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自転車事故と刑事事件について弁護士が解説

自転車事故と刑事事件について弁護士が解説

 

このページはウェルネス法律事務所の弁護士 楠 洋一郎が作成しています。

 

 

 

自転車で人身事故を起こしたら何罪になる?

自転車で人身事故を起こしたら何罪になる?

 

1.過失致傷罪または重過失致傷罪になる

自転車を運転中に過失で事故を起こし相手にケガをさせた場合、過失致傷罪重過失致傷罪が成立します。自転車は、免許制度がなく誰でも乗れるため、業務上過失致傷罪は成立しません。

 

 

過失致傷罪は親告罪といって、被害者の告訴がなければ起訴することができず、処罰もされません。これに対して、重過失致傷罪は親告罪ではありませんので、告訴がなくても起訴することができます。

 

 

犯罪

刑罰

過失致傷罪

30万円以下の罰金または科料

重過失致傷罪

5年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金

*罰金とは1万円以上の財産刑、科料とは1万円未満の財産刑です。

 

 

2.重過失致傷罪になり得るケース

過失致傷罪か重過失致傷罪のどちらになるかは、運転者の過失の程度によって異なります。次のようなケースでは過失が重大であるとして重過失致死傷罪が成立する可能性が高いです。

 

 

☑  スマートフォンで話しながらの運転

☑ イヤホンをつけた状態での運転

☑ 傘をさしながらの運転

☑ 車道の右側を走っていた場合

☑ 徐行せずに歩道を走っていた場合

☑ 夜間に無灯火で走っていた場合

 

自転車事故が刑事事件になるケース

自転車事故が刑事事件になるケース

 

自転車は、自動車ほどの危険性はないため、歩行者と少し接触しただけで警察沙汰になることは少ないです。一方で、自転車は、歩行者すれすれに走ることも多く、自動車と異なり音がほとんど生じないことから、歩行者とまともに接触し、骨折などの大きなケガをさせてしまうことがあります。

 

 

特に、反応が遅れがちな高齢者や幼児に衝突した場合、重傷事故になることが少なくありません。そのようなケースでは、被害者や家族が警察に通報し刑事事件になる可能性が高いです。

 

 

自転車事故とひき逃げ

自転車事故とひき逃げ

 

☑ 車より小さくて目立たないので逃げても足がつかないだろう

☑ 自転車なので現場から離れれば大事にはならないだろう

☑ 被害者は歩行者なので追いかけられても逃げきれる

 

 

このように考え、自転車で人身事故を起こした後に逃げてしまう人もいます。

 

 

1.自転車でひき逃げした場合の犯罪と刑罰

自転車でひき逃げした場合、車と同じように、道路交通法の救護義務違反になります。刑罰は1年以下の懲役または10万円以下の罰金です。自転車は道路交通法では「軽車両」として扱われ、自動車よりも刑罰は軽くなります。

 

 

自転車のひき逃げ

1年以下の懲役または10万円以下の罰金

自動車のひき逃げ

10年以下の懲役または100万円以下の罰金

 

人身事故については(重)過失致傷罪が成立しますので、ひき逃げをした場合は、(重)過失致死傷罪と救護義務違反の2つの犯罪が成立します。

 

 

2.自転車でひき逃げした場合の処断刑

(重)過失致傷罪と道路交通法違反は併合罪になります。実際の刑罰は次の処断刑の範囲で決められます。

 

 

【過失致傷罪と道路交通法違反が成立するケース】

①懲役刑と罰金刑が両方科される場合

30万円以下の罰金(過失致傷罪)+1年以下の懲役(道路交通法違反)

 

 

②罰金刑のみ科される場合

30万円以下の罰金(過失致傷罪)+10万円以下の罰金(道路交通法違反)

⇒40万円以下の罰金

 

 

【重過失致傷罪と道路交通法違反が成立するケース】

③懲役・禁錮刑と罰金刑が両方科される場合

5年以下の懲役・禁錮(重過失致傷罪)+10万円以下の罰金(道路交通法違反)

 

 

④懲役刑のみが科される場合

5年以下の懲役(重過失致傷罪)+1年以下の懲役(道路交通法違反)

⇒6年以下の懲役

 

 

⑤罰金刑のみ科される場合

100万円以下の罰金(重過失致傷罪)+10万円以下の罰金(道路交通法違反)

⇒110万円以下の罰金

 

 

【併合罪に関する刑法の規定】

第四十五条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。

第四十七条 併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。

第四十八条 罰金と他の刑とは、併科する。ただし、第四十六条第一項の場合は、この限りでない。

2 併合罪のうちの二個以上の罪について罰金に処するときは、それぞれの罪について定めた罰金の多額の合計以下で処断する。

 

 

自転車事故と逮捕

自転車事故と逮捕

 

1.逮捕されやすいケース

自転車で人身事故を起こした場合、被害者が死亡したとか、ひん死の重傷であれば、逮捕される可能性が高くなります。そこまでいかない限りは逮捕されることはないでしょう。ただし、自転車でひき逃げをした場合は逮捕される可能性が十分にあります。

 

 

2.自首により逮捕回避の可能性が高まる

ひき逃げのケースでも、被害者が重傷でなければ、自首をすることにより逮捕を回避できる余地は十分にあります。自動車の場合は、目撃者が加害車両のナンバーを覚えていれば、県警本部に照会することにより、早ければ当日中に被疑者を特定できます。被疑者が特定された後は、警察署に出頭しても自首にはなりません。

 

 

一方、自転車にはナンバープレートがないため、事故当日に被疑者が特定されることは少ないです。そのため、自動車のひき逃げに比べると、早期に対応することにより、逮捕を回避できる可能性は高くなります。まずは刑事事件の経験豊富な弁護士にご相談ください。

自首に弁護士が同行するメリットや同行の費用について

 

自転車事故と示談

自転車事故と示談

 

1.保険がなければ自腹で対応する必要

最近は、自転車事故についても適用される保険がありますが、まだまだ一般的とはいえません。自転車には自賠責保険の制度もありませんので、任意保険が使えない場合は、全額自腹で支払わなければいけません。

 

 

2.示談金の内訳

示談金は治療費や休業損害、後遺症が発生した場合の逸失利益、慰謝料などに分類されます。被害者が重いけがを負っている場合や後遺症が発生した場合など、示談金が高額になるケースでは分割での支払いを交渉することもあります。

 

 

3.示談をしたらどうなる?

過失致傷罪で示談がまとまり告訴を取り消してもらえれば、確実に不起訴になります。重過失致傷罪でも示談がまとまれば不起訴になる可能性が高くなります。不起訴であれば、刑事裁判にならないので前科はつきません。

 

 

自転車事故で示談しなければどうなる?

自転車事故で示談しなければどうなる

 

1.軽傷のケース

示談が成立しない場合、被害者が軽傷であれば、加害者に重過失があっても、略式起訴され罰金刑になる可能性が高いです。罰金は刑事罰ですので前科がつくことになります。

前科のデメリットについて弁護士が解説

 

 

2.重傷のケース

被害者が全治1か月以上の重傷で、加害者に重過失があれば、公判請求され、禁錮刑か懲役刑になる可能性が高いです。公判請求されても、初犯であれば、ほとんどのケースで執行猶予がつきます。

 

 

3.民事訴訟になることも

示談が成立していない場合、民事で損害賠償を請求されることがあります。軽傷の場合は、賠償金よりも弁護士費用の方が高くなるため、請求される可能性は低いですが、重傷事案の場合は、賠償金が弁護士費用を大きく上回るため、請求される可能性が高くなります。

 

 

示談が成立していれば、民事事件も同時に解決しますので、示談当時に予測できなかった後遺症が発生した場合をのぞいて、追加の損害賠償を請求されることはありません。示談をすれば、刑事も民事も一挙に解決するので、その意味でも示談した方がよいです。

 

報道された自転車事故の刑事事件

発生時期

概要

2017年12月

川崎市でスマートフォンを操作しながら電動アシスト自転車を運転し、70代の女性に衝突した事件。被害者は脳挫傷で死亡。加害者は重過失致死罪で在宅起訴。

2019年4月

札幌市で、自転車に乗った男性がコンビニから出てきた7歳の男児に衝突した後、走り去った事件。男児は左足骨折の重傷。

2019年7月

福岡市で、自転車に乗った高校生が、曲がり角を原則せずに左折し、出会い頭に小学1年の男児をはね、そのまま逃げた事件。男児は左足骨折で全治2か月の重傷。

2019年8月

大阪府で自転車に乗った男性がミニバイクに接触した後、走り去ったとして逮捕された事件。ミニバイクの女性は首の骨を折る重傷。

2019年8月

広島県の市道で、新聞配達の女性が自転車から下りて配達業務をしていたところ、別の自転車にはねられ、脚を骨折。はねた自転車は逃走

2019年9月

福島市の歩道で、自転車の男が男子中学生の乗った自転車に衝突。男は「ごめんね」と声をかけ現場から逃げた事件。被害者は左腕を骨折する重傷。

 

自転車事故の刑事事件-ウェルネスの解決事例

事案の概要

ご依頼者が歩道を自転車で走行中、別の自転車を追い抜こうとしたところ、自車の後輪が相手の前輪に接触し、被害者が転倒してしまいました。被害者は、高齢の方で、腰椎を骨折し入院を余儀なくされました。退院後も手押し車を使わないと歩けなくなってしまいました。被害者の家族が告訴し、重過失致傷罪で立件されました。

 

 

弁護士の活動

過失について微妙なケースだったことから、示談せずに争うことも検討しましたが、ご依頼者はなるべく前科がつくリスクを下げたいということでしたので、弁護士が被害者のご家族との間で示談交渉を行い、示談を成立させました。その結果、不起訴処分となりました。