起訴前本鑑定とは?流れや鑑定留置について弁護士が解説

起訴前本鑑定

 

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

起訴前本鑑定とは?

起訴前本鑑定とは、起訴前に、医師が病院などに留置されている被疑者を診察し、犯行当時の精神状態などについて意見を述べることです。鑑定の結果は鑑定書にまとめられます。

 

 

起訴前正式鑑定と呼ばれることもあります。

 

 

刑事裁判になる前に行われる鑑定ですので、鑑定を嘱託(依頼)するのは裁判官ではなく検察官です。

 

起訴前本鑑定と簡易鑑定の違い

起訴前の鑑定には起訴前本鑑定簡易鑑定の2つがあります。

 

 

どちらも検察官が医師に依頼して実施されます。

 

 

簡易鑑定は、通常、検察の庁舎内で1回30分~1時間程度しか行われません。これに対して、起訴前本鑑定は、被疑者を2,3か月にわたって病院や拘置所に留置し、医師が継続的に診察する形で行われます。

 

 

被疑者の言動等から責任能力に問題があると思われるケースでは、まず簡易鑑定を実施し、そこで診断がつかない場合は、起訴前本鑑定に回されることが多いです。

 

 

殺人放火など裁判員裁判の対象となる重大事件では、起訴前本鑑定が実施されることが少なくありません。

 

起訴前本鑑定により何を鑑定するのか?

起訴前本鑑定により、医師は、被疑者の責任能力にかかわる精神状態について意見を述べます。責任能力がない場合を心神喪失、責任能力が限定されている場合を心神耗弱いいます。

 

分類

意味

効果

 心神喪失

精神の障害により、善悪を判断する能力または行動をコントロールする能力が失われている状態。

無罪

 心神耗弱

精神の障害により、善悪を判断する能力または行動をコントロールする能力が著しく減退している状態

刑の減軽

 

刑事裁判で心神喪失と認定された場合は無罪判決が下されます。心神耗弱と認定された場合は刑が減軽されます。

 

 

そのため、検察官は、起訴前の時点で、被疑者の責任能力に問題があると思われるケースでは、精神科医に鑑定してもらいいます。検察官は、その結果をふまえて、心神喪失や心神耗弱の状態にあるか否かを判断し、起訴するか不起訴にするかを決めます。

 

 

このように、起訴前の時点で、責任能力の有無や程度を最終的に判断するのは検察官ですが、検察官は判断にあたって医師の精神鑑定書を参考にします。

 

 

責任能力に問題があり不起訴にする場合は、都道府県知事への通報(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律25条)など、ケースに応じて適切な措置をとることになります。

 

起訴前本鑑定と鑑定留置

起訴前本鑑定では、被疑者は、医師の継続的な診察を受けるため、2,3か月にわたって、病院や拘置所に収容されます。これを鑑定留置といいます。

 

 

被疑者にとっては人権侵害になりますので、鑑定留置をするためには裁判所の令状(鑑定留置状)が必要となります。

 

 

鑑定留置の期間は法律で決まっているわけではありません。検察官が医師の意見を参考にして、鑑定のために必要な期間を定めて裁判官に請求します。

 

 

病院に留置する場合は、裁判官が、病院の所在地を管轄する警察署長に、被疑者を戒護するよう命令します。

 

 

命令を受けた警察署長は病院に警察官を派遣します。警察官は交代で病室の前で待機したり付き添ったりして、被疑者が逃げたり他の患者に危害を加えないよう看守します。

 

 

鑑定留置されたときは勾留の執行は自動的に停止します。そのため、鑑定留置中に取調べが行われることはありません。

 

 

裁判員裁判が始まってから、鑑定留置の件数は増加傾向にあり、近年は毎年500人前後で推移しています。

 

起訴前本鑑定の流れ

①検察官が裁判所に対して鑑定留置状と鑑定処分許可状の発付を請求する→発付される

 

②被疑者を病院または拘置所に留置する

 

③医師が被疑者の精神状態を診察する

         

④診察がひと通り終わると医師が精神鑑定書を作成する→検察官に提出する

           

⑤鑑定留置の期限がくると勾留が復活する→残りの勾留期間内に検察官が鑑定書を参考にして起訴するか不起訴にするかを判断する

 

鑑定留置に納得がいかない場合

裁判官によって鑑定留置が認められると、事実上の身柄拘束が長期間にわたって続くことになります。鑑定留置されている間は取調べは行われませんが、拘束されること自体が被疑者にとって大きな不利益です。

 

 

定留置の決定に対して不満がある場合は、弁護士が裁判所に準抗告を申し立てることによって、取消しを求めることが可能です。期間の短縮を求めることもできます。

準抗告とは?裁判官や検察官の処分への対抗手段

 

 

ウェルネスの弁護士は責任能力が争点になった刑事事件を数多く経験しております。ご家族が鑑定留置されている方は、お気軽にウェルネス(03-5577-3613)へご相談ください。 

 

 

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