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侮辱罪とは?侮辱罪厳罰化による逮捕・報道・起訴への影響も解説
テラスハウスに出演していた女子プロレスラーの木村花さんがネット中傷を苦に自死しました。このことがきっかけでSNSでの中傷被害がクローズアップされるようになりました。
テラスハウス事件で木村花さんをネット中傷した人は300名に上りますが、実際に侮辱罪で起訴されたのはわずか2名、刑罰も科料9000円と非常に軽いものでした。
そのため、「侮辱罪の刑罰が軽すぎる。」と問題になり、2022年6月に刑法が改正され侮辱罪が厳罰化されました。
このページでは刑事事件に詳しい弁護士が、侮辱罪の要件や刑罰、厳罰化の影響、慰謝料の相場などについて解説しました。ぜひ参考にしてみてください。
侮辱罪の要件
侮辱罪の要件は公然と人を侮辱することです。「公然」とは、不特定多数の人が認識できる状態のことです。実際に認識している必要まではありません。
ネット上の誹謗中傷メッセージは誰でも見ることができるため、公然性があるといえます。LINEやメール、電話等の1対1の通信で侮辱した場合は、特定の人しか見れないため公然性がないことになります。
侮辱罪と名誉棄損罪の違いは?
侮辱罪と似た犯罪として名誉棄損罪があります。侮辱罪と名誉棄損罪の区別は、事実を指摘したか否かです。
事実を指摘して他人の名誉を傷つければ名誉棄損罪になりますが、事実を指摘しない単なる誹謗中傷は侮辱罪になります。
なお、虚偽の事実であってもこれを指摘して名誉を傷つければ名誉棄損罪になります。具体的な事実であればよく、真実かどうかは名誉棄損罪の成否に影響しないということです。
【侮辱の例】
「きもい」、「バカ」、「ブス」
*事実の指摘がない
【名誉毀損の例】
「性犯罪の前科がある」、「売春をしている」、「同僚の〇〇さんと不倫している」
*事実の指摘がある
【関連ページ】名誉毀損とは?侮辱罪との違いや慰謝料の相場【事例あり】
侮辱罪の刑罰
1.厳罰化「後」の刑罰
厳罰化後の侮辱罪の刑罰は次のいずれかです。
①1年以下の懲役
②1年以下の禁錮
③30万円以下の罰金
④拘留
⑤科料
2.厳罰化「前」の刑罰
厳罰化される前は侮辱罪の刑罰は拘留と科料のみでした。「拘留」とは刑事施設に強制的に収容することです。期間は1日以上1か月未満とかなり短いです。「科料」とは1000円以上1万円未満の財産刑です。
刑法では刑罰の重さについて、重いものから順に、死刑→懲役→禁錮→罰金→拘留→科料と定めています。厳罰化前は侮辱罪の刑罰として、最も軽い科料と2番目に軽い拘留しかありませんでした。
3.侮辱罪厳罰化の時期
2022年6月に刑法が改正され、侮辱罪の罰則として、新たに1年以下の懲役・禁錮と30万円以下の罰金が設けられました。
改正刑法は2022年の夏に施行される予定です。すなわち2022年の夏以降に発生した侮辱事件については厳罰化された罰則が適用されます。
侮辱罪の時効
これまで侮辱罪の時効は1年でしたが、厳罰化に伴い時効は3年になります。
侮辱罪は親告罪といって告訴がなければ起訴できない犯罪です。親告罪の告訴は犯人を知った時から6か月以内にしなければなりません。
ネット中傷のケースでは、発信者情報開示請求を行い発信者を特定した日が「犯人を知った時」になります。
侮辱罪の厳罰化による3つの影響
侮辱罪が厳罰化されることによる影響は以下の4つです。
1.侮辱罪で逮捕されやすくなる
厳罰化される前は侮辱罪の刑罰は拘留と科料のみでした。拘留や科料にあたる犯罪については、以下の2つのどちらかに当たるケースを除いて逮捕できないと定められています。
①被疑者が定まった住居を有しない場合
②正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合
テラスハウス事件でも、木村花さんに中傷メッセージを送った人は多数いますが、侮辱罪で逮捕された人は一人もいませんでした。
侮辱罪が厳罰化され、懲役刑や禁錮刑が追加されると、逮捕にあたってこのような制限がなくなるため、逮捕されやすくなるといえるでしょう。
2.侮辱罪で実名報道されやすくなる
一般の方が刑事事件の被疑者として実名報道されるのは逮捕された場合です。有名人でない限り、逮捕されなければ実名報道されることはないでしょう。
侮辱罪の厳罰化で逮捕されるケースが増えると考えられるため、今後は一般市民であっても侮辱罪で実名報道されるケースが出てくると思われます。
厳罰化前は侮辱罪で起訴されても、略式裁判で審理され法廷が開かれないことがほとんどでした。
⇒略式裁判とは?正式裁判との違いや拒否すべきかを弁護士が解説
厳罰化後は、検察官が懲役刑や禁錮刑がふさわしいと考えた場合、正式裁判を請求します。正式裁判は誰でも傍聴できる公開法廷で審理されるため、より報道されやすくなるといえるでしょう。
3.侮辱罪で起訴されやすくなる
厳罰化される前、侮辱罪の時効は1年でした。
ネット掲示板やSNSに誹謗中傷メッセージを投稿した場合、メッセージが削除されない限り侮辱が続いているため、時効は進みません。
メッセージをネットから削除すれば時効が進みますが、ネット上の侮辱については発信者情報開示の手続にかなりの時間がかかってしまうため、これまでは捜査中に1年の時効が経過し起訴できないことがありました。
テラスハウス事件でも約300人がネット上で木村さんを中傷しましたが、実際に侮辱罪で起訴されたのは2人だけでした。
侮辱罪の厳罰化に伴い時効が3年に延長されたことから、時間切れで不起訴になるケースは少なくなり、起訴される件数が増えると思われます。
侮辱罪と示談
1.侮辱罪における示談の位置づけ
侮辱罪は「親告罪」といって、告訴がなければ起訴できない犯罪です。この点は厳罰化の前後で違いはありません。そのため、示談をして告訴を取り消してもらえれば、確実に不起訴になります。
2.侮辱罪の示談は弁護士を通じて
侮辱罪の被害者は心に大きな傷を受け、加害者と直接かかわりたくないと思っています。警察もそのような被害者の気持ちを尊重し、加害者に被害者の個人情報を教えてくれません。
そのため、侮辱罪の被害者と示談をするためには、弁護士を入れて電話番号などの個人情報を教えてもらう必要があります。
2.侮辱罪で示談できない場合
被害者が有名人の場合は示談交渉に入るのが難しいことが多いです。
その場合でも、反省文を作成したり、贖罪寄付をすることにより、不起訴を獲得できることがあります。まずは刑事事件に詳しい弁護士にご相談ください。
侮辱罪の慰謝料の相場
ネット中傷のケースでは、加害者も被害者も一般人の場合は、慰謝料の相場は10万円から30万円です。
ネット中傷によって被害者の仕事や生活に現実の影響が生じている場合や、精神的なダメージが大きく心療内科に通院している場合は、より高額になることもあります。
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しました。