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痴漢事件の示談について弁護士が解説

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

痴漢事件における示談の意味

痴漢したことを認めている自白事件については、被害者と示談できたかどうかで、最終的な処分が大きく異なってきます。

 

示談をすることができた場合は、初犯の方であれば、不起訴になる可能性が非常に高いです。前科がある方でも、過去5年以内に性犯罪の前科がなければ、不起訴になる余地は十分にあります。

 

不起訴は「処罰しない」という意味ですので、前科はつきません。

 

一方、被害者と示談できなかった場合は、初犯の方でも、起訴されて前科がつく可能性が高いです。迷惑防止条例違反であれば、略式裁判で罰金刑になります。強制わいせつであれば、正式裁判となり、検察官から懲役刑を請求されることになります。

 

【痴漢したときに成立する犯罪】

①下着の中に手を入れる等悪質なケース…強制わいせつ(懲役6ヶ月~10年)

②それ以外のケース…都道府県の迷惑防止条例違反(東京都では50万円以下の罰金or 6ヶ月以下の懲役)

 

どうして示談の有無によって処分が違ってくるのでしょうか?

 

痴漢によって最も影響を受けたのは被害者です。そのため、検察官は、加害者の処分を決めるにあたり被害者の処罰感情を最も重視します。

 

示談書の中に「被害者は加害者を許す。」という文言が入っていれば、被害者は厳しい処罰感情をもっていないということになります。そのため、不起訴になる可能性が高くなります。

 

初犯の方であれば、「許す」という文言が入った示談書に署名・捺印してもらえれば、100%近くの割合で不起訴になります。

 

ウェルネスの弁護士も痴漢の自白事件を100件以上担当してきましたが、初犯で示談がとれたケースで、不起訴にならなかったことは1件もありませんでした。

 

痴漢事件の示談金の相場

痴漢の示談金の相場は30万円から50万円前後です。

 

以前は10万円程度で示談がまとまることもありましたが、現在は被害者側もインターネットで「痴漢 示談金 相場」などのワードで検索し、示談金の相場をリサーチしてから交渉に臨む方が多いため、10万円前後で示談がまとまる可能性は低いです。逆に相場を大きく超える金額を要求されることもほとんどありません。

 

ウェルネスの弁護士は、ほとんどの痴漢事件のケースで30万円から50万円の範囲で示談をまとめています。

 

痴漢事件の示談-まとまる確率は?

「どれくらいの確率で示談がまとまりますか?」-痴漢をしてしまったご相談者の方からこのような質問を受けることがよくあります。

 

結論から言うと、被害者の電話番号を教えてもらえると極めて高い可能性で示談がまとまります

 

被害者が加害者の弁護士に電話番号を教えるということは、「示談の話を聞いてもよい。」ということを意味します。

 

もちろん痴漢という犯罪行為をしているわけですから、どの被害者も不安な気持ちや怒りの感情をもっています。そのため、1日、2日で示談がまとまることは少ないです。弁護士が示談の提案をしても、すぐに受けてもらえないこともありますし、示談金についてすぐに納得してもらえないこともあります。

 

しかし、痴漢の被害者の電話番号を教えてもらったケースでは最終的には極めて高い可能性で示談がまとまります。ウェルネスの弁護士も、電話番号を教えてもらったケースでは、ほとんど全てのケースで示談をまとめてきました。

 

他の法律事務所でも同様の傾向だと思われます。女性弁護士や元検察官だから示談の成功率が上がるというわけでもなく、電話番号を教えてもらった時点で、どの弁護士が担当しても示談の成功率は非常に高いと思われます。

 

逆に痴漢の被害者から電話番号を教えてもらえないと、話をする機会をもてないため、示談をまとめることはできません。

 

そのため、被害者の電話番号を教えてもらうことができるかどうかが決定的に重要になります。

 

被害者が電話番号を教えてくれる確率は、痴漢事件の場合、90パーセント前後です。被害者が未成年の場合は、示談交渉の窓口は保護者になりますが、保護者が電話番号を教えてくれる確率は、成人のケースよりやや低くなる傾向があります。

 

痴漢事件で弁護士なしの示談は困難

痴漢事件の示談は、被害者から電話番号を教えてもらえるかどうかにかかっています。

 

ただ、痴漢の加害者本人が被害者の電話番号を知ることはできません。痴漢のような性犯罪の被害者は、自分の個人情報が加害者本人に知られることを最も恐れているからです。

 

そのため、警察や検察が加害者本人に被害者の電話番号などの個人情報を教えることはありません。被害者と示談交渉するためには、弁護士を立てる必要があります。

 

痴漢事件の示談の流れ

 痴漢事件の示談の流れは次の通りです。

 

①痴漢事件が発生する。

②加害者またはご家族が弁護士に依頼する。

③弁護士が警察の担当者に被害者への取次ぎを依頼する。送検されている場合は検察官に取次ぎを依頼する。

④担当者が痴漢の被害者に電話して、「弁護士が示談の話をしたいので電話番号を教えてもらえませんかと言っていますがどうしますか?」と確認する。

⑤被害者が電話番号を教えてもいいと言えば、弁護士限りで担当者から電話番号を教えてもらえる。

⑥弁護士が被害者に電話して示談交渉に入る。

⑦示談の話がまとまる。

⑧加害者から弁護士の預り金口座に示談金を振り込んでもらう。

⑨示談書への署名・捺印とひきかえに弁護士が被害者に示談金をお渡しする。

 

①から⑤までの所要時間は早ければ1日です。ただ、被害者も学生であったり、仕事をしていますので、捜査機関の担当者が電話してもなかなかつながらないことがあります。電話がつながっても、「家族と相談して考えたい。」という方もいます。そのため1週間前後かかることもあります。

 

⑥の示談交渉の期間は、事件によってケースバイケースです。早いときは数日で示談の話がまとまりますが、被害者によっては1か月以上かかることもあります。加害者側としては1日も早く示談をまとめたいところですが、せかすと逆効果になりかねませんので慎重に対応します。

 

検察官から「〇月〇日までに示談してください。」等と期限を切られていない限り、なるべく被害者のペースにあわせて交渉した方がよいでしょう。

 

示談金の額が決まった時点で加害者から弁護士に示談金を振り込んでもらい、弁護士が被害者と面談し、示談書への署名・捺印とひきかえに示談金をお渡しします。

 

示談書を被害者の自宅にお送りし、署名捺印後に弁護士事務所に返送してもらい、示談金は銀行振込みの方法でお支払いすることもあります。

 

この場合でも加害者から弁護士に示談金を送金してもらい、弁護士が被害者に示談金を振り込みます。銀行口座も個人情報ですので、被害者は加害者に口座を知られたくないと思っているからです。

 

示談が成立すれば、示談書と示談金の領収証を警察の担当者に提出します。送検されていれば、検察官に提出します。痴漢事件のケースでは、初犯の方であれば、特に意見書などを提出しなくても、示談書と領収証を提出するだけで不起訴になるでしょう。

 

痴漢事件の示談書

痴漢事件の典型的な示談書は次の通りです。

 

 

示 談 書

 

 〇〇(以下「甲」という)と 〇〇(以下「乙」という)との間において、令和〇年〇月〇日、〇〇駅から〇〇駅の間を進行中の電車内において発生した、甲を被害者、乙を加害者とする痴漢事件(以下「本件」という)につき、以下のように示談が成立したので、示談成立の証として本書面2通を作成し、甲及び乙代理人各1通ずつ保管する。

1 乙は、甲に対し、本件について深く謝罪し、甲はこれを受け入れる。

2 乙は、甲に対し、本件の示談金として、金〇万円の支払義務があることを認める。 

3 乙は、甲に対し、前項の金〇万円を本日支払い、甲はこれを受領した。

4 乙は、甲に対し、今後、故意に甲に近づかないことを誓約する。

5 甲と乙は、本件及び本示談書の内容につき、捜査機関の担当者に開示するなど合理的な理由のある場合を除き、第三者(甲乙の家族を除く)へ開示しないことを誓約する。

6 甲は、本件について、乙を許すこととし、乙の刑事処罰を求めない。

7 甲と乙は、本示談書記載のほか、甲乙間に何らの債権債務が存しないことを相互に確認する。

以 上

 令和  年  月  日

(甲)

 

 

(乙代理人)

 

 

 

 

「許す」という言葉が一番大事

示談書の第6項に「許す」という文言がありますが、これが最も重要です。

 

被害届の取下げはしてもしなくても起訴・不起訴の処分に影響はありません。仮に被害届の取り下げをしてもらうのであれば、第6項は「甲は、本件について、乙を許すこととし、捜査機関に提出した被害届を取り下げる。」とすればよいでしょう。

 

ただ、痴漢の被害者にとっては、「示談はしてもよいが被害届の取下げまではしたくない。」という方もいますので、取下げを求めるかどうかは弁護士と相談して慎重に検討した方がよいでしょう。

 

電車の利用制限について

痴漢は電車内で発生することが多い犯罪です。そのため、被害者から、「加害者に会いたくないので、もう〇〇線には乗らないでもらいたい。」と言われることがあります。その場合は、示談書に以下の条項を加えます。

 

乙は、甲に対し、今後、災害発生時など緊急やむを得ない場合を除き、〇〇線を利用しないことを誓約する。

 

もっとも、加害者の仕事や生活環境によっては、痴漢事件を起こした路線を利用せざるを得ない場合もあるでしょう。その場合は、全面的な利用制限ではなく、時間帯や車両を制限した上で利用させてもらえるよう、弁護士が被害者と交渉します。示談書には次のような条項を入れます。

 

【時間制限】

乙は、甲に対し、平日(12月31日から1月3日を除く)の午前〇時から午後〇時までの間、〇〇線の上り電車に乗車しないことを誓約する。

 

【車両制限】

乙は、甲に対し、〇〇線の電車に乗車する際は、最後尾の車両(最後尾の車両が女性専用車両の場合はその隣の車両)以外の車両に乗車しないことを誓約する。

 

違約金について

被害者から、「示談書で約束を決めても本当に守ってもらえるかわからないですよね?」等と言われた場合、履行確保の手段として、示談書に以下のような違約金の条項を付加します。

 

乙が前項に違反した場合、乙は、甲に対し、違約金として、違反行為1回につき金〇万円を支払う。

 

加害者側から「〇〇線を利用していないのに、被害者が勘違いで私が乗っていたと言ってきた場合でも、違約金を払わないといけないんですか?」と質問されることがありますが、被害者が単に「加害者が乗っていた」というだけで、違約金の支払い義務が発生するわけではありません。

 

違約金の請求が認められるためには、実際に加害者が当該路線に乗車している状況を撮影した写真など客観的な証拠が必要となるでしょう。

 

痴漢事件の示談と個人情報

1.被害者側の個人情報

痴漢の被害者は、加害者側に氏名・住所・電話番号などの個人情報が伝わることを非常におそれています。

 

そのため、依頼者には示談書に記載されている被害者の個人情報をマスキングした写しをお渡しし、原本は弁護士が保管します。

 

【依頼者にお渡しする示談書】

 

示 談 書

 

 〇〇〇〇〇(以下「甲」という)と 山田太郎(以下「乙」という)との間において、令和〇年〇月〇日、〇〇駅から〇〇駅の間を進行中の電車内において発生した、甲を被害者、乙を加害者とする痴漢事件(以下「本件」という)につき、以下のように示談が成立したので、示談成立の証として本書面2通を作成し、甲及び乙代理人各1通ずつ保管する。

 

省略

 

以 上

令和〇年〇月〇日

(甲)

東京都千代田区1-1-1-101 ←被害者の住所

神田花子   印    ←被害者の氏名と印影

 

(乙代理人)

東京都千代田区神田美土代町11-1神田KMビル

ウェルネス法律事務所

 

弁護士 楠 洋一郎

 

 

2.加害者側の個人情報

痴漢の被害者から弁護士に対して、「加害者の住所を教えてください。」とか「勤め先を教えてください。」と言われることがありますが、通常は教えません。罪を犯した人であってもプライバシーは保護されるべきだからです。

 

ただ、被害者が強く要請する場合には、加害者の許可を得た上で、「東京の北の方に住んでいます。」とか「メーカーで経理の仕事をしています。」等と個人を特定できない形で情報開示をすることはあります。

 

年齢に関しては直ちに個人の特定につながらないので、被害者から聞かれた場合は、「〇歳の方です。」、「30代前半です。」等とお話しすることが多いです。

 

氏名については、加害者から「氏名を明かさないで示談できないですか?」と聞かれることもありますが、現実的ではありません。

 

痴漢の被害者が加害者のことを知っているかどうかで事件の筋が変わってくるため、警察は捜査段階で加害者の氏名を被害者に伝えた上で、知っている人間かどうかを確認しているからです。警察が作成して被害者がサインする被害届にも加害者の氏名が記載されています。

 

痴漢事件の示談の成功率を上げるための取り組み

痴漢事件で示談が成功するかどうかは、被害者から電話番号を教えてもらえるか否かにかかっています。

 

ウェルネスの弁護士は、もし被害者から電話番号を教えてもらえなかったとしても、そこであきらめるのではなく、検察官に以下のような上申書を提出しています。

 

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被疑事件  

被疑者 〇〇

上 申 書

 

令和〇年〇月〇日

〇〇地方検察庁

検察官 〇〇 殿

上記被疑者弁護人 弁護士 楠 洋一郎

 

 頭書被疑者に対する標記被疑事件について、被害者に下記事項をお伝えいただきますよう、お願い申し上げます。

1.加害者は全面的に容疑を認め、弁護士を通じて謝罪させていただくことを希望しおります。

2.被害者の個人情報(お名前、ご住所、電話番号、メールアドレス、銀行口座情報など)は、当職において、責任をもって管理し、加害者側には一切開示しません。

3.示談金として〇万円をお支払いさせていただければと存じます。銀行振込によるお支払も可能です。

4.ご多忙であれば、メールでのやりとりも可能です(ヤフーメール等のフリーメールでも結構です)。必ずしも弁護士とお会いしていただく必要はありません。

5.よろしければ弁護士限りでお電話番号をご教示いただければと存じます。

 

もし、お電話番号をご教示いただけない場合は、当職の氏名と電話番号を被害者にお伝えいただければと存じます。よろしくお願い申し上げます。

以 上

 

痴漢の被害者が最も恐れているのは、氏名や住所などの個人情報が加害者側に知られてしまうことです。そのような不安を払拭するために、弁護士が個人情報を責任をもって管理する旨記載しています。

 

また、被害者によっては、「忙しいのに弁護士と何度もあって話をするのはめんどくさい。」と思っている方もいます。そのため、メールでやりとりできることや銀行振り込みで示談金をお支払いできることについても触れています。

 

このように被害者の不安な気持ちや負担感を軽くすることによって、電話番号を教えてもらえ、示談が成立することも多々あります。

 

痴漢事件の示談と弁護士費用

痴漢事件の弁護士費用には、示談金は含まれていません。そのため、加害者が負担する金額は<弁護士費用+示談金>となります。

 

前述したように、痴漢事件の示談は、被害者が電話番号を教えてくれるかどうかにかかっています。

 

そのためウェルネスでは、送検された痴漢事件について、着手金を万円(税別、以下同じ)に設定し、電話番号を教えてもらえた場合に限り、示談交渉の着手金として15万円をお支払いいただいております。不起訴の報酬金は20万円です。

 

こうすることによりご依頼者の負担を最小化しております。

 

 

痴漢事件で弁護士をお探しの方はお気軽にウェルネス法律事務所(03-5577-3613)までお電話ください。