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公務員の刑事事件に関する3つの処分-休職・失職・懲戒

公務員の刑事事件

 

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

刑事事件を起こした公務員の処分は3種類

公務員が刑事事件を起こしたとき、勤務先から下される処分は次の3つに分けられます。

 

①起訴休職

②当然失職

③懲戒処分

 

それぞれの処分についてみていきましょう。

 

公務員の刑事事件と起訴休職

起訴休職とは、職員が刑事事件に関して起訴されたときに、休職させることができる制度です。国家公務員にも地方公務員にも起訴休職の制度があります。休職の期間は起訴された日から判決が確定する日までです。

 

起訴には公判請求と略式請求の2種類がありますが、略式請求されて起訴休職の処分を受けることはまずありません。公判請求されたときは、起訴された刑事事件の内容にかかわらず、起訴休職となるのが通常です。

 

起訴休職中の給与については、国家公務員は給与と各種手当の60%まで支給することができるとされています。

 

地方公務員についても、多くの自治体で同内容の条例が制定されています。なお、東京都では、市区町村の規則で、給与と各種手当の「60%以内」ではなく、きっちり「60%」を支給することとされています。

 

公務員の刑事事件と当然失職

当然失職とは、公務員が欠格条項に該当することになった時点で自動的に失職することです。公務員の欠格条項とは、「公務員になることができない条件」のことです。刑事事件に関する公務員の欠格条項は、次の通りです。

 

「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」

 

この欠格条項は国家公務員でも地方公務員でも同じです。懲役刑・禁固刑であれば、執行猶予付きの判決であってもこの条項に該当します。罰金であれば該当しません。

 

欠格条項に該当することが判明した場合は、人事のヒアリング等を経て処分が出されるわけではなく、自動的に失職することになります。そのため不服を申し立てることもできません。

 

国家公務員については当然失職の例外はありませんが、地方公務員については、多くの自治体で例外が定められています。

 

例えば、東京都の条例では、執行猶予付きの禁固刑にとどまった過失犯については、情状により失職しないようにできると定められています。想定されている犯罪は、自動車運転中の軽微な人身事故です。例外を定めている他の自治体でも、同様の規定ぶりとなっています。

 

公務員の刑事事件と懲戒処分

1.4つの処分

公務員が起こしがちな犯罪として、窃盗、器物損壊、暴行、傷害、痴漢、盗撮などの比較的軽い犯罪が挙げられます。

 

これらの犯罪については、被害者との間で示談が成立すれば不起訴になることが多いです。示談が成立しない場合でも、よほど悪質でない限り、公判請求されることは少ないです。公判請求されなければ、当然失職になることはありませんし、起訴休職になることもまずありません。

 

その場合でも、勤務先に発覚すれば、懲戒処分を受けることになります。懲戒処分には、①戒告、②減給、③停職、④免職の4つがあります。

 

2.国家公務員の懲戒処分

国家公務員の懲戒処分については、人事院が、各タイプごとの標準的な処分例を公表していますのでこれが参考になります。刑事事件に関連する処分例を以下にまとめました。

 

【職務関連の犯罪】

犯罪

戒告

減給

停職

免職

故意の秘密漏えい

 

 

故意の秘密漏えい(自己の不正な利益を図る目的あり)

 

 

 

入札談合への関与

 

 

公文書の偽造・変造・虚偽公文書作成、毀棄

 

 

強制わいせつ(セクハラ)

 

 

 

【公金や官物を対象とする犯罪】

犯罪

戒告

減給

停職

免職

横領

 

 

 

窃盗

 

 

 

詐欺

 

 

 

器物損壊

 

 

失火

 

 

 

 

【公務外の犯罪】

犯罪

戒告

減給

停職

免職

放火

 

 

 

殺人

 

 

 

傷害

 

 

暴行

 

 

器物損壊

 

 

横領

 

 

遺失物等横領

 

 

窃盗

 

 

強盗

 

 

 

詐欺

 

 

恐喝

 

 

賭博

 

 

常習賭博

 

 

 

麻薬等の所持等

 

 

 

淫行

 

 

痴漢

 

 

盗撮

 

 

 

【交通犯罪】

犯罪

戒告

減給

停職

免職

酒酔い運転

 

 

酒酔い運転+人身事故

 

 

 

酒気帯び運転

 

酒気帯び運転+人身

 

 

酒気帯び運転+ひき逃げ

 

 

 

飲酒運転同乗

人身事故(死亡・重傷)

 

+ひき逃げ

 

 

人身事故(重傷以外)

 

 

+ひき逃げ

 

 

著しい速度違反等

 

 

3.地方公務員の懲戒処分

地方公務員についても、自治体によっては、各タイプごとの標準的な処分例を公表しています。東京都が公表している処分例のうち刑事事件に関するものを以下にまとめました。なお、地方公務員のなかでも、学校の教職員は、その他の職員に比べて処分が重くなる傾向があります。

 

【公金・公物に関する犯罪】

犯罪

戒告

減給

停職

免職

公金・公物の横領

 

 

 

公金・公物の窃取

 

 

 

公金・公物の詐取

 

 

 

公物の損壊

 

 

 

【公務外の犯罪】

犯罪

戒告

減給

停職

免職

殺人

 

 

 

放火

 

 

 

傷害

 

 

暴行

 

 

器物損壊

 

 〇

 

横領

 

 

占有離脱物横領

 

 

窃盗

 

 

強盗

 

 

 

詐欺

 

 

恐喝

 

 

賭博

 

常習賭博

 

 

麻薬・覚せい剤等の所持・使用

 

 

 

危険ドラッグの所持・使用

 

 

強制わいせつ

 

 

 

淫行

 

 

児童買春

 

 

 

痴漢

 

 

盗撮・のぞき

 

 

 〇

児童ポルノの所持・提供等

 

 

ストーカー

 

 

 

【交通犯罪】

犯罪

戒告

減給

停職

免職

酒酔い運転

 

 

 

酒気帯び運転

 

 

飲酒運転同乗

 

 

過失運転致死傷(重傷・死亡)

    

過失運転致死傷(重傷を除く)

 

 

ひき逃げ

 

 

 

無免許運転

 

 

著しい速度違反

 

 

 

4.懲戒処分が軽くなる9つの事情 

国家公務員にせよ地方公務員にせよ、犯罪ごとに懲戒処分の程度はおおむね決まっていますが、次の9つの事情のうち該当するものが多ければ多いほど、処分が軽くなる傾向があります。

 

①行為の悪質性が低い

②結果が重大とまではいえない

③自分から勤務先に報告している

④勤務先の調査に協力している

⑤深く反省している

⑥被害者と示談している

⑦再発防止策を講じている

⑧過去に懲戒処分を受けたことがない

⑨ふだんの勤務態度がまじめである

 

これらのうち①と②、⑤~⑦の事情は、不起訴処分を得るためにも重要な事情です。刑事弁護を担当した弁護士に処分軽減のための意見書を作成してもらったり、不起訴処分告知書を職場に提出することも考えられるでしょう。

 

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