賭けマージャンは賭博罪になる?

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しました。

 

 

東京高検検事長の黒川弘務検事長が賭けマージャンをしたとして、法務省から訓告処分を受け、辞職しました。

 

☑ 訓告では甘すぎる!

☑ 犯罪であり厳しく処罰すべき!

☑ 上級国民だから逮捕されないのか?

 

ネット上にもこのような国民の声が溢れています。

 

それでは、黒川検事長の賭けマージャンは賭博罪にあたるのでしょうか?弁護士がわかりやすく説明してきます。

 

賭博はれっきとした犯罪

賭博罪は刑法に規定されたれっきとした犯罪行為です。それでは、刑法で賭博罪がどのように規定されているのかを見てみましょう。

 

【刑法186条】

賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

 

科料というのは1万円未満の財産刑です。

 

容疑者が賭博を認めているときは、TVの法廷ドラマでみるような正式裁判ではなく、法廷に行く必要のない略式裁判で審理されることが多いです。

 

罰金にせよ科料にせよ、確定すれば前科がつきます。

 

賭博罪の「賭博」とは?-偶然性がポイント

賭博罪の「賭博」とは、偶然によって生じる事象について、お金など財産的に価値があるものをかけて勝敗を争うことです。

 

【偶然によって生じるものの例】

花札、トランプ、将棋、スポーツの勝敗、株式相場の変動など

 

競馬や競輪、オートレースも賭博にあたりますが、公営ギャンブルとして認められています。

 

マージャンについても、結果が偶然に支配されることから、お金を賭けると賭博罪になる可能性があります。

 

賭けマージャンに参加している者の間で実力に違いがあっても、結果が多少とも偶然に左右されていれば、賭博罪になり得ます。

 

賭博罪-お金を賭けたら即アウト?

偶然に支配されるものについて、お金を賭ければ金額や状況にかかわらず賭博罪になるわけではありません。

 

賭博罪の条文には、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」は処罰しないと明記されています。

それでは、「一時の娯楽に供する物」とはどのような物でしょうか?

 

判例は、①価値の大小と②消費スピードの2点を重視して、一時の娯楽に供する物かどうかを判断しています。

 

例えば、お菓子など価値の小さいものや、その日の食事などすぐに消費してしまうものを賭けた場合、一時の娯楽に供する物と判断されやすいでしょう。

 

お金については、貯めることができるので、一時の娯楽に供する物とはいえないとされています。

 

もっとも、ジュース代として少額のお金を賭けて、すぐにそのお金でジュースを買った場合など、金額が低くすぐに消費したと評価できるケースでは、「一時の娯楽に供する物」と言うことができます。

 

黒川検事長の賭けマージャンはアウト?セーフ?

報道では、黒川検事長は新聞記者らと月に2,3回賭けマージャンを行い、最大で月に2万円程度の勝ち負けが発生していたということです。

 

報道によれば、賭けのレートはテンピン(1000点で100円)とのことですので、高額とまでは言えないでしょう。

 

もっとも、報道では、深夜まで賭けマージャンをしていたとのことですので、すぐにお金を使ったとは考えづらく、「一時の」娯楽に提供する物を賭けたとは言えません。

 

そのため、賭博罪が成立する可能性が高いです。報道にあるとおり、月に2,3回賭けマージャンをしていたのであれば、常習賭博罪が成立します。常習賭博罪の刑罰は、ふつうの賭博罪よりもずっと重く、3年以下の懲役です。

 

賭けマージャンをしても常に処罰されるわけではない

賭けマージャンで賭博罪が成立する場合でも、実際に処罰されることはほとんどありません。

 

賭けマージャンは密室で行われることが多く、摘発するのが難しいためです。また、賭博罪は「社会の健全な勤労意欲」を保護していますが、ハイレートの賭けマージャンでない限り、社会に対する影響は小さいからです。

 

そのため、賭けマージャン絡みで逮捕・起訴されるのは、一晩で大金が動くようなケースや、社会的影響が大きいと考えられるケースです。

 

黒川検事長の賭けマージャンについてみると、「一晩で大金が動く」ようなケースではないものの、検察ナンバーツーである東京高検検事長(当時)という立場を考えると、社会的な影響は決して無視できません。そのため、今後の世論の動向などによっては、刑事事件として立件され、処罰される可能性もあります。

 

【関連ページ】

上級国民は逮捕されない?