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侮辱罪とは?厳罰化の4つの影響や慰謝料の相場について解説
テラスハウスに出演していた女子プロレスラーの木村花さんがネット中傷を苦に自殺したことがきっかけで、SNSでの中傷被害がクローズアップされました。
テラスハウス事件で、木村花さんをネットで中傷した人間は300名に上りますが、実際に侮辱罪で起訴されたのは2名のみで、判決も科料9000円と非常に軽いものでした。
そのため、「侮辱罪の刑罰が軽すぎるのでは?」と問題になり、法務大臣が侮辱罪を厳罰化する刑法改正を法制審議会に諮問しました。
このページでは刑事事件に詳しい弁護士が、侮辱罪の要件や刑罰、厳罰化の影響、慰謝料の相場などについて解説しました。ぜひ参考にしてみてください。
侮辱罪の要件
侮辱罪の要件は公然と人を侮辱することです。「公然」とは、不特定多数の人が認識できる状態のことです。実際に認識している必要まではありません。
ネット上の誹謗中傷は誰でも見ることができるため、公然性があるといえます。LINEやメール、電話等の1対1の通信で侮辱した場合は、公然性がないことになります。
侮辱罪と似た犯罪として名誉棄損罪があります。侮辱罪と名誉棄損罪の区別は、事実を指摘したか否かです。事実を指摘していれば名誉棄損罪になりますが、事実の指摘がなく抽象的な表現であれば侮辱罪になります。
【侮辱の例】
「死ね」、「きもい」、「変態」
【名誉毀損の例】
「強制わいせつの前科がある」、「売春をしている」、「同僚の○〇さんと不倫している」
【関連ページ】名誉毀損とは?侮辱罪との違いや慰謝料の相場【事例あり】
侮辱罪の刑罰
侮辱罪の刑罰は「拘留」(こうりゅう)または「科料」(かりょう)です。拘留とは刑事施設に1日から1か月未満の間、拘置することです。懲役のように労働を強制されるわけではありません。
科料とは1000円以上1万円未満の財産刑です。数十万円になることが多い罰金とくらべると非常に低い金額です。
刑法では主刑の重さについて、重いものから順に、死刑→懲役→禁錮→罰金→拘留→科料と定めています。侮辱罪の刑罰は、最も軽い科料と2番目に軽い拘留しかありません。
拘留も科料も軽い刑罰のため、懲役や禁錮のように執行猶予はありません。ただ、どちらも軽いとはいえ前科はつきますので注意が必要です。
⇒前科とは?前歴との違いや5つのデメリット、結婚・就職に影響は?
侮辱罪での逮捕はまずない
侮辱罪で逮捕されるケースはめったにありません。その理由は、刑事手続についての法律で、侮辱罪のように拘留と科料にあたる罪については、以下の2つのどちらかに該当する場合を除いて逮捕できないと定められているためです。
①被疑者が定まった住居を有しない場合
②正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合
テラスハウス事件でも、木村花さんに中傷メッセージを送った人は多数いますが、侮辱罪で逮捕された人は一人もいませんでした。
侮辱罪での拘留はまずない
侮辱罪の刑罰は科料か拘留ですが、執行猶予中であるとか、同種の前科がなければ、拘留になることはまずありません。
そもそも、侮辱罪に限らず他の犯罪も含め、拘留に処されることはほとんどありません。2020年の検察統計年報によれば、同年に拘留になり刑事施設に拘置された人は、全ての犯罪でわずか5人しかいません。懲役で実刑になった人が1万5000人超ですので、いかに少ないかがおわかりでしょう。
テラスハウス事件でも誰ひとり拘留になった人はいませんでした。
侮辱罪で科料になるケース
侮辱罪で処罰される場合は科料になる可能性が非常に高いです。侮辱罪で科料になるのは、主として被害者と示談できなかったケースです。この場合、検察官から略式起訴され、略式裁判で科料となることが多いです。
裁判というと法廷ドラマで見るようなシーンを想像しがちですが、略式裁判ではそもそも法廷が開かれません。裁判官が執務室で侮辱罪の証拠を検討しいくらの科料にするかを決めます。金額は9000円か9999円になることが多いです。
テラスハウス事件はマスコミで大きく取り上げられましたが、非公開の略式裁判で審理されたため、マスコミが法廷に押し寄せることもなく、「科料9000円」という裁判の結果が報道されただけでした。
⇒略式裁判とは?正式裁判との違いや拒否すべきかを弁護士が解説
侮辱罪の時効
侮辱罪の時効は1年です。ネット掲示板やSNSに被害者を侮辱するメッセージを投稿した場合は、メッセージが削除されない限り侮辱が続いているため、時効は進みません。
メッセージをネットから削除すれば時効が進行しますが、ネット上の侮辱については、発信者を開示する手続にかなりの時間がかかってしまうため、結果的に1年の時効が経過してしまい起訴できないこともあります。
テラスハウス事件でも、約300人がネット上で木村さんを中傷しましたが、実際に侮辱罪で起訴されたのは2人だけでした。
侮辱罪の厳罰化
ネット上の誹謗中傷が社会問題になっていますが、侮辱罪の刑罰が軽すぎるため、抑止効果が期待できません。また、侮辱罪の時効が1年しかないため、時間切れで起訴できないケースも少なくありません。
そのため、侮辱罪の厳罰化を求める声が高まり、上川法務大臣が法制審議会に侮辱罪の厳罰化を諮問しました。侮辱罪の現在の刑罰と法制審議会に諮問している新たな刑罰案をまとめました。
現在の刑罰 | ①拘留、②科料 |
新たな刑罰案 | ①1年以下の懲役、②1年以下の禁錮、③拘留、④科料 |
侮辱罪の厳罰化による4つの影響
侮辱罪が厳罰化されることによる影響は以下の4つです。
1.逮捕されやすくなる
現在は侮辱罪を逮捕できるケースは住居不定と出頭要請に応じない場合の2つに限られますが、侮辱罪が厳罰化され、懲役と禁錮が追加されれば、そのような制限はなくなりますので、逮捕されやすくなるといえるでしょう。
2.公開裁判で審理されやすくなる
侮辱罪の新たな刑罰案には懲役刑や禁錮刑が含まれますが、非公開の略式裁判では懲役刑や禁錮刑を科すことができません。そのため、検察官が懲役刑や禁錮刑がふさわしいと判断した時は、公判請求して公開裁判での審理を求めます。
3.実名報道されやすくなる
現在は侮辱罪で逮捕されたり公開裁判で審理されることが極めてまれなため、実名で報道されることはありませんが、懲役刑や禁錮刑が加わると逮捕や公開裁判をする道が開けますので、一般の方であっても実名報道されるリスクがあります。
4.時効逃げ切りが難しくなる
侮辱罪の時効は1年ですが、懲役・禁錮1年の刑が加わると、時効が3年に伸びます。そのため、発信者を特定している間に時効になってしまうケースが少なくなり、侮辱罪で起訴されるケースが増えると思われます。
侮辱罪で前科をつけないために
ネット上の誹謗中傷は、加害者は軽い気持ちで行ったことであっても、被害者の心に大きな傷を与えてしまいます。まずは被害者にお詫びをした上で、慰謝料を支払って示談をするべきです。
侮辱罪は「親告罪」といって、告訴がなければ起訴できない犯罪ですので、示談をして告訴を取り消してもらえれば、確実に不起訴になります。
ただ、被害者が芸能人の場合は、そもそも示談交渉に入るのが難しいことも多いです。その場合でも、反省文を作成したり、贖罪寄付をすることにより、不起訴を獲得できることもあります。まずは弁護士にご相談ください。
侮辱罪の慰謝料の相場
ネット中傷のケースでは、加害者も被害者も一般人の場合は、慰謝料の相場は10万円から30万円前後です。
ただ、ネット中傷によって被害者の仕事や生活に現実の影響が生じている場合や、精神的なダメージが大きく心療内科に通院している場合は、より高額になることもあります。
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しました。