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【少年事件】家庭裁判所調査官とは?活動内容や弁護士との違い
少年事件は、警察や検察で捜査がされた後、家庭裁判所に送致されます。
家庭裁判所の裁判官は、①少年が非行をしたかどうかを判断し、その上で、②非行をした少年が立ち直ることができるよう、個々の少年がおかれた状況に応じてふさわしい処分を下します。
【処分の具体例】
審判不開始 | 少年審判を開かないこと |
不処分 | 保護処分を実施しないこと |
保護観察 | 少年院には収容しないが、一定期間、国の監督下におくこと |
少年院送致 | 少年院に収容すること |
少年にふさわしい処分を下すために、家庭裁判所は少年事件を受理すると次の2つの調査をします。
①少年が非行事実を犯したか否かについての調査
②少年が更生するためにどのような処分が適切かについての調査
①の調査を法律調査といいます。法律調査は裁判官が行います。
②の調査は社会調査といいます。社会調査は、少年や家庭のプライバシーに踏み込んで行われるため、法律調査によって非行事実を認定できる場合に限って行われます。
社会調査を行なうのが家庭裁判所調査官です。
このページでは、「家庭裁判所調査官とはどのような人なのか?」、「家庭裁判所調査官は少年事件でどのようなことをするのか?」、「弁護士とはどのように違うのか?」といったことについて、弁護士 楠 洋一郎が解説しました。
家庭裁判所調査官とは
社会調査をするためには、少年ひとりひとりの性格や家庭環境、交友関係、学校・職場での状況などについて細かくリサーチし、少年が罪を犯した原因や立ち直りのための手立てを明らかにする必要があります。
そのための調査を行うのが家庭裁判所調査官です。家庭裁判所調査官は、少年事件の専門家として、心理学や社会学、児童福祉など幅広い分野の専門知識を活用して社会調査を行います。
家庭裁判所調査官になるためには、裁判所が実施する試験に合格した後、家庭裁判所調査官補として約2年の研修を受けることが必要です。
調査官の年齢は20代から50代まで様々で、男女比はほぼ半々です。職業柄、穏やかで話しやすい方が多いです。
少年事件における家庭裁判所調査官の活動
家庭裁判所調査官は、社会調査の一環としてつぎのような活動を行います。
1.少年との面接
家庭裁判所調査官の中心的な活動です。少年と面接し、事件についての受けとめ方、親や兄弟との関係、学校や職場での状況、将来の目標などをヒアリングします。
調査官の面接は取調べではありませんので、少年の話にもきちんと耳を傾けてくれます。刑事や検事と異なり、一方的な決めつけや誘導などはありません。少年は調査官と接して、威圧的な刑事や検事との違いに、よい意味で驚くことが多いです。
調査官は単にヒアリングをするだけでなく、少年に事件を振り返らせたり、被害者の気持を考えさせるといった教育的な働きかけも行います。
面接は家庭裁判所で実施されます。少年が観護処分を受け少年鑑別所に収容されている場合は、調査官が鑑別所を訪問し面接を行います。
面接の回数は、鑑別所に収容されている事件では3,4回、収容されていない事件では1,2回になることが多いです。面接時間は1回あたり1~2時間です。
少年が鑑別所に収容されていないケースでは、事前に調査官から自宅に少年照会書が送られてきますので、質問事項に回答した上で面接に臨みます。主な質問項目は次のとおりです。
【質問項目】 ・今回の事件を起こしたことで間違いないか ・なぜ今回の事件を起こしたのか ・被害者に対してどのような考えているか ・被害者への謝罪、弁償はいつ、どのように行ったか ・どんな点を反省したか ・二度と同様のことをしないためには、今度どうすればよいか ・学校や職場ではうまくいっているか ・学校や仕事以外の時間はどのように過ごしているか ・自分のことや家庭のことなどで心配なことはあるか ・別の事件で警察の取調べを受けたことがあるか |
どのように回答してよいかわからない場合は弁護士にご相談ください。
2.保護者との面接
家庭裁判所調査官は保護者とも面接します。少年の生育歴や生活状況、保護者の少年とのかかわり方をヒアリングし、事件の背景や、家庭内での更生が可能かどうかを調査します。
保護者にも責任を自覚させたり、少年に対する指導の仕方をアドバイスすることもあります。
保護者との面接は家庭裁判所で実施されます。1回2時間程度で終わることが多いです。少年が鑑別所に収容されていない場合は、保護者と少年に一緒に家庭裁判所に来てもらいます。
事前に調査官から自宅に保護者照会書が送られてきますので、質問事項に回答した上で面接に臨みます。主な質問項目は次のとおりです。
【質問項目】 ・家族の勤務先、月収、最終学歴 ・住居の状況(居住年数、借家か持ち家か、少年の部屋はあるか等) ・少年の幼少期の主な養育者 ・少年の発育状況 ・父母の養育態度(普通、厳しい、口うるさい、体罰あり等) ・少年の保育園入園から現在までの略歴 ・少年の性格、生活態度、家族関係、友達関係 ・今回の事件を起こした原因について思い当たること ・今後の指導方針 ・被害者に対する弁償・謝罪等の有無・方法 ・少年や家庭内のこと等について心配なこと ・処分に対する保護者の意見(「家庭の監督でやっていける」、「裁判所で相談したい」等) |
どのように回答してよいかわからない場合は弁護士にご相談ください。
3.学校照会
家庭裁判所調査官は、少年が過去に在籍していた学校や現在在籍している学校に、「学校照会書」という書面を送ります。
学校照会書には質問が記載されていますので、担任の先生や校長先生が照会書に回答を書き込んで、調査官に返送します。学校照会書に記載されている質問項目は次のとおりです。
【質問項目】 ・出欠の状況 ・科目ごとの取組み状況 ・クラブ部活動の状況 ・進路 ・学習態度 ・行動傾向 ・交友関係 ・保護者の状況 ・学年ごとの総合所見 |
少年のプライバシー保護のため、学校照会書には少年事件の内容は記載されていません。
とはいえ、現在在籍している学校が事件を把握していない場合、学校照会書がきっかけとなり、事件が学校に知られ退学や停学になることがあります。
そのようなケースでは、弁護士が調査官に学校照会をしないよう要請します。
4.少年調査票の作成
家庭裁判所調査官は、少年や保護者との面接、教育的措置、学校照会などに基づき、最終的な処分についての意見(「処遇意見」といいます)を書面にまとめて裁判官に提出します。この書面を少年調査票といいます。
【処遇意見の例】
「本少年に対しては、不処分決定(保護的措置)が相当と考える。」
「本少年に対しては、中等少年院送致決定を相当と考える。」
少年調査票には、処遇意見のほかに、非行の動機や非行に至る経緯、少年の生活史、家庭環境、保護者の姿勢、教育的措置の実施状況などが書かれています。
裁判官は調査官の意見を参考に処分を決めます。ほとんどの少年事件では、裁判官の処分は調査官の意見と全く同じになります。
そのため、弁護士が調査官とよくコミュニケーションをとり、事前に調査官の問題意識をくみ取った上で、適切な環境調整をして調査官にフィードバックすることが重要です。
例えば、調査官が「少年院に収容するべき」と考えているのであれば、弁護士が保護者と協力して少年の雇用先を見つけるなどして、社会の中で更生できる環境を整えておく必要があります。
5.少年審判への立ち会い
家庭裁判所調査官も少年審判に立ち会います。調査面接でのやりとりをふまえ、調査官が少年や保護者に質問をしたり、訓戒を行います。
審判前の調査面接は話しやすい雰囲気で行われますが、少年審判では厳粛な雰囲気のなかで、調査官が少年や保護者に反省や自覚を促します。
6.その他の活動
事件によっては、家庭裁判所調査官が講習会を主宰することがあります。
例えば、万引きの講習会では、店の従業員に来てもらい、万引き被害の実態などについて少年に話してもらいます。講習会の代わりにビデオ映像を見てもらうこともあります。
性犯罪、薬物犯罪など事件のタイプに応じて、改善のためのワークシートに取り組ませることもあります。
少年事件における家庭裁判所調査官と弁護士の違い
家庭裁判所調査官は、少年事件のエキスパートとして、心理学や教育学などの専門知識をベースに、少年にとってどのような処分がふさわしいかを調査します。
捜査機関とは異なり少年にとって有利な事情も考慮してくれますし、少年の内省を促し、改善のためのアドバイスもしてくれます。
「少年に寄り添い更生のために適切な処分を提案する」という点では、調査官の仕事は弁護士と類似しています。もっとも、調査官は、「調査に特化した裁判所の職員」という点で、コミットできる範囲に自ずと制限があります。
弁護士と調査官の違いは次の2点です。
1.積極的に動いてくれるかどうか
家庭裁判所調査官は、少年事件の専門家として、少年や保護者の話を聞いて、ふさわしい処分を調査しますが、処分が軽くなるよう積極的に動いてくれるわけではありません。
例えば、調査官が被害者と示談交渉をしてくれるわけではありません。また、雇い主に雇用継続を働きかけたり、学校に残れるよう教職員と交渉することもありません。
これらは調査官ではなく弁護士の仕事になります。
2.事実認定に関与するかどうか
調査官が調査を行うのは、非行事実を認定できるときに限られます。少年が「やっていない」と否認しているときに、「やったかやっていないか」を判断するのは裁判官の仕事です。
裁判官が「やった」と判断した場合に限って、調査官は少年の調査を行います。
弁護士であれば、少年が否認している場合、捜査段階で不利な調書をとられないようアドバイスをしたり、少年にとって有利な証拠を裁判所に提出することができます。
このように、否認している少年をサポートできるのは弁護士だけです。
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