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危険運転致死傷(赤信号の殊更無視)

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

赤信号無視による危険運転致死傷の刑罰

赤信号無視による危険運転致死傷の刑罰は次の通りです。

 

①人を負傷させた場合…15年以下の懲役

②人を死亡させた場合…1年~20年の懲役

 

赤信号無視による危険運転致死傷の要件

赤信号無視による危険運転致死傷の要件は次の4つです。

 

① 赤信号を殊更に無視する

② 重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する

③ 赤信号に気づいた時点で車を安全な場所に停車することができたにもかかわらず停車しなかった

④ ①~③によって人を負傷・死亡させた

 

赤信号を殊更に無視するとは?

赤信号を殊更に無視するとは、対面信号が赤色であることを確定的に認識していたことを意味します。

 

黄色信号から赤色信号への変わり際に、「もしかしたら赤色信号になるかもしれないが、それならそれでいい。」と認識していた場合も、赤色信号であることの未必の故意が認められますが、未必の故意では、「殊更に」無視したことにはなりません。

故意とは?確定的故意と未必の故意について弁護士が解説

 

未必の故意で赤信号を無視して人を死傷させた場合は、人身事故については過失運転致死傷、信号無視については道路交通法違反が成立するにとどまります。

 

赤信号を確定的に認識していなかったとしても、「およそ信号の色を気にすることなく、赤信号であろうがなかろうが交差点に進入するつもりで、赤信号で停車せず交差点に進入した行為」も赤信号を殊更に無視したとされています。

 

パトカーに追いかけられて、信号の色を気にすることなく赤信号を通過して交差点に進入したケースがこれにあたります。

 

重大な交通の危険を生じさせる速度とは?

重大な交通の危険を生じさせる速度とは、最高裁の判例で時速20キロ前後とされています。

 

「たった20キロで?」と思われるかもしれませんが、赤信号を無視して交差点につっこんだ場合は、交差道路の車はかなりのスピードで走行しているのが通常ですから、時速20キロ程度でも、重大な交通の危険が生じるといえるからです。

 

停止線の手前で停車できなくても危険運転致死傷になる?

赤信号の前には停止線がありますが、赤信号に気づいた時点で停止線の手前で止まれなければ、危険運転致死傷にはならないのでしょうか?

 

停止線の手前でとまれなかったからやむを得ず信号無視をしたのであり、「殊更に」信号無視をしたとはいえないようにも思えます。

 

しかし、たとえ停止線の手前で車を止めることができなかったとしても、停止線を少し越えた場所(交差点の手前)で停止することができ、そうすることによって人身事故を防げたのであれば、交差点に進入すべきではなかったといえます。

 

そのため、たとえ停止線の手前で停車することができなかったとしても、事故の危険が生じない場所に停車できるにもかかわらず、あえて交差点に進入した場合は、赤信号を「殊更に無視」したといえ、危険運転致死傷が成立します。

 

法令でも黄色信号については、信号が表示された時点で車が停止線に迫っており、安全に停止できない場合は、そのまま走行してよいと規定されていますが、赤信号にはそのような例外規定がありません。

 

もっとも、赤信号に気づいた時点で既に交差点に差し掛かっており、急ブレーキをかけたとしても交差点の真ん中に停止せざるを得ないような場合は、ブレーキをかけずに交差点に進入しても「殊更に」信号無視をしたとはいえないケースが多いでしょう。

 

赤信号無視による危険運転致死傷と弁護士

赤信号無視による危険運転致死傷で検挙された場合は、そのまま逮捕されてしまうことが多いです。ただ、被害者のケガが重傷ではない限り、適切な弁護活動により、早期の釈放にもちこめる余地は十分にあります。

 

赤信号無視による危険運転致死傷のケースでは、「赤信号についての確定的な認識があったかどうか」、「安全な場所に停車することが可能であると認識していたかどうか。」が問題になることが多いです。

 

捜査機関は、被疑者を逮捕してすぐに、「赤信号だとはっきりわかっていました。」、「安全な場所に停車することができると思っていました。」という内容の自白調書を作成し、それに沿う形で実況見分を実施します。

 

そこまでされてしまうと、刑事裁判で危険運転致死傷の成否を争うことは困難になります。そのため、早期に刑事事件の経験豊富な弁護士を選任した方がよいでしょう。

 

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