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否認事件の取調べ-1%でも認めたら命とり!
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
取調べで否認したときの常套句「1%もなかったの?」
刑事事件の取調べで、被疑者が故意を否認していると、取調官から「1%も~という気持ちはなかったのか?」と聞かれることがあります。
*~の部分は刑事事件の内容によって異なります。
児童買春(児童ポルノ法違反)を例にあげて説明します。
児童買春罪が成立するためには、18歳未満の児童にお金を渡して性行為をすることが必要ですが、それだけで児童買春罪になるわけではありません。「相手が18歳未満であることの認識」も必要になります。
もし、「18歳未満であることの認識」がなければ、故意がなく児童買春罪は成立しません。
児童買春事件の取調べで、被疑者が記憶のとおり「相手が18歳以上だと思っていました。」と言っても、取調官は、「そうだったんですね。わかりました。」等と簡単に納得してくれません。
逆に「そんなはずないだろ!」とか「見た目からしても18歳以上に見えないでしょ!」等とプレッシャーをかけてきます。
それでも被疑者が「18歳以上だと思っていました。」と言い続けると、最終的には、「18歳以上で100%間違いないと思っていたのか?」、「18歳未満かもしれないという気持ちが1%もなかったのか?」と問い詰めてきます。
否認事件の取調べで1%を認めた場合
取調べで「18歳未満かもしれないという気持ちが1%はあっただろ?」と聞かれれば、ほとんどの方は、「そうかもしれません。」と答えてしまいます。
本人は、「1パーセントならまあいいか。」と思っているかもしれませんが、実はこのように答えてしまった時点で取調官の思う壺です。
なぜそう言えるのかを理解するためには、未必の故意についておさえておく必要があります。
未必の故意とは?
自動車事故などの過失犯を除き、犯罪が成立するためには、行為をするだけでなく、行為に対応した故意があることが必要です。例えば、殺人罪が成立するためには、「人を殺した」という行為だけではなく、「殺意」が必要となります。
故意の程度としては積極的な意図までは必要とされていません。「~かもしれないがそれでいい。」というレベルで十分だとされています。これが未必の故意です。
先ほどの殺人罪の例でいうと、「自分の行為によって相手が死ぬかもしれないが、それならそれでいい。」という認識があれば、未必の故意が認められます。児童買春における未必の故意は、「18歳未満かもしれないが、たとえ18歳未満であっても性行為をしてしまおう。」という認識になります。
1%の故意を認めれば自白調書のできあがり
取調べで「1%くらいは18歳未満かもしれないと思っていました。」と答えてしまうと、未必の故意があるという前提で調書をとられてしまいます。
例えば次のような供述調書です。
「ホテルに入った時点で、私は相手の女性が18歳未満かもしれないという認識はありました。ただ、かわいい子で私のタイプだったし興奮していたので、その場の流れで、18歳未満でもまあいいかと思って性行為をしました。」
供述調書には、当初、被疑者が否認していたことや、「1パーセントくらいは18歳未満かもしれないという気持ちはなかったか?」という取調官の誘導尋問は全く記載されません。
端的に未必の故意を認める文章を取調官がパソコンで打ち込んでいき、「1%くらいは18歳未満かもしれないと思っていたわけだからこれでいいよね?」等と被疑者に言って、署名・指印させます。
起訴されると、裁判官は、この供述調書を見て未必の故意を認定します。裁判で、未必の故意を否認しても、「じゃあなんで調書で認めているのか?」と思われ、無罪判決の獲得は難しくなります。
否認事件の取調べ-1%を甘くみない
このように「1%くらいは18歳未満かもしれないと思っていました。」と答えてしまうと、未必の故意を認める調書が作成され、不起訴や無罪判決の獲得が難しくなります。
0%でなければ1%でも80%でも本質的に違いはありません。本当に18歳未満であることの認識が全くなかったのであれば、取調官の質問に対して、黙秘するか、次のように回答すべきです。
取調官:「1パーセントも18歳未満かもしれないという気持ちはなかったのか?」
被疑者:「はい。1パーセントも18歳未満とは思っていませんでした。」
「1%くらいなら大丈夫」とは決して考えないようにしてください。