する保釈です。裁量保釈するか否かの判断材料は以下となります。
・逃亡のおそれの程度
・証拠隠滅のおそれの程度
・勾留による健康上の不利益の程度
・勾留による経済上の不利益の程度
・勾留による社会生活上の不利益の程度
・勾留による防御の準備上の不利益の程度
保釈を請求する弁護士はまずは権利保釈を検討しますが、除外事由がある場合は裁量保釈を目指すことになります。
【義務的保釈】 権利保釈や裁量保釈が認められない場合であっても、勾留による身柄拘束が不当に長くなったときには特別に保釈が許可されます。これが義務的保釈です。ただ、実務上、義務的保釈が認められることはめったにありません。 |
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