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ハトをひき殺してなぜ逮捕?逮捕され得るケースとされないケース

2023年12月、新宿で50歳のタクシードライバーがハト1羽をひき殺したとして逮捕されました。

 

 

報道によれば、信号が青に変わったタイミングでタクシーを急発進させハトをひいたとのことです。目撃者の通報で警察が捜査に乗り出し、死んだハトを獣医に解剖してもらい死因を特定しました。

 

 

逮捕されたドライバーは、「道路は人間のものなので、よけるのはハトの方」等と供述しているとのことです。

 

 

車を運転する方は、ニュースを見て、「自分もハトをひいて逮捕されたらどうしよう?」と不安に思っているかもしれません。

 

 

このページでは刑事事件に詳しい弁護士 楠 洋一郎が、ハトをひき殺した場合に成立する犯罪や逮捕され得るケースとされないケースの違いについて解説しました。ぜひ参考にしてみてください!

 

 

 

ハトをひき殺すと何罪になる?

ハトをひき殺すと鳥獣保護管理法違反になります。

 

 

鳥獣保護管理法の正式名称は、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」です。鳥類・哺乳類に属する野生動物の保護や管理、狩猟について定めています。

 

 

鳥獣保護管理法は、原則として、鳥獣や鳥類の卵について、捕獲等または採取等をしてはならないと定めています(鳥獣保護管理法8条)。

 

 

「捕獲等」…捕獲または殺傷を意味します。

「採取等」…採取または損傷を意味します。

 

 

野性のハトを殺した場合、鳥獣保護管理法8条に違反し、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。

 

 

【鳥獣保護管理法】

第八条 鳥獣及び鳥類の卵は、捕獲等又は採取等(採取又は損傷をいう。以下同じ。)をしてはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

一 次条第一項の許可を受けてその許可に係る捕獲等又は採取等をするとき。

二 第十一条第一項の規定により狩猟鳥獣の捕獲等をするとき。

三 第十三条第一項の規定により同項に規定する鳥獣又は鳥類の卵の捕獲等又は採取等をするとき。

第八十三条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

一 第八条の規定に違反して狩猟鳥獣以外の鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵の採取等をした者(許可不要者を除く。)

 

 

なお、以下の3つのケースでは、野生の鳥類や哺乳類を殺しても鳥獣保護管理法違反にはなりません。

 

 

①学術研究の目的、鳥獣の保護又は管理の目的その他環境省令で定める目的で鳥獣の捕獲等をしようとする者が、環境大臣または都道府県知事の許可を受けたとき。

②都道府県知事の狩猟免許を受け狩猟者登録をした者が、法令に即して狩猟をする場合

③農業又は林業の事業活動に伴い捕獲等又は採取等をすることがやむを得ない鳥獣若しくは鳥類の卵であって環境省令で定めるもの(モグラ、ネズミ)を捕獲等するとき

 

 

路上でハトをひき殺した場合は、上記の例外に当たらないことは明らかですので、鳥獣保護管理法違反が成立します。

 

 

過失でハトを死なせた場合も逮捕される?

ハトを殺すつもりで実際に殺した場合は鳥獣保護管理法違反になりますが、過失でハトを死なせてしまっても同法違反にはなりません。

 

 

もっとも、明確な殺意がなくても、「もしかしたらひき殺してしまうかもしれないが、それでもいい。」と思ってひき殺してしまった場合は、殺意があったものと扱われ、鳥獣保護管理法違反が成立します。

 

 

このように殺意は未必的なものでもよいとされているので注意が必要です。

故意とは?確定的故意と未必の故意について弁護士が解説

 

 

今回逮捕されたタクシードライバーのケースについても、急発進してハトの群れに進入していることから、少なくとも未必的な殺意はあると判断され、逮捕に至ったものと考えられます。

 

 

やむを得ずハトをひき殺した場合も逮捕される?

「ハトを殺してしまうかもしれないがそれでもいい」という未必的な故意でハトを殺した場合も鳥獣保護管理法違反になります。それでは以下の場合はどうでしょうか?

 

 

本人は車を運転中に前方にハトの群れを発見した。急ブレーキを踏むか、進路変更すれば避けられそうだったが、周囲の車と衝突する可能性が高かったため、事故の回避を優先し、ブレーキをかけずにそのまま直進してハトをひき殺してしまった。

 

 

上のケースでは「ひき殺してしまうかもしれないがそれでもいい。」という未必的な殺意は認められますが、緊急避難が適用されて無罪になると考えられます。

 

 

「緊急避難」とは、自己または他人の生命、身体、自由または財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しないという規定です(刑法37条)。

 

 

上のケースでは、急ブレーキを踏んだり進路変更をすることにより周囲の車と接触すれば、自分や第三者がケガをするおそれがあり現在の危難があると言えます。

 

 

そのような現在の危難を避けるためにやむを得ずハトの群れに進入し、結果的にハトをひき殺してしまった場合、生じた害(ハトの死亡)が避けようとした害(人の負傷)の程度を超えていないため、緊急避難が適用されます。

 

 

そのため、犯罪が成立しないと評価されるため、逮捕も起訴されません。

 

 

今回のタクシードライバーのケースでは、信号が赤から青に変わった瞬間にタクシーがハトの群れに突進したということですので、現在の危難を避けるためにやむを得ず突っ込んだわけではなく、緊急避難として無罪になる余地はないと思われます。