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スカート内をのぞいたら逮捕される!?成立する犯罪や逮捕されるケース
2022年9月、福井市内のパチンコ店で従業員のスカートの中をのぞいたとして、50代の男性が現行犯逮捕されました。
このニュースを見て、「スカートの中をのぞくと犯罪になるのか?」、「スカート内をのぞいただけで逮捕されるのか?」といった疑問を抱かれた方もいるのではないでしょうか?
このページではスカート内をのぞいた場合に成立する犯罪や逮捕されるケース等について弁護士 楠 洋一郎が解説しています。
スカート内をのぞくとどんな犯罪になる?
1.迷惑防止条例と「卑わいな言動」
スカートの中をのぞくと都道府県の迷惑防止条例違反になります。
迷惑防止条例は様々な行為を禁止していますが、性犯罪との関連では痴漢と盗撮を規制しています。ただ、痴漢や盗撮だけではなく、「卑わいな言動」についても規制しています。
例えば福井県の迷惑行為防止条例は次のように規定しています。
【福井県迷惑行為の防止に関する条例】 第三条 何人も、公共の場所(第四項に規定する場所を除く。)にいる人または公共の乗物に乗っている人に対し、人を著しく羞恥させ、または人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。 一 衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上からまたは直接人の身体に触れること。 二 人の下着または身体(これらのうち衣服等で覆われている部分に限る。以下「下着等」という。)を見ること。 三 下着等を撮影する目的で、写真機、ビデオカメラ、デジタルカメラ付き携帯電話その他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を下着等を写すことができる位置に置き、または人に向けること。 四 写真機等を使用して、下着等を撮影すること。 五 前各号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。 |
2.「卑わいな言動」とは
「卑わいな言動」という言葉は、痴漢や盗撮に比べて幅が広く、一見して何を意味しているのか分かりづらいです。
最高裁判所によれば、「卑わいな言動」とは「社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」のことです(最高裁平成20年11月10日決定)。
これでもあいまいな印象を受けますが、最高裁判所の決定は、同じ条文に定められた「公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し,正当な理由がないのに,著しくしゅう恥させ,又は不安を覚えさせるような方法」という文言と合わせると、日常用語として合理的に解釈することができ不明確ではないとしています。
スカート内をのぞく行為も、被害者を著しくしゅう恥させ、不安を覚えさせる行為であることから、「卑わいな言動」にあたり、迷惑防止条例違反になります。
3.迷惑防止条例違反にならないケース
迷惑防止条例違反になるのは、故意に(=わざと)スカート内をのぞいた場合です。風でスカートが巻き上がるなどして偶然スカートの中が見えた場合は、故意ではありませんので、迷惑防止条例違反にはなりません。
また、迷惑防止条例は誰でも立ち入ることができる公共の場での卑わいな言動を禁止しているため、学校内や家の中で女性のスカート内をのぞいても迷惑防止条例違反にはなりません。
スカート内をのぞいて刑事事件になるケース
1.通報されなければ事件化しない
故意にスカートの中をのぞくと、「卑わいな言動」にあたり迷惑防止条例違反になります。もっとも、スカート内をのぞいて刑事事件になるケースは決して多くはありません。
迷惑防止条例違反(卑わいな言動)は被害者がいる犯罪ですので、被害者が警察に通報して被害届を出さなければ事件化することはないでしょう。
被害者としても痴漢や盗撮をされたのであれば、犯罪被害にあったことを認識し、警察に通報するのが自然な流れです。
これに対して、スカート内をのぞかれただけでは被害に気づきにくいですし、仮に気づいたとしても警察に通報するという発想になりにくいと思われます。
そのため、実際にスカートの中をのぞいて事件化するケースはまれです。
2.警察に通報され得るケース
スカート内をのぞかれた被害者が警察に通報することは少ないと思われますが、以下のケースでは警察に通報されてもおかしくないでしょう。
・同じ店で何度もスカートの中をのぞいて要注意人物としてマークされていた場合
・スカートを手でめくって中をのぞいた場合
・階段でしゃがみこんでスカートの中をのぞくなど態様が露骨な場合
このような場合はスカート内をのぞかれた被害者や目撃者が警察に通報する可能性も十分にあります。
3.刑事事件化するケース
被害者からの通報があっても犯罪を裏づける証拠がなければ、警察は被害届を受理したがりません。
スカート内をのぞいたケースについても、裏づけ証拠がなければ、被疑者が「バランスを崩して倒れそうになっただけ。」、「靴ひもを直していただけ。」等と主張すれば、それを排斥することが難しくなります。
身体に接触する痴漢や証拠が残りやすい盗撮と比べて、スカート内をのぞく行為は、「のぞいた」、「のぞいていない」という水掛け論になりやすく、被害者・目撃者の供述証拠だけでは犯罪の立証が困難です。
もっとも、以下のような裏づけ証拠がある場合は、警察としても被害届を受理して刑事事件として取り扱う可能性が高いです。
・スカート内をのぞいている状況を撮影した防犯カメラ
・スカート内をのぞいている状況を撮影した目撃者のスマートフォン
防犯カメラについてはスカート内をのぞいている状況が撮影されていなかったとしても、被疑者が現場近くで長時間にわたって待機している状況や事件後に逃げている状況が撮影されていれば裏づけ証拠になります。
被害者の通報を受けて警戒している警察官に、現行犯で検挙されることもあります。
スカート内をのぞいて逮捕される場合
スカートの中をのぞくと迷惑防止条例違反が成立します。同じく迷惑防止条例違反になる痴漢や盗撮については、逮捕されるケースもあれば逮捕されないケースもあります。
逮捕の要件として、犯罪の嫌疑があることに加え、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがありますが(刑事訴訟法199条1項)、明確な要件ではないので、現場の警察官の判断によって逮捕されることもあれば、逮捕されずに在宅事件として扱われることもあります。
スカート内をのぞく行為は、身体に直接触れる痴漢や盗撮画像というデータが残る盗撮に比べると悪質性は低いので、痴漢や盗撮に比べると逮捕される確率は下がるでしょう。
もっとも、以下のようなケースでは逮捕されてもおかしくありません。
・防犯カメラ等の裏づけ証拠があるのに「のぞいていない」と本人が否認している場合
・同じ店で何度も繰り返しスカートをのぞいていた場合
・執行猶予中の再犯
・住居不定など身元が不安定
スカート内をのぞいて逮捕された後の流れ
スカートの中をのぞいて逮捕されると、翌日か翌々日に検察庁に連行され検察官の取調べを受けます。
検察官が「逃げるおそれがある」とか「証拠を隠滅するおそれがある」と判断した場合は、裁判官に勾留請求します。勾留請求の当日または翌日に、被疑者は裁判所に連行され裁判官の勾留質問を受けます。
裁判官は検察官から渡された捜査資料や勾留質問のやりとりをふまえ被疑者を勾留するか否かを決定します。
勾留されると原則10日・最長20日にわたって身柄拘束されます。検察官は勾留期間内に起訴するか釈放するかを決めなければなりません。
スカート内をのぞく行為は、痴漢や盗撮に比べると悪質性は低いと考えられるため、早期に弁護活動をスタートすれば勾留を阻止できる可能性が高いです。
スカート内をのぞいて逮捕された場合と報道
スカートの中をのぞいて逮捕された場合、痴漢や盗撮に比べてかなり珍しい事件であるため、実名報道される可能性がそれなりにあるといえます。
逮捕直後に弁護士を選任した場合は、弁護士が報道回避の上申書を警察に提出することにより、報道回避を目指します。
⇒逮捕後すぐに弁護士を呼ぶには?弁護士の呼び方やタイミングを解説
スカート内をのぞいた場合と不起訴
スカートの中をのぞいて迷惑防止条例違反として立件された場合、被害者と示談をすれば不起訴になる可能性が高くなります。
不起訴とは被疑者を刑事裁判にかけないということです。裁判にかけられない以上、処罰されることはなく、前科もつきません。
被害者との間で示談が成立しなければ、略式裁判で30万円程度の罰金になる可能性が高いです。
⇒略式裁判とは?罰金の金額や払えない場合について弁護士が解説
捜査機関は性犯罪の加害者に被害者の氏名や電話番号といった個人情報を教えてくれません。示談で不起訴を目指すのであればお早めに弁護士をつけた方がよいでしょう。