簡易鑑定とは?流れや本鑑定との違いについて弁護士が解説

簡易鑑定

 

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

簡易鑑定とは?

簡易鑑定とは、起訴前に、医師が刑事事件の被疑者を診察し精神状態について意見を述べる手続です。2,3か月にわたって医師が継続的に診察する起訴前本鑑定と異なり、通常、診察は1回限りです。

 

 

被疑者を簡易鑑定にかけるかどうかを判断するのは検察官です。

 

 

検察官が事件の記録を見たり、被疑者の取調べをするなかで、被疑者の言動に理解できないところがあり、責任能力に問題があるかもしれないと判断すれば、被疑者を簡易鑑定にかけます。

 

 

被疑者の責任能力の有無や程度について最終的に判断するのは検察官ですが、検察官は、医師の鑑定書を尊重します。

 

 

医師の意見をふまえて、検察官が責任能力に問題があると判断すれば、不起訴にする可能性が高まります。逆に責任能力に問題がないと判断すれば、起訴する可能性が高くなります。

 

簡易鑑定と起訴前本鑑定の違い

起訴前に行われる鑑定には、簡易鑑定起訴前本鑑定があります。

 

 

簡易鑑定は、勾留中に医師が1回のみ30分から1時間程度、被疑者を問診するだけですが、起訴前本鑑定は、被疑者を拘置所や病院に留置し(鑑定留置)、2,3か月にわたって、継続的に医師が診察します。鑑定留置されている間、勾留はいったん停止します。

 

 

簡易鑑定と起訴前本鑑定の振り分けは、犯罪の重大性によることが多いです。殺人や放火については、簡易鑑定ではなく起訴前本鑑定に回されることが多いですが、万引きや住居侵入といった軽微な犯罪では、簡易鑑定に回されることが多いです。

 

東京地検でも、起訴前本鑑定にかけるのは、検察官1人あたり、数年に1回あるかないかといったところですが、簡易鑑定はひと月に数件程度かけることが多いようです。

 

簡易鑑定の流れ

1.検察官の勾留請求

検察官が簡易鑑定に回すべきと判断した場合は、被疑者の言動がおかしいことを示すため、問答形式の供述調書を作成します。その上で、被疑者を勾留請求し、勾留請求書に「被疑者の言動に異常が認められるため簡易鑑定をする予定」などと書き込みを入れます。

 

東京地検では簡易鑑定の数が多く、すぐに予約しないと勾留期間中に枠がとれないため、検察官は最初の取調べをしてすぐに簡易鑑定に回すかどうかを判断します。

 

 

2.裁判官の勾留決定

簡易鑑定が見込まれるケースでは、捜査の必要性の観点から、勾留が許可されるのが通常です。

 

 

3.鑑定のための資料収集

検察官は、警察に家宅捜索をさせて、被疑者の自宅から診察券や精神障害者手帳などを押収させます。また、被疑者の家族へ事情聴取させ、本人の通院歴などを確認させます。通院先の病院が判明すれば、病状照会をしたり、カルテを取得します。

 

 

4.同意のとりつけまたは令状請求

検察官は、勾留延長前の中間調べの際、被疑者に簡易鑑定の同意書にサインさせます。もし被疑者が同意しない場合は、鑑定処分許可状を裁判所に請求します。鑑定処分許可状は請求した当日か翌日に発付されます。

 

 

裁判所の鑑定処分許可状があれば、被疑者が簡易鑑定を拒んでいても強制的に実施することができるようになります。

 

 

5.医師による簡易鑑定

検察官は、事前に、事件の概要、簡易診断をしてほしい項目、簡易診断を求めた理由をまとめた「診断要点書」というメモを作成し、事件の記録と一緒に医師に提出します。

 

 

医師は、30分から1時間ほど被疑者を問診し、それをふまえて診断書を作成します。診断書には、病名、被疑者とのやりとり、責任能力の有無・程度、措置入院の要否などが記載されています。診断書は、診断当日か翌日に作成されます。

 

東京地検では、毎週火曜日と木曜日に、検察庁2階の「精神診断室」というところで、精神科の医師が簡易鑑定を行います。

 

簡易鑑定と弁護活動

被疑者に精神疾患や認知症と思われる症状がみられる場合は、弁護士の方から検察官に簡易鑑定を求めることが考えられます。

 

 

もっとも、簡易鑑定は通常30分程度で1回しか実施されないため、信頼性について疑問があります。

 

 

被疑者が精神科に通院している場合は、かかりつけの医師に意見書を作成してもらい、検察官に提出することが考えられます。

 

 

その後に簡易鑑定が実施される場合、弁護士が提出した意見書は鑑定医も見ることになるため、主治医の問題意識を鑑定医にも理解してもらうことができます。

 

 

また、認知症の初期のステージでは、認知機能が正常なときとそうでないときがまだらのように混在しています。

 

 

鑑定医は、30分から1時間前後しか診察しないため、たまたま被疑者と面会したときは、普通の精神状態で、認知症であることが見過ごされてしまうことがあります。

 

 

接見中に被疑者の言動でおかしいと感じることがあれば、弁護士が被疑者の言動について報告書を作成し検察官に提出しておけば、鑑定医も目にすることになり、見過ごしの可能性が低くなります。

 

 

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