保釈許可と検察官の準抗告・抗告

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

保釈が許可されても釈放されないことがある

保釈が許可されると、裁判所に保釈金を納付した後、1~2時間で被告人は釈放されます。弁護士から保釈許可の一報を受けて、家族が警察署や拘置所に迎えに行っているかもしれません。

 

しかし、保釈金を納付しても釈放されないケースがあります。検察官が保釈許可の決定に対して不服を申し立てた場合です。

  

準抗告と抗告

検察官の不服申し立てには準抗告と抗告の2種類があります。

 

弁護士が保釈請求をすると、裁判官が保釈を許可するかどうかを判断しますが、保釈請求のタイミングによって、担当する裁判官が変わってきます。これに対応して、検察官の不服申立てにも準抗告と抗告の2種類があるのです。

 

保釈請求は1人の裁判官が判断しますが、準抗告や抗告は3名の裁判官による合議体で判断します。

保釈請求のタイミング

保釈について判断する裁判官

検察官の不服申立て

検察官の不服を判断する裁判官

初公判前

公判審理を担当しない裁判官

準抗告

地方裁判所の裁判官

初公判後

公判審理を担当する裁判官

抗告

高等裁判所の裁判官

 

準抗告・抗告と保釈の執行停止

検察官が準抗告や抗告を申し立てると、裁判官3名の合議体が、その申立てに理由があるかどうかを判断します。理由がないと判断すれば、準抗告は棄却され当初の保釈許可決定が維持されます。

 

そのため、保釈金を納付した後、被告人は釈放されます。

  

理由があると判断すれば、準抗告が認められ当初の保釈許可決定は取り消されます。そのため、被告人は釈放されません。既に保釈金を納付している場合は、全額返還されます。

 

それでは、裁判官が判断する前の時点で、保釈金を納付すれば被告人は釈放されるのでしょうか?

 

結論から言うと、釈放されません。

 

検察官は、準抗告や抗告を申し立てるのと同時に、裁判所に「保釈許可決定の裁判の執行停止」を求めます(裁判の執行停止申立書)。裁判所は、この求めに応じて、「抗告に対する裁判があるまで保釈許可の裁判の執行を停止する」という決定を下します。

 

執行が停止されると、保釈金を納付しても被告人が釈放されることはありません。検察官の準抗告や抗告が棄却されるのを待つことになります。

 

準抗告・抗告の流れ

典型的な(準)抗告の流れは次の通りです。

 

7月1日

弁護士が保釈請求

7月3日午後1時

弁護士が裁判官と面接

7月3日午後3時

保釈許可決定が出る

7月3日午後3時30分

裁判所に保釈金を納付

7月3日午後4時

検察官による(準)抗告+執行停止の申立て→保釈の執行が停止される

7月5日午後7時

(準)抗告が棄却される

7月5日午後8時

被告人が釈放される

 

準)抗告された場合、当日の夜に判断が出ることが多いですが、翌日以降に持ち越されることもあります。東京高裁、東京地裁を始めとする多くの裁判所では、その日に出された(準)抗告を判断する部が当番制で決められています。

 

そのため、日によっては、担当部に多数の(準)抗告事件が集中し、その日のうちに処理しきれないことがあります。そうはいっても、翌日の夜までには判断が下されるでしょう。

 

申立てが金曜日や連休前にされた場合は、裁判官も頑張ってその日のうちに決定を出すことが多いです。

 

検察官が準抗告・抗告を申し立てるケース

保釈が許可された場合、全てのケースで、検察官が準抗告や抗告を申し立てるわけではありません。

 

むしろ、多くの事件では検察官は不服を申し立てず、保釈金を納付した後、被告人は速やかに釈放されます。実際に不服申立てがあるケースは2割あるかないかといったところです。

 

ただ、次の3つの事情が全てあてはまる場合は、逃亡や証拠隠滅の可能性が高いとして、不服申立てされる可能性が高くなります。

 

①組織的な犯罪(振り込め詐欺など)または共犯事件(集団での強制性交など)であること

②検察側の証拠調べが終了していないこと

③捜査段階において否認・黙秘していたこと

 

【(準)抗告の豆知識】

実は検察官が(準)抗告をするかどうかは事前に決まっています。検察官は、裁判所に提出する意見書の右上に小さな紙をクリップでとめます。その紙には、「不相当(釈放可)」という文字と「不相当」という文字が記載されており、どちらかに〇をつけて押印します。

 

「不相当」に〇がされていれば、保釈請求が許可された場合は準抗告や抗告を申し立てます。この小さな紙は、意見書を裁判所に出す直前に、検察庁の令状部でとり外されてそこで保管されます。裁判所から保釈請求の第一報が入るのが検察庁の令状部だからです。

 

準抗告・抗告が認められる可能性

保釈許可決定に対して、検察官が(準)抗告をした場合、それが認められる可能性はそれほど高くはありません。

 

一度は保釈が許可されている以上、保釈を許可すべき一応の事情はあるといえるでしょうし、(準)抗告を担当する裁判所も時間がないなかで、踏み込んだ判断をするのは容易ではないからです。

 

保釈を許可した裁判官が、(準)抗告の担当裁判所に対して、検察官の申立てに理由がない旨の意見書を提出することもあります。正確な統計があるわけではありませんが、ウェルネスの弁護士の経験上、検察官の不服が認められる可能性は2割程度です。

 

準抗告・抗告に対する弁護活動

検察官が(準)抗告をした場合、弁護士が意見書を作成して裁判所に提出します。担当裁判官と面接し、検察官の申立てに理由がないことを説明することもあります。

 

担当裁判官は、他にも抗告事件を抱えていることが多く、面接に消極的な裁判官もいますが、そのような場合であっても、電話で話を聞いてもらえることが多いです。

 

準抗告・抗告のQ&A

Q:検察官が(準)抗告を申し立てた場合、結果が出るまで保釈金の納付はストップした方がよいのでしょうか?

 

A:結果が出る前に納付した方がよいです。

【理由】

(準)抗告についての判断が出るのは当日の夜になることが多いです。夜に判断が出た場合、裁判所の出納課が閉まっており、翌営業日まで保釈金を納付できません。

 

あらかじめ出納課に連絡を入れておけば特別に開けておいてもらえることもありますが、被告人の釈放時刻が深夜にずれこむ可能性が高くなります。

 

そのため、裁判所の判断が出る前の時点で保釈金を納付した方がよいです。あらかじめ保釈金を納付しておけば、(準)抗告が棄却されれば、何もしなくても1、2時間で釈放されます。

 

もし、(準)抗告が認められ、保釈許可決定が取り消されたとしても、納付した保釈金は全額返還されますので、デメリットはありません。

 

 

 

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