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虚偽告訴罪について弁護士が解説
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
虚偽告訴罪の構成要件
犯罪が成立するための要件を構成要件といいます。
虚偽告訴罪の構成要件は、①人に刑事または懲戒処分を受けさせる目的で、②虚偽の告訴、告発その他の申告をすることです。
虚偽告訴罪の対象
虚偽告訴罪の対象になるのは、自分以外の人です。会社等の法人も含まれます。自分自身は対象にならないため、自分で犯人のふりをして警察に申告しても虚偽告訴罪にはなりません。
また、実在しない人物が犯人であるとして申告しても虚偽告訴罪にはなりません。これらの場合は、「虚構の犯罪を公務員に申し出た者」として軽犯罪法違反になります。
真犯人の身代わりとして警察に申し出た場合は、虚偽告訴罪にはなりませんが、犯人隠避罪が成立します。
虚偽告訴罪の「告訴」「告発」とは
告訴・告発とは、一定の者が、捜査機関に対し、犯罪事実を申告し、訴追を求める意思表示です。
被害者が行うのが告訴、第三者が行うのが告発です。告訴や告発でなくても、警察等への申告だけでも虚偽告訴罪になり得ます。
虚偽告訴罪の「虚偽」とは
虚偽告訴罪の虚偽とは、申告の内容が客観的な真実に反することをいいます。
「虚偽告訴したつもりが予想に反して犯人だった」という場合は、客観的に真実である以上、国の審判作用を侵害するおそれはなく、虚偽告訴罪は成立しません。
【偽証罪との比較】 法廷で宣誓した証人が虚偽の陳述をすると偽証罪が成立します。偽証罪における「虚偽」とは、客観的に真実かどうかではなく、自己の記憶に反することをいいます。
そのため、「自己の記憶に反することを言ったが結果的には真実だった」という場合は虚偽の要件を満たすことになります。 |
思い込みで虚偽告訴罪になる?
「あいつが犯人に違いない!」
そう思って警察に訴えたものの、後で勘違いだったことが判明した場合、訴えた人は虚偽告訴罪になるのでしょうか?
虚偽告訴罪が成立するのは、警察等への申告が客観的に虚偽であり、かつ、申告者が虚偽であるとわかっていた場合です。
犯人だと勘違いして申告した場合は、申告者に虚偽であることの認識がありませんので、虚偽告訴罪は成立しません。
未必の故意でも虚偽告訴罪になる
「もしかしたら犯人ではないかもしれないが、それでもいい。」と思って、警察に訴えた場合は、虚偽告訴罪は成立するでしょうか?
結論からいうと、この場合でも虚偽告訴罪は成立します。
虚偽告訴罪が成立するためには、申告が虚偽であることの認識、すなわち故意が必要ですが、故意の程度としては未必の故意で足りるとされているからです。
未必の故意とは「〇〇かもしれないが、それでもいい。」という心理状態です。
あやふやな認識で他人を名指しして申告すると、犯人でなかった場合に虚偽告訴罪になってしまうリスクがありますので、被害申告の際はご注意ください。
虚偽告訴罪の罰金は?
虚偽告訴罪には罰金刑はありません。罰則は3か月以上10年以下の懲役です。虚偽告訴は、国の捜査や審判を誤らせるだけではなく、個人を破滅させかねない行為ですので、罰金で済む犯罪ではないのです。
虚偽告訴罪には懲役刑しかないので、起訴されれば正式裁判で審理され、検察官から懲役刑を請求されることになります。
虚偽告訴罪は執行猶予?実刑?
虚偽告訴罪で起訴されると、初犯の方でも執行猶予がつかず実刑になることがあります。初犯でいきなり実刑になるケースは、虚偽告訴により名指しされた人が逮捕・勾留されたケースです。
逮捕・勾留だけではなく、勤務先を懲戒解雇されたり、実名報道された場合は、非常に大きなダメージを負わせたことになるため、実刑になる可能性が高いです。
一方、虚偽告訴をしても、名指しされた人が1,2回取調べを受けただけで虚偽であることが判明した場合は、執行猶予になる可能性が高いといえます。
虚偽告訴罪の時効
虚偽告訴罪の時効は7年です。
虚偽告訴罪の事例
1.交通事故絡みのケース
物損事故の被害者が、加害者に対して損害賠償を請求するために、共犯者2名と共同で、人身事故を装って、現場に到着した警察官に「首が痛い。」等と虚偽の申告をした事件。 |
【判決】懲役1年の実刑
【被告人に不利な事情】
・共犯者と口裏合わせを重ねていたこと
・第三者にお金を払って証人に仕立て上げたこと
・入院した上で虚偽の主張を繰り返したこと
・累犯前科があること
【酌むべき事情】
・飲酒の上の偶発的な犯行であること
2.性犯罪のケース
妻が新婚の夫に構ってもらいたいと思い、強制わいせつの被害にあったと嘘をついたところ、夫が真に受け警察に通報すると言ったことから引っ込みがつかなくなり、自宅を訪ねてきたことがある男性を犯人に仕立て上げ、警察に告訴した事件。 |
【判決】懲役1年の実刑
【被告人に不利な事情】
・男性が強制わいせつで逮捕・勾留され19日にわたって身柄拘束された
・濡れ衣を着せられて名誉を棄損された
・経営していた会社の事業を維持できなくなった。
・女性に対して民事訴訟を提起し勝訴が確定したが、多大な労力と費用がかかった。
【酌むべき事情】
・最終的には事実を認め反省の態度を示している
・当初から虚偽告訴を意図していたわけではない
・前科前歴がない
・被告人の父が被告人に代わって男性に150万円を支払った
虚偽告訴罪の弁護活動
虚偽告訴罪は、国の審判作用を保護する犯罪ですが、虚偽告訴を受けた被害者個人の利益も保護しています。そのため、被害者との間で示談が成立すれば、不起訴や執行猶予の可能性が高まります。
被害者は虚偽告訴によって、名誉を侵害され、精神的・肉体的・経済的に大きなダメージを受けています。示談をまとめるためには、被害者に真摯にお詫びして、十分な被害弁償を行うことが必要です。