医療観察制度とは?対象者や流れについて弁護士が解説

このページは弁護士 楠 洋一郎が作成しています。

 

 

 

 

医療観察制度とは?

犯罪行為をしても責任能力がなければ無罪になります。

責任能力とは?責任能力なしで無罪になる理由や精神鑑定について解説

 

 

責任能力とは、①物事の善悪を区別し、②その区別に従って自分の行動をコントロールする能力のことです。

 

 

責任能力なしで無罪になれば、本来は自由に生活できるはずです。もっとも、責任能力に問題のある方がすぐに社会復帰すると、また同様の事件を起こしてしまうおそれがあります。

 

 

そのようなことにならないよう、本人のためにも周囲のためにも、しっかり病状を改善させた上で社会に復帰させることが必要です。そのための制度が医療観察です。

 

 

医療観察制度は「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(医療観察法)によって定められています。

 

 

医療観察をわかりやすく説明すると、責任能力に問題があって無罪等の処分を受けた方に適切な治療を受けさせた上で社会復帰を促進する制度です。

 

 

医療観察制度の対象は?

医療観察の対象になるのは、重大な他害行為(殺人、放火、強制性交等、強制わいせつ、傷害)を行い、以下の処分を受けた方です。

 

 

①心神喪失を理由とする不起訴処分

②心神耗弱を理由とする不起訴処分

③心神喪失(刑法39条1項)による無罪

④心神耗弱(刑法39条2項)による減刑

 

 

①と②は検察官が決定します。③と④は裁判官(裁判員)が決定します。殺人、放火、強制性交等、強制わいせつは未遂でも医療観察の対象になりますが、傷害の未遂は対象になりません。

 

 

また、軽微な傷害に限り、その行為の内容や過去の他害行為の有無・内容、現在の病状、性格、生活環境をふまえ、医療観察制度が適用されないこともあります。

 

 

医療観察制度の流れ

1.検察官の申立て

責任能力に問題があり不起訴や無罪、減刑になった場合、検察官は、原則として、地方裁判所に対して、対象者の処遇を決定するよう申し立てなければなりません。

 

 

2.鑑定入院

検察官の申立てがあれば、地方裁判所の裁判官は、対象者の陳述を聞いた上で鑑定入院命令を発します。

 

 

その結果、対象者は医療機関に入院し、精神科医の鑑定を受けることになります。入院期間は2か月以内ですが、最長で1か月延長されることがあります。

 

 

3.裁判所の審判

鑑定が終わると地方裁判所で審判が開かれます。審判では、裁判官1名と精神保健審判員と呼ばれる精神科医1名の合議によって決定が出されます。裁判所によって出される決定は以下の3種類です。

 

 

①入院決定

②通院決定

③医療観察法による医療を行わない旨の決定(通院も入院もなし)

 

 

裁判官と精神保健審判員以外に対象者、対象者の付添人である弁護士、検察官も審判に出席します。他に以下の方が審判に参加したり、傍聴することがあります。

 

 

精神保健参与員精神保健福祉士などの保健や福祉の専門家。裁判所が意見を聞くため審判に関与させることができます。
社会復帰調整官保護観察所の職員。鑑定入院中の対象者の生活環境を調査し、裁判所に報告します。
被害者や遺族被害者や遺族は事前に裁判所に申し出て、審判を傍聴することができます。

 

 

医療観察法の入院

1.医療観察法の入院とは?

裁判所の審判で入院決定が出された場合、対象者は医療機関に入院し治療を受けなければなりません。

 

 

入院する医療機関は対象者が自分で選べるわけではなく、厚生労働大臣があらかじめ定めた指定入院医療機関から厚生労働大臣によって選ばれます。

 

 

2.医療観察法の入院期間は?

入院期間はおおむね18か月です。指定入院医療機関の管理者は、入院継続の必要があると判断した場合は、6か月ごとに、地方裁判所に対して、入院継続の確認の申立てをしなければなりません。

 

 

裁判所がこの申立てを許可すれば入院が継続します。

 

 

3.入院先から脱走した場合はどうなる?

対象者が入院先から無断で退去した場合、指定入院医療機関の職員が連れ戻すことができます。連れ戻すことが困難な場合は、指定入院医療機関の管理者から警察に対して連れ戻しについて必要な援助を求めることができます。

 

 

4.退院するには?

医療観察法の入院決定が出されて入院すると、自分の意思で退院することはできません。指定入院医療機関の管理者は、入院の必要がないと判断した場合は、地方裁判所に対して、退院許可の申立てをしなければなりません。

 

 

対象者や保護者、付添人である弁護士も、地方裁判所に対して退院許可の申立てをすることができます。

 

 

裁判所によってこの申立てが認められれば退院が許可されます。指定入院医療機関の管理者が入院継続確認の申立てをしてこれが認められなかった場合も、退院が許可されます。

 

 

5.退院後はどうなる?

裁判所によって退院が許可されると退院できますが、通常は、完全に自由になるわけではなく、引き続き医療観察法による通院をしなければなりません。

 

 

もっとも、可能性は非常に低いですが、退院許可の申立て、入院継続の申立てに対して、裁判所が医療観察法による医療を終了する旨の決定をした場合は通院する必要もなくなります。

 

 

対象者や保護者、付添人である弁護士は、裁判所に対して、医療観察法による医療終了の申立てをすることもできます。

 

 

医療観察法の通院

1.医療観察法の通院とは?

裁判所の審判で通院決定が出た場合、対象者は医療機関に通院し治療を受けなければなりません。入院決定が出て入院していた方が、裁判所の決定により退院した場合も、通院に移行することが多いです。

 

 

通院する医療機関は対象者が自分で選べるわけではなく、厚生労働大臣があらかじめ定めた「指定通院医療機関」から厚生労働大臣によって選ばれます。

 

 

2.医療観察法の通院期間は?

医療観察法の通院期間は、通院決定の日から3年です。ただ、裁判所は2年の範囲で通院期間を延長することができます。延長期間が通算で2年を超えていなければ、複数回にわたり延長することもできます。

 

 

保護観察所長は、通院継続の必要があると判断した場合は、通院期間が満了する日までに、地方裁判所に対して、通院期間の延長の申立てをしなければなりません。

 

 

裁判所がこの申立てを認めれば、通院期間が延長されます。

 

 

3.通院を終了するためには?

通院決定が出された場合、自分の意思で通院をやめることはできません。

 

 

保護観察所長は、医療観察法の通院の必要がないと判断した場合は、地方裁判所に対して医療観察法による医療終了の申立てをしなければなりません。

 

 

対象者や保護者、付添人である弁護士も、地方裁判所に対して、医療観察法による医療終了の申立てをすることができます。裁判所によって申立てが認められれば医療観察法の医療が終了し、通院する必要がなくなります。

 

 

4.勝手に通院をやめたらどうなる?

通院決定を出された方が勝手に通院をやめてしまった場合、保護観察所長が、継続的な医療を実施することが難しいと判断すれば、地方裁判所に対して、入院の申立てをしなければなりません。

 

 

入院の申立てがあると、地方裁判所の裁判官が必要があると認めるときは、鑑定入院命令を発します。その結果、対象者は精神科医の鑑定を受けるために最長2か月の限度で入院することになります。

 

 

裁判所によって申立てが許可されると、入院決定が出され、指定入院医療機関に入院することになります。

 

 

5.精神保健観察とは?

通院決定を出された方は、精神保健観察を受けることになります。

 

 

精神保健観察に付されると、社会復帰調整官と呼ばれる保護観察所の職員が、対象者と定期的に面接し、関係機関に報告を求める等して受診状況や生活状況を見守ります。また、継続的な医療を受けていなければ必要な指導等を行います。

 

 

精神保健観察に付された方は、住所を保護観察所長に届け出る必要があります。また、以下の遵守事項を守らなければなりません。

 

 

【遵守事項】

一 一定の住居に居住すること。

二 住居を移転し、又は長期の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察所の長に届け出ること。

三 保護観察所の長から出頭又は面接を求められたときは、これに応ずること。

 

 

遵守事項を守らなかった場合、保護観察所長が継続的な医療を実施することが難しいと判断すれば、地方裁判所に対して、入院の申立てをしなければなりません。

 

 

裁判所によって申立てが許可されると、入院決定が出され、指定入院医療機関に入院することになります。

 

 

医療観察法の社会復帰調整官とは?

保護観察所には対象者の社会復帰をサポートする専門職員がいます。この職員を社会復帰調整官といいます。社会復帰調整官は精神保健福祉士の資格を有しているのが通常です。

 

 

社会復帰調整官の仕事は次のとおりです。

 

 

対象者仕事の内容
審判前に鑑定を受けている方生活環境の調査
入院決定を受けた方退院後の生活環境の調整
通院決定を受けた方精神保健観察(治療状況や生活状況の見守り、必要な指導等)、関係機関との連携

 

 

医療観察制度の相談は弁護士へ

対象者や保護者は、弁護士を付添人として選任することができます。付添人として選任された弁護士は以下の活動を行うことができます。

 

 

①鑑定入院命令を阻止するために裁判官に意見書を提出する

②審判に立ち会い対象者のために意見を述べる

③入院決定が出た場合、高等裁判所に抗告し決定の取消しを求める

④入院決定が出た後に、地方裁判所に対して退院許可の申立てをする

⑤通院決定が出た場合、高等裁判所に抗告し決定の取消しを求める

⑥入院決定や通院決定が出た後に、地方裁判所に対して医療観察法による医療終了の申立てをする。

⑦入院先の病院で適正な処遇を受けていない場合、病院の管理者に改善を求める

⑧入院先の病院で適正な処遇を受けていない場合、厚生労働大臣に、病院の管理者に必要な措置をとるよう命ずることを求める

 

 

ウェルネスでは、責任能力の問題で無罪等になった方のご家族からのご相談を積極的にお受けしております。お困りの方はお気軽にウェルネス(03-5577-3613)まで電話ください。