公判前整理手続

本ページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

公判前整理手続とは

公判前整理手続(こうはんぜんせいりてつづき)とは、一言でいうと「裁判の準備」です。裁判が始まる前に、あらかじめ、検察側と弁護側の主張を明らかにして、争点を整理しておきます。その上で、検察官と弁護士の双方がお互いの主張を立証するための証拠を相手に開示し、裁判で取り調べる証拠や取調べの順序・時間を事前に決めておきます。

 

事前に争点と証拠を整理しておくことによって、いきなり裁判を始める場合に比べて、計画的かつ迅速に裁判を進めることができます。

 

公判前整理手続が実施された場合と実際されない場合の進行イメージ

【公判前整理手続あり】

4月1日

起訴

5月15日

進行についての打ち合わせ

5月31日

公判前整理手続に付する決定

6月15日

第1回公判前整理手続期日

8月1日

第2回公判前整理手続期日

9月15日

第3回公判前整理手続期日

10月15日

第4回公判前整理手続期日

11月1日

公判開始→証拠調べ

11月2日

証拠調べ

11月3日

証拠調べ

11月4日

意見陳述

11月8日

判決宣告

公判前整理手続が実施された場合、公判がスタートするまで数か月かかりますが、いったん公判がスタートするとスピーディに進行します。

 

【公判前整理手続なし】

4月1日

起訴

5月15日

初公判→証拠調べ

6月15日

進行についての打ち合わせ

7月15日

第2回公判(証拠調べ)

8月15日

第3回公判(証拠調べ)

9月15日

第4回公判(証拠調べ)

10月15日

第5回公判(証拠調べ)

11月15日

意見陳述

12月15日

判決宣告

 

公判前整理手続を実施するまでの流れ

①検察官または弁護士が公判前整理手続を実施するよう裁判所に請求する。

②裁判所が検察官、弁護士の意見を聴く。

③裁判所が事件を公判前整理手続に付するか否かを決定する

 

*裁判所は、検察官や弁護士が請求しない場合でも、自らの判断で公判前整理手続に付することを決定することができます。

*裁判員裁判の場合は、例外なく公判前整理手続を実施します。

 

公判前整理手続が利用される2つのケース

(1)裁判員裁判

裁判員裁判では必ず公判前整理手続が実施されます。裁判員は仕事や家庭をもった一般市民です。審理のために裁判員を何か月も拘束することはできません。そのため、事前に裁判員抜きで公判前整理手続を行い、審理の方向性を明確にしてから、裁判員裁判の審理に入ります。

 

(2)否認事件

公判前整理手続においては、検察側証拠の弁護側への開示手続が詳細に定められています。否認事件のケースで、弁護士が検察官に対して、任意に証拠の開示を請求しても、検察官がそれに応じない場合は、必要な証拠を取得するための手段として、弁護士が裁判所に対して、公判前整理手続を実施するよう求めることがあります。

 

公判前整理手続と弁護士

被告人に弁護士がいなくても公判前整理手続に付することはできますが、弁護士が選任されるまでは、公判前整理手続を進めることはできません。公判前整理手続の実施が決まった時点で弁護士がいなければ、国選弁護人が選任されることになります。また、弁護士がいても公判前整理手続の期日に出席しないときは手続を進めることはできません。

 

公判前整理手続に付される事件は、複雑な事件や否認事件が多く、弁護士のサポートなしで、適切な活動をすることは難しいと考えられるためです。

 

被告人も公判前整理手続に出席することはできますが、弁護士と異なり、出席が義務とされているわけではありません。弁護士が出席していれば、被告人が欠席していても手続は進行します。被告人が出席した場合は、発言する機会はありますが、やりとりを傍聴するだけで終わることが多いです。

 

公判前整理手続は公開されない

公判前整理手続は非公開で実施されます。公判前整理手続期日では、訴訟当事者が争点や証拠についてざっくばらんにやりとりするので、公開には適していませんし、裁判そのものではないので、非公開としても裁判の公開を定めた憲法82条には反しません。

 

公判前整理手続のスケジュールは、法廷に張り出される開廷票にも記載されておらず、一般の方が入ってこれないように法廷の扉に鍵がかかっていることが多いため、弁護士は注意する必要があります。

 

【公判前整理手続の流れ】

公判前整理手続の第1ステップ:検察官請求証拠の開示

(1)証明予定事実の提出

検察官は、公判期日において証拠により証明しようとする事実(証明予定事実)を記載した書面を裁判所と弁護士に提出します。

 

(2)証拠の取調べ請求

検察官は、証明予定事実を立証するための証拠の取調べを裁判所に請求します。

 

(3)検察官請求証拠の弁護士への開示

検察官は裁判所に取調べ請求をした証拠(検察官請求証拠)を弁護士に開示します。証拠の種類に応じて次の3つの開示方法があります。

 

証拠の種類

開示の方法

供述調書などの証拠書類

弁護士が検察庁でコピーします。

凶器などの証拠物

弁護士が検察庁で証拠物を閲覧します。

証人

検察官が弁護士に証人の氏名、住所、証言の要旨を記載した書面(証言要旨記載書面)などを開示します。

 

公判前整理手続の第2ステップ:類型証拠の開示

検察官は、手持ちの証拠の中から、証明予定事実を立証するためにベストと考えられる証拠を、裁判所に取調べ請求します。そのため、検察官請求証拠は検察官にとって都合のよい証拠ばかりです。

 

しかし、検察官の手持ち証拠の中には、被告人にとって有利な証拠が含まれていることも少なくありません。検察官はそのような証拠を自発的に裁判所に取調べ請求することはないため、弁護士の方から、検察官に対して開示請求をする必要があります。これが類型証拠開示請求です。

 

検察官は、弁護士から類型証拠の開示を請求された場合、その証拠が次の3つの要件を満たすときは、速やかに開示しなければいけません。

 

①次の類型のいずれかに該当する証拠

証拠物

裁判所の証人尋問調書、公判調書、裁判所の検証調書など

捜査機関による実況見分調書など

鑑定書など

検察官が証人として尋問を請求した者の供述録取書など

検察官が取調べを請求した供述録取書などの供述者であって、当該供述録取書などが刑事訴訟法326の同意がされない場合には、検察官が証人として尋問を請求しているものの供述録取書など

被告人以外の者の供述録取書等であって、検察官が特定の検察官請求証拠により直接

証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの

被告人の供述録取書

取調べ状況報告書

検察官請求証拠である証拠物の押収手続記録書面

 

②特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められる証拠

 

③証拠の重要性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるとき

 

公判前整理手続の第3ステップ:検察官請求証拠に対する意見表明

弁護士は、検察官から証明予定事実の送付を受け、検察官請求証拠と類型証拠の開示を受けたときは、検察官請求証拠に対する意見を明らかにします。証拠書類の場合は同意するか否か、証拠物の場合は取調べに異議がないか否かを明示します。

 

公判前整理手続の第4ステップ:弁護側の主張や証拠の開示

弁護士は、検察官から証明予定事実の送付を受け、検察官請求証拠と類型証拠の開示を受けたときは、次の3つのことをしなければいけません。

 

①証明予定事実などを明らかにする

弁護側の方で、公判期日において証拠により証明しようとする事実(証明予定事実)があるときは、弁護士がその内容を裁判官と検察官に明らかにします。証明予定事実以外に事実上及び法律上の主張があるときもその内容を明らかにします。

 

②証拠の取調べ請求

証明予定事実があるときは、弁護士が、証明予定事実を証明するための証拠の取調べを裁判所に請求します。

 

③証拠の開示

弁護士は、裁判所に取調べを請求した証拠(弁護側請求証拠)を検察官に開示します。開示の方法は検察官請求証拠と同じです。

 

公判前整理手続の第5ステップ:弁護側請求証拠に対する意見表明

検察官は、弁護側請求証拠の開示を受けたときは、弁護側請求証拠に対する意見を明らかにします。すなわち、証拠書類の場合は同意するか否か、証拠物の場合は証拠調べに異議がないか否かを明示します。

 

公判前整理手続の第6ステップ:主張関連証拠の開示

検察官は、弁護側の主張と関連すると認められる証拠(主張関連証書)について、弁護士から開示の請求があった場合、次の3つの観点から開示が相当と認められる場合は、弁護士に速やかに開示しなければいけません。

 

①弁護側の主張との関連性の程度

②被告人の防御準備のために当該開示をすることの必要性の程度

③当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度

 

弁護士は検察官に主張関連証拠の開示を請求するにあたり、次の2つの事項を明らかにする必要があります。

①請求対象の証拠を識別するに足りる事項

②弁護側の主張と請求対象の証拠との関連性その他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由

       

公判前整理手続と証拠制限

公判前整理手続が終わった後は、原則として、新たな証拠の取調べを請求することはできません。

 

公判前整理手続が終わった後でも無制限に証拠の取調べ請求が許されると、新たな証拠調べ請求に対応して、相手方から新たな主張や証拠調べ請求が出されることになり、事前に争点と証拠を整理して裁判の迅速化を図るという公判前整理手続の目的が実現されなくなるためです。

 

例外的に、やむを得ない理由によって公判前整理手続において請求できなかった証拠は、公判前整理手続が終わった後でも取調べを請求することができます。例えば、公判前整理手続が終わった後に被害者との間で示談が成立した場合は、その後に示談書の取調べを請求することができます。

 

なお、公判前整理手続後に制限されるのは新たな「証拠」の取調べ請求であって、新たな「主張」を述べることは制約されていません。

 

公判前整理手続と弁護活動の留意点

近年、公判前整理手続の長期化が問題となっていることから、裁判官は、公判前整理手続を早めに終わらせようとして、やや強引に手続を進めることが少なくありません。弁護士が検察官から類型証拠の開示を受けていないにもかかわらず、弁護士に対して予定主張を明示するよう求めてくる裁判官もいます。

                                                                                                   

このような場合は必ずしも裁判官の求めに従う必要はなく、「類型証拠の開示を受けてから予定主張を明らかにします。」、「現時点では~という主張を予定していますが、まだ類型証拠を開示されたわけではありませんので、今後変更する可能性もあります。」等と述べるべきです。

 

 

 

 

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