• トップ
  • > 放火罪について弁護士が解説

放火罪について弁護士が解説

放火

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しています。

 

 

 

放火罪の3つのタイプ

放火罪には大きく分けて次の3つの種類があります。

 

 

① 現住建造物等放火罪

② 非現住建造物等放火罪

③ 建造物等以外放火罪

 

 

以下それぞれについて解説していきます。

 

現住建造物等放火罪とは

1.現住建造物等放火罪の要件

現住建造物等放火罪の要件は、放火して、現に人が住居に使用し、または、現に人がいる次の建造物等を焼損することです。

 

① 建造物

② 汽車・電車

③ 艦船

④ 鉱坑

 

 

2.現住建造物等放火罪の刑罰

現住建造物等放火罪の刑罰は、次の3つのいずれかです。

 

① 死刑

② 無期懲役

③ 懲役5年~20年

 

3.現住建造物等放火罪の未遂

現住建造物等放火罪は未遂であっても処罰されます。未遂の場合は、裁判官の裁量により刑が減軽されることがあります

 

 

4.予備罪

現住建造物等放火罪を犯す目的で準備をした場合は、予備罪が成立します。予備罪の刑罰は2年以下の懲役です。ただし、情状によって刑が免除されることもあります。

 

 

心の中で「放火しよう」と思っただけで予備罪になるわけではなく、具体的な行動をしていることが要件となります。放火目的でガソリンを購入したり、発火装置を作成したり、これらを現場近くまで運搬すれば予備といえます。

 

 

非現住建造物等放火罪とは

1.非現住建造物等放火罪の要件

非現住建造物等放火罪の要件は、放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない次の建造物等を焼損することです。

 

①建造物

②艦船

③鉱坑

 

 

現住建造物等放火罪と異なり、汽車や電車は対象とされていません。

 

 

2.非現住建造物等放火罪の刑罰

非現住建造物等放火罪の刑罰は懲役2年~20年です。

 

3.非現住建造物等放火罪の未遂

非現住建造物等放火罪は未遂であっても処罰されます。未遂の場合は、裁判官の裁量により刑が減軽されることがあります。

 

 

4.非現住建造物等放火罪の予備

非現住建造物等放火罪を犯す目的で準備をした場合は、予備罪が成立します。予備罪の刑罰は2年以下の懲役です。ただし、情状により刑が免除されることがあります。

 

 

5.自己所有物を燃やしたとき

自己所有の非現住建造物等を燃やしたときの刑罰は懲役6か月~7年です。ただし、公共の危険が発生しなければ処罰されません。未遂や予備も処罰されません。

 

 

公共の危険とは、不特定または多数の人の生命・身体・財産に脅威を及ぼす状態のことです。山里や海辺にポツンと立っている小屋でもない限り、延焼のおそれがごくわずかでもあれば、公共の危険は認められます。

 

 

6.自己所有物の例外

自己所有物であっても、次のいずれかに該当する場合は、他人の所有物として扱われます。

 

①差押えを受けている

②物件を負担している

③賃貸している

④保険を付している

 

7.延焼罪

自己所有の非現住建造物等を燃やして、現住建造物等または他人所有の非現住建造物等に延焼させた場合は延焼罪が成立します。延焼罪の刑罰は、懲役3か月~10年です。

 

 

建造物等以外放火罪とは

1.建造物等以外放火罪の要件

建造物等以外放火罪の要件は、放火して、現住建造物等放火罪と非現住建造物等放火罪で処罰されない物を焼損し、公共の危険を発生させることです。自動車、バス、無人の電車などが対象となります。

 

 

2.建造物等以外放火罪の刑罰

建造物等以外放火罪の刑罰は懲役1年~10年です。未遂や予備は処罰されません。

 

 

3.自己所有物を燃やしたとき

建造物等以外の自己所有物を燃やしたときは、1年以下の懲役または10万円以下の罰金となります。

 

 

4.自己所有物の例外

自己所有物であっても、次のいずれかに該当する場合は、他人の所有物として扱われます。

 

①差押えを受けている

②物件を負担している

③賃貸している

④保険を付している

 

 

5.延焼罪

建造物等以外の自己所有物を燃やして、建造物等以外の他人所有物に延焼させた場合は、延焼罪が成立します。延焼罪の刑罰は3年以下の懲役です。

 

 

放火罪の「焼損」とは?

放火罪の要件として、目的物を「焼損」することが必要となります。

 

 

焼損とは、「火が目的物に燃え移り独立して燃焼を継続する状態になったこと」をいいます。「独立」とは、放置しても火が消えない状態のことです。

 

 

このような状態になれば、放火罪は既遂になります。目的物が全焼した時点で既遂になるわけではありません。柱や梁など主要な部分が燃えた時点で既遂になるわけでもありません。

 

 

天井板や床板の一部だけでも、独立して燃焼を継続する状態になれば、その後に消火されても、放火罪は既遂になります。

 

 

畳やふすま、障子など建物から容易に取り外せる物は「建造物」とは見なされないので、これらが独立して燃えても、床や天井に延焼する前に消火されれば、現住建造物放火罪または非現住建造物放火罪の未遂にとどまります。

 

 

どの時点で放火したことになる?

放火罪の実行に着手したと見なされれば、目的物が独立して燃焼する状態になる前であっても未遂罪が成立します。

 

 

目的物に点火すれば放火に着手したと見なされます。それ以前であっても、目的物の近くでライターを擦って火花を飛ばしたり、マッチを擦って種火をつけた時点で実行の着手と評価されます。

 

 

放火目的で建物内にガソリンをまけば、それだけでいつ発火してもおかしくない状態といえるため、実際に点火する前であっても、放火の着手があったと評価されます。

 

 

そのため、建物内の人に取り押さえられ、点火しなかったとしても現住建造物放火の未遂罪が成立します。

 

 

【関連ページ】

失火罪・重過失失火罪の構成要件は?刑事・民事の責任についても解説