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ストーカー犯罪の刑事弁護
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
目次
ストーカーとは
ストーカーと一口にいっても、つきまとったり、何度もメールを送信したりと様々な方法があります。犯罪として取り締まるためには、何がストーカー犯罪にあたるのかを厳密に定義しておく必要があります。
そこで、「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(ストーカー規制法)が犯罪となるストーカーについて細かく定めています。ストーカー規制法上の「ストーカー」とは、①「つきまとい等」を、②一定の不安を覚えさせるような方法により、③「反復継続」して行うことをいいます。
*以下では「ストーカー規制法に違反するストーカー」のことを「ストーカー」と表記しています。
ストーカーの要件①:「つきまとい等」
ストーカー規制法は、「つきまとい等」について、(1)目的、(2)対象、(3)行為の3つの面から規定しています。
(1)目的
つきまとい等が成立するためには、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する恨みの感情を満たすため」という目的が必要です。単なる嫌がらせ目的の場合は「つきまとい等」にはあたりませんが、都道府県の迷惑防止条例違反になる余地があります。
(2)対象
つきまとい等をする対象は、恋愛感情等を持っている相手だけではなく、その相手と次の関係にある方も含まれます。
対象 | 例 |
配偶者 | 夫、妻 |
直系の親族 | 祖父母、両親、子 |
同居の親族 | 同居している叔父、叔母、甥、姪 |
社会生活において密接な関係を有する者 | 友人、内縁の夫、婚約者 |
(3)行為
つきまとい等に該当する行為は次の8つです。
①接近 | つきまとい、待ち伏せ、立ちふさがり、住居・勤務先など相手のよくいる場所での見張り、よくいる場所へのおしかけ、よくいる場所の近くをみだりにうろつくこと |
②監視 | 相手の行動を監視していると思わせるようなことを告げ、または、その知りうる状態におくこと |
③強要 | 面会や交際など義務のないことを要求すること |
④暴言 | 著しく粗野または乱暴な言動をすること |
⑤連絡 | 無言電話、拒まれたのに、連続して、電話、FAX・電子メール、SNSで相手にメッセージを送信すること |
⑥嫌がらせ | 汚物や動物の死体など著しく不快感や嫌悪感を与える物を相手に送付し、またはその知り得る状態におくこと |
⑦名誉棄損 | 相手の名誉を害することを告げ、またはその知り得る状態におくこと |
⑧セクハラ | 相手の性的羞恥心を害することを告げもしくはその知り得る状態に置き、またはその性的羞恥心を害する文書・図画・DVD等を送付しもしくはその知り得る状態におき、またはその性的羞恥心を害する電磁的記録 |
ストーカーの要件②:不安を覚えさせる方法により行うこと
ストーカーが犯罪となるためには、つきまとい等が、「身体の安全、住居等の平穏、名誉が害され、または行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法」により行われる場合に限られます。
ただし、つきまとい等のうち、⑤の電話・FAXと⑥、⑦、⑧の行為は、通常、被害者に不安を覚えさせるものであることから、この要件は不要とされています。
ストーカーの要件③:反復して行うこと
ストーカーが犯罪になるためには、つきまとい等を反復して行うことが必要です。反復の有無は、行為の状況からケースごとに判断されます。5回とか10回とか具体的な回数が決まっているわけではありません。
回数については、「つきまとい等」にあたる①から⑧の行為を個別にカウントするのではなく、通算してカウントします。例えば、①から⑧の行為を全て1回ずつしていたときは、個別にカウントすると反復継続していたことにはなりませんが、通算すると合計8回ということになり、反復継続していたと評価される余地が十分にあります。
ストーカーの刑罰
ストーカーをした場合の刑罰は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
後で述べる禁止命令に違反してストーカーをした場合は、2年以下の懲役または200万円以下の罰金です。
つきまとい等と警告
「つきまとい等」をしただけでストーカーになるわけではありませんが、将来、ストーカーに発展するおそれが十分にあります。そこで、ストーカー規制法は、ストーカーの前段階である「つきまとい等」をして相手を不安にさせることを禁止しています。
この禁止に違反しても、刑罰を科されることはありません。もっとも、①被害者から申し出があり、②実際につきまとい等をしていたことが確認され、③その行為をさらに反復してするおそれがあると認められる場合、警察署長等から、さらに反復してその行為をしないよう警告することができます。
つきまとい等と禁止命令
都道府県の公安委員会は、つきまとい等をして相手を不安にさせた者が、さらに反復してその行為をするおそれがあると認めるときは、被害者からの申し出により、または職権で、さらに反復してその行為をしてはならないこと等を命令することができます。
これを禁止命令といいます。禁止命令に違反した場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金となります。禁止命令に違反してストーカー行為をした場合、2年以下の懲役または200万円以下の罰金となります。
ストーカーと告訴
ストーカー規制法違反は、被害者の告訴がなければ起訴することができない親告罪でしたが、2016年から起訴にあたって被害者の告訴が不要とされました。
被害者の判断次第で起訴するか否かが決まってくると、被害者が加害者の恨みの対象となったり、大きな精神的プレッシャーに直面することになるため、被害者の告訴は不要となりました。
ストーカーとその他の犯罪
ストーカー行為をする過程で次のような行為をしてしまった場合、別の犯罪で検挙されることがあります。
行為 | 犯罪 |
被害者の家に立ち入った | |
被害者に脅迫メールを送った | |
被害者に手を出した | |
被害者の後をつけながら盗撮した | 迷惑防止条例違反 |
被害者のパスワードを使ってサイトにアクセスした | 不正アクセス禁止法違反 |
ストーカー行為中に別の犯罪で検挙された場合、ストーカー規制法違反とその犯罪の2つが成立します。ただ、ストーカー規制法違反で被害届が受理される前に、別の犯罪で検挙された場合、ストーカー規制法違反では立件されないことも多いです。
ストーカー犯罪の弁護活動
ストーカーと謝罪
ストーカー事件では、加害者に直接対面して謝罪を受けたいと思っている被害者はいません。そこで、弁護士が被害者に謝罪文をお渡しする方法により謝罪することになります。
加害者は、被害者に強い思い入れを持っており、謝罪文にも、一方的な心情を書かれる方がいますが、それでは逆効果になってしまいます。被害者の不安を軽減するために、個人的な思いを過度に表に出さず、一定の距離感を保った上で、折り目正しく謝罪した方がよいでしょう。
被害者にお渡しする前に謝罪文を弁護士にチェックしてもらうことが必要です。
【不起訴を獲得するために】
弁護士が謝罪文の写しを検察官に提出します。
ストーカーと示談
ストーカー事件の被害者は、加害者に対して大きな恐怖感を抱いています。そのため、被害者との示談交渉は弁護士を通じて行うことが必須です。
被害者は加害者に対して、二度と関わってほしくないという気持ちを持っています。そのため、示談書には接触禁止条項を入れることになります。被害者がストーカー行為により引っ越しを余儀なくされた場合は、引っ越し費用を加味した示談金を提案します。
【不起訴を獲得するために】
弁護士が示談書を検察官に提出します。
ストーカーと治療
現在では、ストーカー気質は、乳幼児期に安定した親子関係を築けなかったために、他者との距離感をうまく調整できない心の病と捉えられています。加害者も、ストーキングにより本当の意味での充足感を得られないことをわかっていながらも、ストーキングをしないと不安や絶望感に駆られてしまい、問題行動を繰り返してしまいます。
ストーカー気質は心の病であり、自分の意識だけでストーキングをやめることは容易ではありません。何度も逮捕され、本人や家族の人生に大きな支障が生じるケースもあります。ストーカー治療の経験のある精神科に継続的に通院し、根本的な更生を目指します。
【不起訴を獲得するために】
医療機関のカルテや医師の意見書を検察官に提出します。
ストーカーと家族のサポート
加害者がストーキングをやめるためには、家族の協力が必要です。
ストーキングは、万引きのように瞬間的に行われるものではなく、反復継続して行われる犯罪です。そのため、家族としても、本人の生活パターンを把握し、まめにコミュニケーションをとることにより、ストーキングを未然に防止できる余地が十分にあります。
また、精神科に通院する際の医療費を支援したり、通院の際付き添う等してサポートすることも有用です。
ストーカーと弁護士
ストーカー犯罪では、加害者側に弁護士がつくことは被害者にとっても安心材料になります。もっとも、ストーカー犯罪のケースでは、加害者側の弁護を受任してくれない弁護士もいます。
ウェルネスの弁護士は、ストーカー犯罪についても、積極的に加害者弁護を受任しております。ストーカー犯罪を起こしてしまった方や逮捕された方のご家族は、お気軽にウェルネスまでお電話ください。