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犯人蔵匿罪と犯人隠避罪について弁護士が解説

犯人蔵匿・隠避罪

 

 

犯人蔵匿罪と隠避罪は、刑事事件に関する捜査や裁判、刑罰の執行といった国の刑事司法作用を保護しています。このページでは、犯人蔵匿罪と隠避罪について、弁護士 楠 洋一郎が解説しています。

 

 

 

犯人蔵匿罪と犯人隠避罪の「犯人」とは

蔵匿や隠避の対象となる「犯人」とは、「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者または拘禁中に逃走した者」です。

 

 

【罰金以上の刑に当たる罪とは】

法定刑の中に罰金以上の刑が含まれる犯罪です。罰金のほか、死刑・懲役・禁錮が「罰金以上の刑」にあたります。

 

 

罰金よりも軽い刑罰である拘留や科料しか規定されていない犯罪(例:軽犯罪法違反)については、犯人蔵匿罪や隠避罪は成立しません。

 

 

【拘禁中とは】

拘禁中とは次の状態をいいます。

 

・拘置所で勾留されている

・留置場で勾留されている

・刑務所で受刑中である

・令状逮捕された

・現行犯逮捕された

・緊急逮捕された

・勾留状の執行を受け刑事施設に移動中

 

 

犯人蔵匿罪の「蔵匿」とは

犯人蔵匿罪の「蔵匿」とは、警察等の捜査機関に発見されたり逮捕されないよう、犯人に場所を提供してかくまうことです。

 

 

実際に刑事司法を妨害したことまでは必要とされません。犯人に場所を提供してかくまえば、警察にすぐに居場所をつきとめられても、犯人蔵匿罪が成立します。

 

 

犯人隠避罪の「隠避」とは

犯人隠避罪の「隠避」とは、蔵匿以外の方法により、捜査機関による発見・逮捕を妨げる一切の行為をいいます。

 

 

実際に犯人の発見や逮捕を妨げる必要はなく、その可能性があれば犯人隠避罪が成立します。

 

 

犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の具体例

【犯人蔵匿罪】

犯人を自分の家に滞在させる

 

【犯人隠避罪】

犯人に逃走資金を渡す

犯人と口裏合わせをした上で、参考人として虚偽の供述をする

犯人の身代わりとして自首する

偽名を名乗って犯人と一緒にホテルに泊まる

 

 

犯人蔵匿罪と犯人隠避罪の罰則

犯人蔵匿・隠避罪の罰則は3年以下の懲役または30万円以下の罰金です。

 

 

犯人蔵匿罪と犯人隠避罪の時効

犯人蔵匿・隠避罪の時効は3年です。

 

 

真犯人でなくても犯人蔵匿・隠避罪は成立する!

犯人蔵匿罪や隠避罪の客体は真犯人である必要はありません。被疑者として捜査の対象になっていれば、たとえ無実の者だと信じて蔵匿や隠避をしても犯罪は成立します。

 

 

後に被疑者が嫌疑不十分で不起訴になったり、裁判で無罪になったりしても、いったん成立した犯人蔵匿罪や隠避罪がなくなるわけではありません。

 

 

刑事事件の捜査や裁判は流動的なものです。そのため、手続きが進んでから「実は犯人ではなかった」と判明することもあります。

 

 

犯人蔵匿・隠匿罪は進行中の刑事手続を保護しているので、被疑者として扱われている者を蔵匿・隠避すれば、真犯人であるか否かにかかわらず犯罪が成立します。

 

 

自分に対する犯人蔵匿・隠避罪は成立しない

犯人が自分を蔵匿したり隠避しても、犯人蔵匿・隠避罪は成立しません。犯人が逮捕されることを避けようとして、自らを蔵匿したり隠避するのは、人間の自然な情としてやむを得ないと考えられるからです。

 

 

難しい言葉になりますが、法律の世界では「適法行為をする期待可能性がない」といいます。

 

 

もっとも、これには例外があります。それは、犯人が第三者を唆して自分を蔵匿・隠避させた場合です。

 

 

第三者を巻き込んでまで自分を蔵匿・隠避させるのは、もはや「心情として仕方がない」、「期待可能性がない」とはいえないからです。

 

 

判例も、第三者を教唆してまで自分を蔵匿・隠避させることは、防御権を乱用するものとして、犯人蔵匿・隠避罪の成立を認めています。

 

 

犯人が逮捕・勾留されていても犯人隠避罪は成立する

犯人が逮捕・勾留されている状況で、犯人の身代わりとして自首した場合、犯人隠避罪が成立するでしょうか?

 

 

「隠避」とは蔵匿以外の方法で犯人の発見・逮捕を妨げる一切の行為をいいます。とすれば、犯人が既に逮捕されている以上、身代わりとして自首しても隠避にあたらないのではないかとも考えられます。

 

 

しかし、犯人隠避罪は、刑事事件に関する捜査・裁判・刑罰の執行など広く刑事司法作用を妨害するおそれのある行為を処罰しています。

 

 

身代わりとして自首することによって、犯人の特定に関する捜査が妨害され、逮捕・勾留されている犯人が釈放されるおそれもあるため、現に逮捕・勾留されている犯人についても、犯人隠避罪が成立し得るとされています(最高裁平成元年5月1日決定)。